第119話

 そして9月も最終日……。


 クラスを代表して、りおんとひばりは千羽鶴と寄せ書きを携え、鏡花の自宅を訪ねた。




「いらっしゃい……」


 既に「母親」を彷彿とさせる風格でふたりを出迎える鏡花。


 強引とも思えるエレノアの「割り込み」にも、わかっていたかの様に笑顔で包み、相応の仕草を施す。


 エレノアの背後で蠢く思惑を、その仕草にさらりと滲ませて……。


 千羽鶴と寄せ書きを渡した鏡花の反応は、りおん達の予想の遥か上をゆくまるで「少女」の悦びを惜しげもなく振りまいたものだった。


 普段のちょっと厳しい鏡花の趣とは異なる表現……透明な「純水」が彼女の瞳を潤わせている景色をりおんは眺め、母親になろうとする鏡花を魂が羨む……。


 鏡花手作りのシフォンケーキを堪能しながら、色々な話に花が咲く……。


 更に大きくなったお腹を交互にさすり、手のひらから伝わる新たな生命の鼓動を躰に染み込ませるりおんとひばり。




「色々と納得できない事はあるでしょうが、エレノアさんを悪く言わないでね……それと、みんなでリンスロットさんを気遣ってあげて……」


 帰り際、鏡花はふたりにお願い事をする眼差しで言った……。


 事実、エレノアに対するクラスの感情は割れている。


 容認、懐疑、何も語らず……そして「中立」……。


 クラスの大半は、かつて「最強」だったエレノアを憧れ、慕う……しかしその憧れは、あの時の「事実」を知らない前提の上でのものであり、実際彼女達は「嘘」の事実を信じ、エレノアを慕う……。


 一方で、キャサリン、ドロシーなど一部の「事実」を知る者達は、エレノア自身を悪くは言わないが、彼女を覆う「黒い大人」の存在を訝しむ。


 最も「真実」に近い欧州カルテットは、だんまりを決め込む……。


 リンスロットに至っては、突然姉が目の前に現れ「威厳」を示され、様々なクラスメイトの目に晒されて何処か心が落ち着かず、不安定に見える……。


 日本という「平和ボケ」した環境に身を置くりおんとひばりは、こうした相反する思念が混ざり合った教室内では、中立という立場を取らざるをえなかった。


 その空気を、エレノアが現れる度に、美し過ぎる容姿と高潔なる魂が、淀んだ念を吹き飛ばし……浄化する……。






 10月に入ったとある夜……。


 久々に「ご指名」を受けたりおんが中軌道へ急ぐ。




「遅いですわよ……りおん」


「そっか、今回はリンスとペアーか」


「その様ですわね……」


 最近になって落ち着きを取り戻したリンスロットがシルフィを携え、りおんを見据える。

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