第7話

「うえええぇぇぇん……」


 絶望的に言い放ち、嗚咽し、マットレスに躰を投げ、しなだれてみせるりおん……。


「いやいや、そんな事しませんよ……」


「ホントに?」


 首だけステッキさんの方向に僅かに向け、問う。


「いやぁりおんさん、逆にお願いしますよぅ……」


「よいしょっと……」


 ふっ切れた様にりおんは言い、しなだれた躰を解き、身を起こす。


「立ち直りが早いな……」


「だって、ここまでやっても諦めて帰ってくれないんだもん……」


「そりゃぁ私にも営業ノルマがあるからね……」


「まだそのネタ引っ張るんだ」


「真面目な話、魔法遺伝子を持つ少女は希少だから、必死にもなるさ……」


「わかったよ……きりがないから魔法少女になってあげる。それで『ほらよお茶……雑巾一番搾り味』のお茶、飲まなくて済むんでしょ……」


「はぁいっ……」


「んで、これからわたし、どうしたらいいの?」


「それではりおんさん……こちらを観て頂けますか」


 かしこまった物言いで、ステッキさんは身をよじらせてタブレットを「召喚」させ、りおんに渡す。




「何を観るの?」


「魔法少女のカタログみたいなものだ……」


「カタログ?」


「どんな衣装……どんな魔法少女になりたいか……とか」


「ほぅ……」


「りおんも魔法少女になる訳だから、こんなコスチュームを纏い、なりたい魔法少女像がある筈だが」


「う〜〜ん、特にないし……」


 小首を傾げるりおん……。


「ガクッ……つれないなぁ、魔法少女っていったら女の子の憧れの職業じゃないっすか……その憧れの存在にりおんはなれるってのに、全くつれないなぁ……」


 地団駄を踏み、悔しそうにりおんを見つめるステッキさん……。


「そもそも職業じゃないし……憧れてもないけど、まぁ一応観てみますか……」


 タブレットの電源を入れ、画面をスワイプするりおん……。




「あれっ?確かカタログって聞いてたけど、ステッキさん……」


「うっ……」


「スワイプしても、ページめくれないし、1番、2番、3番って枠しか画面に表示されないんですけど……」


「ギクッ……」


 ステッキさんから冷や汗が滴り落ちる……。


「あれぇ、これってつまり3枠しか選択肢がないって事だね……カ、タ、ロ、グと言いつつ……」


「ま、まぁ落ち着けりおん……確かにラインナップは少ないが、私が厳選した珠玉の3種類だから失望はさせないさ……」


 冷や汗をぬぐいながら、表現と声を誇張したステッキさんはりおんに迫った……。


「もう……はいはい……」


 また煙に巻く言い方で……少し呆れつつも僅かな期待を込めて、りおんは1番の枠をタップした……。


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