第33話
「そ、そんなものか……」
「それと、電源ケーブルも替えてるからね……そんなたいした額のケーブルじゃないけど、音は激変するんだよっ」
「わ、わかったりおん……そろそろ朝食を食べないと学校に遅刻するぞ」
「おっと危ない危ないっ……」
「その前に、すぐ済むからりおん、給与明細を確認してくれ」
タブレットを出現させ、りおんに差し出すステッキさん……。
「そっか、バイト代だね……どれどれっと……」
眼鏡を直し、画面をスクロールするりおん。
「え〜っと、基本時給に労働時間……わたしの裸に……おっ、特別手当がまさかの満額回答っ。それで、合計支給額が……ふむふむ……うっ、ちゃんと税金、引かれるんだ……」
「非合法とはいえ、りおんも立派な労働者だ……それに、年末調整もあるかもしれないからな。これで問題なければ、承認枠をタップしろ」
「引かれた税金は何処へ行くんだか……まぁいいや……わかった……」
確認枠をタップしたりおん……。
『チ〜〜〜〜ン』
『お疲れ様でした……』
昔懐かしいレジの鳴き声と、例の女性の声がりおんを労う……。
画面が歪み、現金の入った封筒が「異空間」から現れる。
「ありがとうございます……」
恭しく封筒を受け取るりおん……。
自らの「労働」としての対価……封を切ると、仄かに漂う新札と新硬貨が絡み合った匂い……。
「初給料で何を買う……」
「もう……今そんな下世話な事言わないでよ……」
封筒を胸元に引き寄せ、りおんは厳粛さと優しさを融合させた想いをステッキさんに注いだ……。
「って、遅刻しちゃうよ……んじゃステッキさん、留守番よろしくね……」
封筒を急ぎクローゼットの奥にある秘密の箱にしまい、部屋を出てゆくりおん……。
「行ってらっしゃい……りおん……」
りおんの「暴挙」に監理局は寛大だった……。
ステッキさんが最も恐れていたりおんに対する魔法遺伝子永久封印措置及び、魔法少女資格永久剥奪に記憶消去という「最大級」の罰則も適用される事もなく、ポーター資格停止を覚悟していたステッキさんでさえ、単なる国連への有り体な罰則として「あの」お茶を数杯吞み干すだけの彼にとっては「ごく普通」の習慣で決着し、ふたりの行為はこれ以上咎められる事はなかった……。
実際、監理局内部ではりおん達を支持する意見が多数を占めた。
デブリ消去の提案をのらりくらりと棚上げにする国連……業を煮やした監理局は、密かに特別魔法執行を発動する準備を進めていた……。
意外にも、最も積極的に動いたのが各国政府、国連から派遣された者達であるという事実は、皮肉ではある……。
その矢先の「暴挙」……。
暴挙から抗議、裏国連会議……監理局と国連、各国政府との駆け引き……時限式記憶消去魔法執行の承認……。
のらりくらりとは真逆の迅速な「処理」……。
世界は「柔軟」で狡賢い……。
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