第34話

「んで……どうしてついて来るの……」


 肩がけの通学鞄の中に、縮小サイズで隠れていたステッキさんを怪訝に見下ろし、りおんは言う。


「それは……んまぁポーターとはそういうものだからだ……」


 僅かにファスナーを開けた隙間からステッキさんが小声で返す。


「いやいや、ついてきたらかえって面倒な事にならないかなぁ……」


「その辺はわきまえている……心配するなりおん」


「ホントかなぁ……っていうか、制服に着替えてる時、またわたしの裸を見てたよね……」


「いやらしいのはわかっている……性分だ」


「まぁ、もう慣れたからいいけど……」


「そんな事より、さっきから曲がり角にさしかかる度にそわそわしているが、どうしたんだ……」


 りおんの瞳が星型に輝いた……。


「そりゃぁステッキさん、遅刻イベントだよぅ」


「な、何だそれは……」


「ほらほらっ……寝坊して食パンくわえた女の子が遅刻遅刻ぅ〜って走って、曲がり角でわたしとぶつかってその衝撃波が街を、地球を呑み込んでゆくお馴染みのイベントの事だよっ」


「それで、学校に着いて教室に入ったら、何故かわたしの隣の席が空席でホームルームが始まると先生が転校生を紹介しますって……んで、その転校生はさっきぶつかったあの女の子っ」


「随分とご都合主義な展開だな……」


「まだ制服が間に合ってなかったから、転校生ってわからなかったんだよねぇ……みたいなドキドキな展開を待ってるんだけどなぁ……」


 早口で捲し立て、興奮気味のりおん……。


「何なら、わたしからぶつかってもいいよ……」


 りおんは鞄の別のファスナーを開け、用意していた食パンを取り出す。


「何をやっているりおん……それを早くしまえ」


 ステッキさんが、りおんの上気を冷ます。


「どうしてイベントに拘る……」


「だってさあ〜、ここまで基本わたしとステッキさんしか登場人物いないじゃない……」


「それは……」


「もう既に1話切りされてるけど、何これ……?設定は微妙だし、キャラも立たないし、変なネタねじ込んで、物語の展開はショボいしイマイチだなぁ」


「読まなくてもいいか……」




「怖い、怖いよぅ……そうなる前に、大胆な路線変更もしくは、キャラ大量追加もありかなぁって」


「今更、路線変更は無理だろう……」


 苦言を呈するステッキさん。




「ふふっ、全く……この俺を本気にさせたな」


 急に声を低く変えるりおん……。


「ど、どうしたりおん……」




「その生意気な唇……塞いでやるよ……」


「りお〜〜ん、何言ってるんだ……」

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