皇帝と妹姫

 お父様から詳しい話を聞いた後私はお城の自室に帰ってきた。


 すると私がいない間ずっと心配してくれていたダリアや侍女達に泣きながら囲まれてしまったのである。


 私はそんなダリア達に心配させてしまった事を謝り、失踪理由は本当の事を伏せて口裏を合わせてある理由を話したのだった。


 しかし侍女達はその話を信じてくれ同情の眼差しを向けてくれたが、ダリアだけが不審そうな表情で私の事を見ていたのである。


 だけど私が苦笑いを浮かべながら黙っているのを見て、小さなため息を吐きながら敢えて何も聞かないでいてくれたのだ。




(ごめんね、ダリア)




 私は心の中でダリアに謝ったのだった。


























 結局あれからラビはどうなったかと言うと、捕まえにきた大勢の衛兵を投げ飛ばしながら逃げていったらしい。


 ただ去り際に『また迎えに来るから!』と言い残していったと聞かされたのである。




(マジでもう二度と来ないで欲しい・・・)




 そう心の中でうんざりしながらもなんとなく懲りずに来るんだろうなと思ったのだった。


 そしてカイゼル達の方だが・・・あの国王から自室へ強制的に帰された時に全員で集まり話し合いをしたらしく、どうも『抜け駆け禁止』と言うルールを作ったと聞かされたのだ。


 さらに最終的に私が誰を選んでも恨みっこなしと言うことで皆同意したらしい。


 正直なんだそれはと思ったが、逆に考えれば一人ずつの強烈なアプローチが無くなりとりあえず平穏に過ごせると言う事に気が付いた。


 なので私的には色々言いたい事はあったが敢えてそれを受け入れたのである。


 そうして私はカイゼル達の事を一旦保留にしまずはもうすぐ訪問してくる隣国の事を調べる事にしたのだ。


 私は一人自室の書斎でお父様とデミトリア先生から貸して頂いた、隣国に関する資料を机の上に置きながらじっくりと確認していた。




「え~とまずは隣国の国の名前は・・・ランドリック帝国か。・・・ん?何処かで見た事があるような国の名前・・・ああデミトリア先生の授業で聞いた事があるから・・・いやそれ以前で見た事があったような?」




 何か頭の隅に引っ掛かりを覚えたがそれが何か思い出せなかったのだ。




「ん~まあ思い出せないし今は良いか。じゃあ次に現皇帝の名前は・・・ヴェルヘルム・ダリ・ランドリックね。年齢は24歳で独身。三年程前に独裁政治をしていた前皇帝である父親から皇帝の座を奪い取り、その政治的手腕で荒れきっていた国内を平定した人物。漸く国が落ち着いてきた為、隣国でありランドリック帝国と並ぶこの大国のベイゼルム王国と交流し良好な関係を築きに皇帝自ら訪問しにくるとか」




 私はパラパラとヴェルヘルム皇帝に関する資料に目を通した。




「そして次にヴェルヘルム皇帝の妹姫の名前は・・・アンジェリカ・ダリ・ランドリック。年齢は16歳。美姫と評される程の美貌だがその性格は我儘で回りを振り回している。今回無理矢理兄であるヴェルヘルム皇帝のベイゼルム王国行きに同行したらしい」




 その二人の資料を読みながら私は再び何か引っ掛かりを覚えたのである。




「・・・そもそも、ゲームやってる時に一度も隣国の皇帝と妹姫の訪問イベントなんて無かったんだけどな~。それが何でこんなに引っ掛かるんだろう?ん~『ランドリック帝国』に『皇帝』に『妹姫』か・・・・・・・ああ!!」




 私は腕を組んで一人うんうん唸っていたその時ふとある事を思い出したのだ。




「そっか!これもしかしたら『DLC』かも!!!確かゲームを買ってすぐに配信予定があったから先に事前購入しておいたんだよね。結局配信前に死んじゃったんだけど・・・でもその『DLC』の事前情報に『ランドリック帝国』の名前と、新攻略キャラとしてその国の皇帝。さらにライバルキャラとなる妹姫が出ると公式サイトに載ってたんだった!!」




 その事を思い出し私は驚愕の表情で驚いていたのだった。




「なるほど・・・ならこれは新たなニーナの恋愛イベントが発生するんだね。よし分かった!どうも他の攻略対象者達とは上手く恋愛イベントが起きなかったみたいだけど、今度こそニーナに素敵な恋人が出来るよう手助けしよう!!」




 私はそう決意し拳を作って強く頷いたのだった。




























 そうしてとうとうランドリック帝国の皇帝とその妹姫がベイゼルム王国にやってきたのだ。


 私はその知らせを受けもう一度自分の姿におかしな部分は無いか確認してから、急いで謁見の間に向かったのである。


 そして謁見の間の前まで到着するとすでに来ていたお兄様が私を見て微笑んできた。




「セシリア、今日もとても素敵だよ」


「ありがとうございます。お兄様も素敵です」




 そう言って私もお兄様に微笑み返したのである。


 すると私の後ろから複数の慌てた足音が近付いてきたので私はその音に振り返りげんなりしたのだ。




「セシリア!何故先に一人で行かれたのですか!?」


「俺達が迎えに行くと事前に連絡しておいただろう?」


「姫!お部屋にいらっしゃらなかったので何かあったのではと心配致しました!!」


「セシリア姉様・・・僕、セシリア姉様と一緒に行きたかった・・・」


「セシリア、私が贈ったドレスは着てくれなかったんだね・・・」


「ちょっとアルフェルド皇子!ドレスを贈られたって・・・抜け駆けは許しませんわよ!!」


「私もセシリア様に贈り物したかったです・・・」




 カイゼル達がワアワアと口々に言ってくるのをうんざりした顔で見てから、くるりとお兄様の方に顔を戻しすぐにお兄様の腕に手を回した。




「さあお兄様、もうすぐ時間ですし早く中に入りましょう!」


「待ってくださいセシリア!いつもは私と一緒に腕を組んで・・・」


「カイゼル・・・私達正式に婚約を解消したのですよ?それなのに一緒に腕を組んで入るのはさすがにおかしいかと思われるのですが?」


「そ、それはそうですが・・・」


「さあさあ皆さん、いつまでもここにいては他の方々にご迷惑をかけてしまいますよ?もう皆で一緒に入りましょう」




 私はそう言って私達を遠巻きに見ている他の貴族や官僚達の姿をチラリと見たのだ。


 そして扉付近で固まっている私達のせいでその人達が謁見の間に入るに入れないでいるのである。


 その私の言葉と視線に気が付いたカイゼル達はお互い見合って頷き合い、そのまま私とお兄様と一緒に揃って謁見の間に入ったのだった。


 そうして謁見の間に入った私達はそれぞれ事前に指定されている場所まで移動したのだ。


 カイゼルは残念そうに私を見てからレオン王子と共に、壇上ですでに座っていた国王夫妻の側に用意されている椅子に座り、王族であるアルフェルド皇子は参列の一番前で立っている。


 そしてシスランはデミトリア先生の側で立ちレイティア様も父親の側に向かいニーナは司祭の側に、ビクトルは謁見の間内の警護の位置に移動した。


 私はそんな皆が定位置に移動したのを見届けながら宰相であるお父様の側にお兄様と共に向かったのだ。




「お父様、お待たせ致しました」


「ああ、私が選んでおいたそのドレスよく似合っているね」


「ありがとうございます」


「それにしても・・・ここにあの方々と一緒に入ってきた事はとても良かったよ」


「まあ・・・少しだけ鋭い眼差しが和らいだ事は感じました」


「カイゼル王子と婚約解消した事で色々憶測が飛んでいたからね。でも仲良く揃って入ってくる姿を見て多少不仲説は薄まったかな」


「そうだと良いんですけどね・・・」




 そう言いながらもチラリと回りにいる官僚達の疑わしい視線を身に感じていたのだった。


 するとその時ランドリック帝国の皇帝とその妹姫の入場を知らせる声が謁見の間中に響き、そしてゆっくりと扉が開かれたのだ。


 私はまだ未プレイのDLCがこれから始まるのかと思うと、『悠久の時を貴女と共に』のファンとして胸の高鳴りが止まらなかったのである。


 そうしてその開いた扉から二人の男女が並んで歩いてくる姿を見て、私は思わず歓喜の声を上げそうになったのだ。




(うぉぉぉぉ!!あの事前情報に載ってたキャラそのままだ!!!)




 まずヴェルヘルム皇帝は高身長に濃い紺色の髪と赤色の瞳をした美青年。


 その顔立ちはキリリとして皇帝と言う名に相応しい風貌をしており、さらに両肩で留めてある黒いマントをひるがえしながら堂々と歩く姿はとても格好いいのである。


 そしてそのヴェルヘルム皇帝の腕に手を添えながら優雅に歩くアンジェリカ姫は、腰まである波打つ濃い紫色の髪とヴェルヘルム皇帝と同じ赤色の瞳をした噂通りの美貌の持ち主。


 しかしその顔立ちはキツめで見るからに気難しい人だと一目で分かるのだ。


 そんな二人の姿に謁見の間にいる人々は目を奪われていたのだった。


 私はハッと気が付きチラリと司祭の近くで立っていたニーナの様子を伺い見ると、ニーナはボーッと二人の事を見ていたのである。




(あ、これはいけるかも!!)




 そのニーナの様子に私は密かにほくそ笑んだのだ。


 しかしそんな私の様子をヴェルヘルム皇帝がチラリと見ていた事に気が付いていなかったのだった。




「よくぞ遠路はるばるお越しくださった。我がこのベイゼルム王国の国王、サイデル・ロン・ベイゼルムだ」


「歓迎感謝する。俺はランドリック帝国の皇帝、ヴェルヘルム・ダリ・ランドリックだ。そしてこっちが俺の妹で・・・」


「アンジェリカ・ダリ・ランドリックですわ」




 アンジェリカ姫はにっこりと微笑みスカートの裾を摘まんで優雅に会釈したのである。




「とてもお美しい妹姫ですな。ではこちらも紹介しよう。こちらが我の妃で王妃でもあるカサンドラ・ロン・ベイゼルムだ」


「よろしくお願い致します」


「そしてこちらが我の息子で王太子であるカイゼルと、もう一人の息子で第二王子のレオンだ。さあ二人共ご挨拶しなさい」




 国王の言葉に二人は同時に椅子から立ち上り、胸に手を当ててヴェルヘルム皇帝達にお辞儀をした。




「お初にお目にかかります。私はカイゼル・ロン・ベイゼルムと申します。私、前から賢王と呼ばれているヴェルヘルム皇帝とお会いしたいとずっと思っておりました。それに・・・美姫と評されていたアンジェリカ姫にもお会いできてとても光栄です」




 カイゼルはそう言っていつもの似非スマイルでにっこりと微笑んだ。




「初めまして!僕はレオン・ロン・ベイゼルムです!素敵なお二方に会えて僕凄く嬉しいです!」




 次にレオン王子が挨拶しやはりこちらもいつもの小悪魔的笑顔をヴェルヘルム皇帝達に向けたのである。




「こちらこそ会えて光栄だ」




 カイゼルとレオン王子の挨拶にヴェルヘルム皇帝は軽く笑みを見せながら返した。


 しかしその隣にいるアンジェリカ姫はボーッと惚けた表情で固まっていたのだ。


 それもその視線はカイゼルに釘付けであった。




(・・・あ~完全にカイゼルに惚れたね。なるほど・・・カイゼルにも絡んでくるんだ)




 あのライバルポジションのアンジェリカ姫がどう動くのかと思っていたが、どうやらあの様子からカイゼル絡みでこれから動いてくるのだと瞬時に悟ったのであった。

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