天空の乙女と皇帝と私
ヴェルヘルムがベイゼルム王国に来てから約1ヶ月程経った。
その間にヴェルヘルムはベイゼルム王国の交易を担当している幹部と何度も打ち合わせをし、そしてお互いの国にとって利益にある交易の契約を交わしたらしい。
さらに王侯貴族が主催する夜会等にも出席しそこで有力者との親睦を深め繋がりをもったとか。
そうしてヴェルヘルムは皇帝としての役割を果たしそろそろ帰国する話が出始めてきたのである。
そうなると不本意であるが、ヴェルヘルムの婚約者にされてしまっている私の身の振り方を考えなければいけなくなってきたのだ。
(う~ん、さすがにそろそろどうにかしないとこのままランドリック帝国に連れていかれてしまうな・・・でも一体どうすれば・・・)
ヴェルヘルムの回りが慌ただしく帰国の準備を始めている様子を見て、私はどうしたものかと困っていたのである。
そんなある日、ヴェルヘルムが私の部屋にきて今後の事を話すついでに長椅子に座りお茶を飲んで寛いでいた。
「セシリア、俺の国に持っていく物は必要最低限の物で良いからな。大体の物は俺の国で用意させてある。どうしても持っていきたい物を選んでおくように」
「あ、あの・・・何度も言っていますが私はヴェルヘルムの国に行くつもりは無いのですが・・・」
「まだ言っているのか。いい加減諦めろ」
「いや、諦められるならこんな事言いませんよ!」
「俺はお前との婚約を破棄するつもりは無い」
「・・・どうしてそこまで私に固執するのですか?正直私などよりヴェルヘルムに相応しい方が他にもいると思うのですが・・・」
私はそう言いながらこのゲームのヒロインであるニーナの顔を思い浮かべたのだ。
「そんなのは決まっている。俺はセシリアを・・・」
突然ヴェルヘルムが真剣な表情になりじっと私を見つめながら何かを言い掛けたその時、部屋の扉をノックする音が聞こえ続いてそこからニーナが入ってきたのである。
「あら、ニーナいらっしゃい。どうかされたのですか?」
「セシリア様・・・お話し中に申し訳ありません。ですがどうしてもセシリア様にご相談したい事がありまして・・・」
「私に相談?良いですよ。さあ立っているのもあれですからこちらに座ってください。・・・あ、ヴェルヘルムすみません。何か言い掛けていたようですが・・・良かったでしょうか?」
「・・・・・別に今でなくとも問題ない。先にニーナ嬢の話を聞いてやれ」
ヴェルヘルムが居るのに勝手に話を進めてしまった事に気が付き、私は慌ててヴェルヘルムに断りを入れると何故かヴェルヘルムは何とも言えない表情でため息を吐き、椅子の背にぐったりともたれ掛かってしまった。
そんなヴェルヘルムを私は不思議そうに見ながらも、まだ戸惑っているニーナを手招きして私の隣に座るように指示したのだ。
しかし私はそこでハッとし、これはニーナとヴェルヘルムの距離を縮めるチャンスなのではと気が付いたのである。
(そうなると・・・まず先に確認しておかなければいけない重要な事が)
私はそう思い腰を浮かして向かいに座るヴェルヘルムに顔を寄せ小声で話し掛けた。
「ヴェルヘルム・・・確認したい事があるのですが?」
「・・・何だ?」
「・・・ヴェルヘルムはまだ女性を子供を産む為だけの存在と思っているのですか?」
「・・・いや。お前を見て考えが変わった。だから安心して俺にとつ・・・」
「ああ良かったです!これで安心して引き合わせられますね!!」
「お前は一体何を言って・・・」
「さあさあニーナ、遠慮しないで座ってください!あ、何でしたら私は席を外しましょうか?」
ヴェルヘルムの考えを聞いて安心した私は上機嫌で戸惑っているニーナの腕を取り椅子に座らせると、代わりに私が椅子から立ち上がろうとしたのだ。
しかしそんな私の腕をニーナが掴み引き止めたのである。
「セ、セシリア様!!私はセシリア様にご相談があってきたのですよ!?それなのにセシリア様がいなくなってしまわれたら全く意味がありません!!」
「あ、そうでした」
ニーナに言われすっかり『お邪魔虫は退散します』的な気分になっていた私は、苦笑いを浮かべながら再び椅子に座り直した。
そんな私をヴェルヘルムは呆れた表情で見ていたのである。
「ゴホン。そ、それでニーナは私に何の相談があるのですか?」
「あ、はい。実は一週間後に天空の乙女としての儀式が行われるのですが、それに私のパートナーとしてセシリア様にご参加お願いしたいのです」
「・・・ああそう言えばそんな儀式があるとお父様に聞いていましたね。でもどうして今回は全員を集めての話し合いでは無かったのでしょう?」
「それは・・・もう司祭様もラインハルト様も私が誰を選ばれるか分かっていらっしゃったので、私に直接頼みに行くように言われてしまったのです」
「そう言う事ですか・・・」
もうお父様も司祭も全員を集めるのが時間の無駄だと判断したのだと察し、私はただただ苦笑いを浮かべるしかなかったのだ。
「それでセシリア様・・・どうでしょうか?」
「ああ、うん。もうここまできたなら最後までやらせて頂きますよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
ニーナはそう言ってとても嬉しそうな顔で私の手を握ってきたのである。
(それにしても・・・確かゲームでは本来この儀式も攻略対象者が相手になるはずだったんだよな・・・・・あ!そうだ!!)
私はある考えが頭に閃きにっこりと微笑みながら私の手を握っているニーナに提案したのだ。
「ねえニーナ・・・私がパートナーを務める事は勿論全然構わないのですが、せっかくですしヴェルヘルムにパートナーをして頂いたらどうでしょう?」
「え?」
「ヴェルヘルムはまだニーナの天空の乙女としてのお務め姿を見ていないですし、他の皆さんと違って関わりが少ないですのでこの機会に経験して頂くのも良いかと思いまして」
そしてそれを切っ掛けに二人の仲が深まれば私との婚約を破棄してもらえるだろうし、ニーナも本来の攻略対象者と結ばれて幸せになるだろうと思ったのである。
そのとても良い考えに私はにこにこしながら返事を待っていると、ニーナとヴェルヘルムが同時に大きなため息を吐いた。
私はその二人の反応に困惑し二人を交互に見ると、何故か二人は私を見ながら呆れた表情になっていたのだ。
「・・・セシリア、お前は一体何をしたいのだ?もしや俺とニーナ嬢をくっつけようと考えているのでは無いよな?」
「うっ!そ、それは・・・」
「セシリア様・・・私の気持ちは前にもお話致しました通りです。ですがそのようにされますとさすがに悲しいです・・・」
そう言ってニーナは悲しそうな顔で私の手を離し落ち込んでしまった。
そんなニーナを見て私は慌てたのである。
「ご、ごめんなさい!!ニーナを悲しませるつもりはなかったのです!ただ私はニーナの幸せを願って・・・」
「でしたら、儀式のパートナーはセシリア様がしてください!!」
「う、うん!分かりました!!私がやらせて頂きます!ですからそんな泣きそうな顔はしないでください!!」
今にも泣きそうなニーナの顔を見て私は焦りながらパートナーを務める事を約束したのだ。
するとみるみるうちにニーナは笑顔になり溢れ落ちそうになっていた涙を指で拭ったのである。
そんなニーナの様子を見てホッとしていると今度はヴェルヘルムが私に話し掛けてきたのだ。
「一体どう考えたらそんな考えになったのかは俺には分からないが、とりあえず冷静になったようだな」
「は、はい・・・」
「まあそもそも俺はそのような役目をやるつもりなど全くなかったがな。だが相手がセシリアであれば話は別だが」
「いや、私は天空の乙女では無いですので・・・」
「分かっている。しかし・・・その儀式と言うのには興味があるな。ニーナ嬢よその儀式を見学する事は出来るか?」
「え?・・・ごめんなさい。それはさすがに私ではお答え出来かねません。ですが一度司祭様にお聞きしましょうか?」
「ああ頼む」
「分かりました」
そうしてニーナはもう一度私にお礼を言って部屋から出ていき、その後司祭の許可が下りてヴェルヘルムも当日儀式を見学しにくる事が決定したのであった。
儀式当日─────。
私はヴェルヘルムと共にニーナの控え室に入っていったのだ。
「ニーナ、少し遅くなってしまいましてすみません」
「いいえ、大丈夫です」
準備に手間取り少し到着が遅れた事をニーナに謝ると、ニーナは部屋の奥から巫女の衣装を身にまとった姿で現れ微笑んでくれたのである。
(うぉぉぉぉぉ!!やっぱりニーナの巫女姿は最強に可愛い!!本当によく似合うな~)
そうニーナの姿を見ながらうっとりとしていると、その私の視線を受けてニーナが頬をほんのりと赤らめながら恥ずかしそうにしたのだ。
私はその様子を見て悶絶しそうになるのを必死に我慢していた。
「ほぉ~」
すると私の隣に立っているヴェルヘルムの口から感嘆の声が漏れたのである。
その声を聞き私はすぐにヴェルヘルムの顔を見た。
そしてヴェルヘルムがじっとニーナの姿を見つめている様子を見て私は期待に胸を踊らせていたのだ。
(おお!これはニーナの可憐な姿を見て心奪われているのでは!!)
私はそう確信して思わず顔がにやけそうになったがそれも頑張って抑えたのだった。
「・・・ニーナ嬢よ。その衣装よく似合っているな」
「え?あ、ありがとうございます」
「ところで・・・その衣装はまだもう一着あるか?」
「え?ありますけど・・・」
「ならば今それを借りれるか?」
「ヴェルヘルム、一体それをどうする・・・ハッ!まさか!!」
突然のヴェルヘルムの言動に私は戸惑いそしてある考えが浮かんだのである。
ヴェルヘルムが巫女の衣装を着てはにかんでいる姿が。
しかし男性であるヴェルヘルムの体には小さ過ぎたようで衣装がピッチピッチだった。
そんな姿が頭に浮かび何とも言えない表情を浮かべていると、ヴェルヘルムは無表情で目を細めガッシリと私の頭を天辺から掴んできたのである。
「い、痛いです!!!」
「セシリアよ、どうせくだらない事を考えていたのだろう」
「い、いえ!少し手直しをすればヴェルヘルムでも着れますよ!!大丈夫きっとお似合いに・・・いたたたた!!!」
ヴェルヘルムは無言で掴んでいた手の力を強めてきたのだ。
「・・・やはり馬鹿な事を考えていたか。俺が着るわけがなかろう!!」
「で、では誰に・・・あ!アンジェリカ姫にですか?う~ん、ちょっとアンジェリカ姫では可憐な感じにはなりませんが、逆に妖艶な感じで似合いそうですね!」
「はぁ~どうしたらそんな考えになるのだ」
呆れたため息を吐きながらヴェルヘルムは私の頭から手を離してくれたのである。
私は痛む頭を両手で押さえながらヴェルヘルムの方を伺い見た。
「では・・・あ!まさかのノエル・・・」
「また掴まれたいか!」
「い、いえ!!」
「セシリア、お前に着せる為に借りるのだ。今から着替えてこい」
「え!?」
まさかのヴェルヘルムの言葉に私は驚きの声を上げたのだ。
「まあ!それは私も是非とも見てみたいです!!」
「ちょっ、ニーナ何を言ってるのですか!?さすがに巫女衣装を着た女性二人で儀式に望むわけには・・・」
「パートナーが着てはいけない決まりなどあるのか?」
ヴェルヘルムはニーナ付きの女性神官の二人に問い掛けると、二人は戸惑いながらも顔を見合せそしてヴェルヘルムに向かって首を横に振ったのである。
「ならば何も問題ないな」
「ええそうですね」
「いえいえ!問題ありまくりだと思いますよ!?」
「セシリア様、大丈夫ですよ。きっとお似合いになりますから!さあさあお着替えお手伝い致しますね!」
そうして楽しそうに笑うニーナに引きずられるように奥の着替え室に連れていかれてしまったのだった。
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