契約結婚
「セシリア様!!!」
「え?え?レイティア様!?」
部屋で寛いでいた所突然レイティア様が部屋に駆け込んできて、そのまま座っていた私の膝を抱くように顔を埋めてきたのである。
そんなレイティア様の様子に私は戸惑い私の膝に顔を埋めているレイティア様を呆然と見つめた。
「い、一体どうされたのですか!?」
私はそう言ってレイティア様の肩に手を置きとりあえず説明を求めたのだ。
するとレイティア様はゆっくりと顔を上げ目を潤ませながら真剣な表情で私を見上げてきたのである。
「セシリア様・・・・・わたくしと駆け落ちして頂けませんか!!」
「・・・・・・・・はぃ?」
「ですから!わたくしと駆け落ちして頂きたいのですわ!!」
「いやいや、さすがに意味が分かりませんから!!何故突然駆け落ちのお話になるのですか!?そもそも女性同士で駆け落ちって・・・とりあえずレイティア様落ち着いてください。そして一からちゃんと説明をお願いします!!」
そうして今すぐにでも私を連れて駆け落ちをしそうな雰囲気のレイティア様をなんとか落ち着かせ、人払いをした状態で私の横に座らせるととりあえず事情を説明してもらう事になったのである。
「実はわたくし・・・意に沿わない方と強制的に結婚させられそうになっていますの」
「え!?」
「驚かれるのも無理はありませんわ。だってわたくしもつい先ほどお父様から聞かされたのですもの」
「レイティア様・・・確かに貴女のお父様であられるダイハリア侯爵は、貴女を有力な貴族と結婚させようと動いてはいましたが・・・さすがに強制的な結婚までさせる程強引な方では無かったと思われますが?」
「ええ、お父様はいつもわたくしを色んな方とお引き合わせ、その中で誰かいい人がいないか見付けてくださろうとしていいたのですが、それでもわたくしが嫌だと断れば無理強いはなされなかったのです。ですがお父様・・・少し前から貴族が集まるサロンに良く行かれるようになり、そこである男性とお知り合いになったそうなのです。そしてその場でその方と意気投合しお二人でお会いする事が何度かあったとか。しかしそんなお二人だけでお酒を飲んで楽しくお話をしていたある日の事・・・お父様は上機嫌でそのお相手から勧められるまま沢山お酒を飲んでしまい途中から記憶がなくなっていたそうで・・・そして気が付いた時にはその方とある契約書を交わしてしまっていたそうなのです」
「ある契約書?」
「はい・・・わたくしをその方の妻に差し出すと言う契約書だったとお聞きしました」
「・・・は?何ですかその契約書は!?」
「お父様もその契約書を見て驚き慌てて撤回を申し出たそうなのですが・・・聞き入れて貰えなかったそうです。そこで漸くお父様は全て仕組まれた事だと気が付いたのですが、しっかりとお父様の直筆のサインが書かれた契約書だったものでもうどうする事も出来なかったとお聞きしました」
そう言いながらレイティア様は酷く落ち込み膝の上に置いていた自分の手をぎゅっと強く握りしめていた。
そんなレイティア様を見て私は胸が締め付けられたように苦しくなったのである。
「レイティア様・・・私で力になれる事があればお助けするのですが・・・」
「っ!ですからわたくしと駆け落ちして頂きたいのですわ!!」
「いや、さすがにそれは根本的に解決にはなっていませんしそれにレイティア様がいなくなった場合、残されたダイハリア侯爵はどうなります?きっとそのような契約書なら対策として違反した場合何かしらの見返りが書かれているかと。例えば・・・侯爵家の全財産を譲り受けるとか」
「っ!!そ、その可能性は高そうですわ。だからお父様あんなに深刻な顔でわたくしに結婚のお話をされたのね・・・」
そうして再びレイティア様が落ち込んでしまい私はどうしたものかと困ってしまったのだ。
「・・・この場合契約書を作ったその本人から破棄してもらえるのが一番手っ取り早いのですが・・・普通に考えて破棄するとは到底思えないですからね。しかし・・・そもそもどうしてレイティア様を妻にと言う契約書を作ったのでしょうか?」
「それは・・・どうもわたくしが街に出掛けた時にわたくしをお見掛けし、好きになってくださったとお聞きしました」
「あら、それは一目惚れと言う事なのですね」
「・・・そうらしいです。ですがわたくしには心に決めた方がいるのでそのような事を言われましても・・・」
「心に決めた方?それはどな・・・・・あ」
誰の事か聞こうとしてじっと私を見つめてきたレイティア様の様子に、私はあの時の告白を思い出したのである。
そして私は頬を人差し指で掻いて困った表情になった。
「私達女性同士なのですが・・・」
「そんな事関係ありませんわ!!」
「そ、そうですか・・・あ~それよりも今はその契約書の事を考えないといけませんよね!」
「そうですわね・・・一体どうすればよろしいのでしょうか・・・」
「う~んレイティア様に恋人・・・あ、勿論この場合異性の方ですよ!がいれば良かったのですが・・・そうすれば結婚を誓い合った恋人がいるので貴方とは結婚出来ませんと言って相手を説得し、諦めてもらう事も出来たかもしれません。まあ憶測ですけど・・・」
「恋人・・・結婚を誓い合った仲・・・説得・・・良いかもしれませんわ!!」
「へっ?」
「その作戦試してみる価値がありますわ!!」
「え?試してって・・・もしかして本当は結婚を誓い合った方がいらっしゃるのですか!?」
「いいえそんな方おりませんわ!」
「じゃあどなたと・・・あ、もしかしてカイゼル達男性方のどなたかに頼まれるのですか?」
「いいえ、あの方々に頼むつもりなどございませんわ!」
「では一体どなたに?」
レイティア様の言わんとしている事が分からず戸惑っていると、突然レイティア様は私の両手を握りしめ真剣な表情でじっと私を見つめてきたのだ。
「セシリア様お願い致します!!」
「・・・・・・・・はぃ?」
「わたくしの恋人役はセシリア様しか考えられませんわ!!どうぞわたくしを助けると思って恋人役を引き受けて頂けませんか!!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいレイティア様!!私は女性です!そんな私が恋人と名乗り出ても相手は信用しませんよ!!」
「いいえ!セシリア様のあの男装姿でしたら絶対大丈夫ですわ!!」
「え?男装?」
「はい!ニーナのお披露目パレードでセシリア様がなさられた男装姿・・・あれなら男性だと思われますわ!」
「いやいやさすがに無理!・・・ん?でもそう言えばラビはあの姿を見て私を男性と勘違いしてましたね・・・もしかしたらいける?いやでも・・・」
「お願いしますセシリア様!どうかわたくしを助けて頂けませんか!?」
私の手をさらにぎゅっと握りしめ潤んだ瞳で懇願してきたレイティア様を見て、私は固まりそして大きなため息を吐いたのである。
「はぁ~分かりました。上手くいくか分かりませんが出来る限りやらせて頂きます」
「セシリア様!ありがとうございます!!」
レイティア様は嬉しそうに喜び私の体にぎゅっと抱きついてきたのだ。
するとその時、扉付近から押し殺した笑い声が聞こえてきたのである。
私はその笑い声に驚きレイティア様に抱きつかれた体勢のまま扉の方に振り返った。
「ヴェルヘルム!?」
「くく、なかなか面白い話をしているな」
「ちょっ、盗み聞きをしていたのですか!?」
「いや、一応ノックしたのだが返事がなくだが中から話し声が聞こえ気になって入ったのだ。しかし俺に気が付かず深刻そうな顔で二人が話をしていたからな。話が終わるまでここで待っていたのだ」
「それなら待たずに声を掛けてくださるか、遠慮して一度退出してくだされば良いかと思われますよ!」
「まあそうなのだがな。なかなか興味深い話だったのでついつい聞いてしまった」
そう言いながらもヴェルヘルムは私達の下に向かって歩いてくるのだ。
さらにその後ろには苦笑いを浮かべているノエルまで一緒についていた。
「ノエルまで・・・」
「すみませんセシリア様、私も出ていくタイミングが見付からなかったもので」
しかしそう言いながらもノエルの目の奥が興味津々だと言っていたのである。
そんな二人の様子に私は再びため息を吐くと申し訳ない気持ちで私から離れたレイティア様を見た。
するとレイティア様は私達の向かいの椅子に座ったヴェルヘルムの事を睨み付けていたのだ。
「ヴェルヘルム皇帝陛下、失礼ながら言わせて頂きます!わたくし、セシリア様と無理矢理婚約した貴方の事が大嫌いですわ!」
「ちょっ!レイティア様!!」
「ふっ、なかなか正直なお嬢さんだ」
レイティア様の爆弾発言にヴェルヘルムは動揺を見せず余裕の表情でニヤリと笑い眼光を鋭くした。
そんな二人の様子に私は内心酷くオロオロしていたのである。
「こう言う事はハッキリとお伝えしておかなければと思いましたので」
「なるほど。まあ内心を隠して媚びてくる他の女共よりよっぽど好感が持てる」
「貴方に好感を持たれても全く嬉しくはありませんわ!」
「くく、セシリアよやはりお前の回りはなかなか面白い人材が集まるな」
ヴェルヘルムは視線を私に移し楽しそうに笑ったのだった。
「やはりって・・・まあ良いです。ヴェルヘルム、レイティア様が大変失礼な事を言いまして申し訳ございません。お叱りは私が受けますのでどうかレイティア様を許してあげてください」
「セシリア様!!」
「いや、許すもなにも俺は怒っていないから気にするな。それよりも先ほどの話俺にも詳しく聞かせてもらおうか」
「え?先ほどの話?」
「ああ、そちらにいるレイティア嬢の契約結婚の話だ。途中から聞いていたからな正確に聞きたい」
「ですが・・・」
「中途半端に聞いたからもしかしたら他で余計な事を話すかもしれんぞ?そうなると困るのはセシリア達だと思うが?」
「うっ・・・」
私は困った表情で隣に座るレイティア様を見ると、レイティア様は渋々ながら私に頷いてきたのである。
「・・・分かりました、仕方がありませんね。ですがこれからお話する事は絶対他でお話されないようお願い致します!!」
「ああ分かった」
「私もお約束致しますよ」
ヴェルヘルムとそのヴェルヘルムの後ろに立っているノエルが同意するように頷き、私はもう一度小さくため息を吐きながら先ほどレイティア様に聞いた話を二人に一から説明したのだった。
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