第127話

 りおんには、エレノアの目と意思が、自分を通り越して背後に佇む存在し得ない「何か」にエレノア自身の全てをその眼差しと声に託していると感じた……。


 故に「真意」をエレノアに問おうとは思わなかった。




「また話が逸れてしまいましたが……評議院によるりおんさんに対する処分は以上です……」


「はい……」


「期限は今のところ未定です……最低1ヶ月は続くと思って下さい……評議院から処分解除の通達があれば、私からお伝えします……」


「わかりました……」


「通常なら、ポーターも凍結、評議院預かりになるのですが、その辺は私が上手く言っておきます」


「大丈夫なんですか……」


「私もその程度のごまかすすべは心得ています……ですから、心配はいりません……私からの話はこれで終わりです……」


「お気遣い、ありがとうございます……失礼します……」


 りおんは神妙に頭を下げた……。




「どうしてこんな事を……と、聞かないのですね……」


「まぁ、世の中って意外と不条理ですから……」


 りおんはそう言い、エレノアに背中を向け歩き出す……。






「魔法少女になった事を、後悔していますか……」


 りおんが、進路指導室を出ようと引き戸に手をかけた時、エレノアが正す様に言った……。




「後悔はしてません……リンスやエレノア先生から見れば、わたしなんていい加減な魔法少女になるんでしょうね……」


「でも、それがわたしなんです……適当で曖昧で使命感も希薄な魔法少女です……最初の頃は、普通が良くて面倒だなぁって思う事もありましたけど、最近はこんな人生もいいなぁって感じるんです……だから、後悔はありません……」


「りおんさん……」




「後悔なんて、女々しい男がするものですよ……わたし達は起こった事を受け入れ、前へ進む……そうじゃないですか……エレノア先生……」


「それがわたし達……少女……」


「それがわたし達……女ですよね……」


 終始、僅かにエレノアに躰を向けたりおんは、少女とは言いがたい言葉を紡ぎ、言い終わると静かに引き戸を開け、静かに引き戸を閉め、進路指導室を後にした……。


 思いがけない少女の「意志」に、エレノアの魂は揺さぶられ、躰は熱を帯びた……。

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