第115話

 散々、自分勝手に振る舞いながら、マリカは引き戸を開け「チョリーンすっ」とギャルな決めポーズを振り撒き、思い切り引き戸を閉めながらも、最後はドアクローザーの如く「丁寧」に扉を閉めきって去って行った……。






『ほっ……』


 クラス全員の「総意」が、安堵のため息となって乱れた空気の流れを整えてゆく……。






「んもぅ、大事な用件は初めにちゃんと言ってよ」


 いつもの帰り道、いつものタワーマンションが視界に入るタイミングで、鞄から顔を覗かせたステッキさんに、りおんは不満を漏らす。


「面目ない……りおん……」


 妙に素直なステッキさんが、魔法少女年金制度を遅ればせながらりおんに説明する。


 加入期間……魔法少女認定から3年間……。


 現役、予備役、退役あるいは引退にかかわらず、20歳から受給可能……受給期間は、本人が受給辞退した時点まで、もしくは本人死亡時までと規定されている……掛け金は月額150ドル。


 受給金額のモデルケースとして、月額5千ドルが支給され、3年毎ごとの「労使交渉」によって支給額が改訂される……。


 ドル、ユーロ、円……直下の労使交渉で、元建てでの掛け金支払いと支給を選択でき「現状世界」の為替レートとリンクする。


 月ごとの支給通貨変更または、掛け金と支給時の通貨の変更……一例としてドルで掛け金を支払い、ユーロで支給額を受け取るという事は可能だが、それをする者は、少ない……。


 比率からすれば、ドル建て支払い、支給が6割、ユーロ、円建てが2割づつとなり、中国の魔法少女が輩出されていない事もあって、元建て支払い、支給は現時点において誰も選択していない……数年かけたロビー活動と、国力の「ごり推し」で元建てが認可された中国にとっては「将来」に向けた投資なのだろう……。


 ちなみに、りおんもひばりも、円建てを選択している……もっとも、りおんの場合は勝手にステッキさんが円建てを選択してしまっているが……。


 故に新興国、途上国出身の魔法少女達からすれば、月額5千ドルの「魅力」は自ずと先進国出身の魔法少女達とは意味合いと価値が異なる……。




「まぁ、ざっとこんな感じだ……」


「ふぅん、なるほどねぇ……意外と一般社会と変わらないんだね……」


「ある意味、命懸けなのだから当然と言えば当然の制度だ……それでも額が少ないと訴える魔法少女やポーターも少なからずいるがな……」


 と、もっともらしい事を言うステッキさんだが、魔法少女認定時に「御祝い金」として既に5万ドル支給されている事実をりおんに隠し、知られない様にしている……何故、そうしているのかは不明である。


「だから、3年毎の交渉次第って事なんだ……」


「そうだ……これでも、前回の交渉で支給額は微増している」


「まっ、わたしはその交渉にはかかわる事はないと思うから、お任せって感じで……それでステッキさん、マリカさんの件だけど……」

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