第53話

「月下さん、そんなに捲し立てても……あの、つまりねりおんさん、まさか初陣で許可もなくスペースデブリを全て片付けてしまって……」


「はぁ……」


「それで愛称がつけられたの……これって誰にでも得られるものではないんですよ……」


「いやぁ、ひばり様……ちょこっと浮いてわたしを見下ろしてそんな事を言われても……」




「その愛称……ちょっと微妙……」


 愛称を与えられる「名誉」を説くひばりに、得をした気分になれないりおんは、眉をひきつらせながら、呟く……。




「あなた達、何をなさっているの……!」


 姿は見えないのに、急かすリンスロットの声がふたりに届く……。


「急ぎましょうか、りおんさん……」


「わ、わかりましたひばり様……んじゃ、ステッキさん」


「うむ……」


 飛行魔法を起動させたりおんの躰が浮く……。


「その事……聞き覚えがあるなぁ……」


 月下美人が、過去の風景を懐かしむ様に言った。


「久しいな月下美人……ひばりがお前を継承したか……」


 何もかも、わかった口ぶりで黄昏るステッキさん。




「りおん……ふふっ、そうか、あの女の……」


「そうだ……」


「ってか、今も昔も正式名称で呼ばれないなんて、あんたも虐げられているわねぇ……」


「それが私の定めなのだ……古い名など、もう忘れてしまったさ……」


「キザったらしい……まぁいいわ……んで、りおんちゃんは使えるんだろうねっ……」


 月下美人が厳しく問う……。


 ステッキさんと月下美人との会話は、互いの意識を介している為、りおんやひばりには聞こえてはいない……。


「確かにりおんは適当だが、その力をみくびらない方がいいぞ……」


 りおんの「潜在能力」を感じ、信じるステッキさんが、魂を込めて言う……。


「ほぉう、自信があるんだねぇ……それじゃぁこれからじっくり品定めしますか……」


 口悪い表現で総括する月下美人だが「彼」が確信し契約したりおんに、あの女の佇まいを重ねて、時の流れを懐かしみ、楽しんでいる風な想いが僅かに語尾に含まれ、空に流れる……。


 想いを解析したステッキさんは、黙って「口元」を緩めた……。




「やっと来ましたわね……」


 既に魔法少女になっているリンスロットとキャサリン……。


「んじゃひばりとりおん、ちゃっちゃと変身しちゃって……」


 キャサリンが急かす。


「はぁ、まさかとは思ったけど……あそこへ行くんだぁ……」


 ふたりの姿を見たりおんが、脱力感たっぷりに気持ちを示した……。




「お腹……空いたなぁ〜〜……」

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