第124話

「あっ……いえ、結構です……」


 たどたどしく答えるりおん。


 実際、ひと口しか啜っていないりおんのティーカップ。


 それを見越しての「嫌がらせ」なのか……。


 自分を嫌っているのか、いないのか……心の「色眼鏡」を外し、新調した眼鏡のレンズを透し、りおんの瞳はエレノアの真意を探る……。


 細くしなやかだが、適度に肉のついた足を組み直し、再び紅茶を楽しみながらふたりを見つめるエレノア……。


 意図して何も語らないのか……やはりこの静寂も嫌がらせの一種なのか……。


 りおんもエレノアも、しばらくステッキさんとオフェリアを見つめる……りおんにとって悶々とした時間が続く……ひょっとしたら、エレノアも同じ気持ちなのか……と、思いながら……。




「エレノア……終わりました……」


 発光が消えると同時にオフェリアが簡素に言った。


「またお逢いしましょう……」


「う、うむ……」


 意味深な言葉をステッキさんに告げるオフェリア。


「ご苦労様……オフェリア……」


 労いの言葉をかけ「すぅっと」官能的な指先を動かし、空間に切れ目を入れるエレノア……マリカのそれとは異なり、あくまで上品な仕草と切れ口で「格」の違いを見せつける……。


 オフェリアが「異空間」へ戻り、跡形もなく切れ目が消える……では登場した時は、何処かに身を潜めていたのか……りおんの疑念は迷走する。


 エレノアとオフェリアの信頼関係が生み出す淀みない工程……。


 対して、自分とステッキさんの信頼関係は……。


 心をしかめた……。


 魔法少女としての佇まいが「稚拙」だ……。


 エレノアからの現実を突きつけられ、りおんの魂は萎縮する。


 構わずエレノアは立ち上がり、窓辺に歩を進め、レースカーテンをめくり、外の景色に視線を流す。




「私の事が……嫌いですか……」


「いいえっ……そんな事ありません……」


 不意を突かれたりおんは、反射的に立ち上がり、上擦った声で答えた……。


「うふふふっ……そうですか……」


 おそらく「本心」が言わせたりおんをエレノアは優しく見つめ、はにかむ……。




「あのう、エレノア先生……」


「何ですか……」




「その……リンスいえ、リンスロットさんとは仲が悪いのですか……」


「そう見えますか……」


 空間が幾分か締まり、エレノアの目が研ぎ澄まされる。


「確かに、普通の姉妹関係とは異なるかもしれませんね……歳が離れているのも、そう見えてしまう一因でしょうか……」




「でも、そんなものですよ……ロナール家では」


 少し間を置き、再び視線を外に向けたエレノアは、涼しげに寂しさを含ませて言った……。

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