お茶の席
慌てて部屋に戻った私の様子がおかしい事にダリアが驚いていたが私はもう寝ると言い捨てそのまま寝室に飛び込んだ。
そして着替えもそこそこにすぐにベッドに潜り込むと枕を頭に被って唸ったのである。
(何で何で!?どうしてあんな事が起こったの!?カイゼルが私の事を・・・好き!?信じられない!!私、ヒロインじゃ無いんだよ!?でも、キスされた・・・・・うきゃぁぁぁぁ!前世合わせても初キッスだよ!!・・・キスってあんなのなんだ・・・)
私はあのカイゼルのとのキスを思い出し無意識に自分の唇に手を触れた。
「っ!!」
鮮明にカイゼルの唇の感触が甦り私は顔を熱くしながらすぐに手を離して記憶を飛ばそうと頭を強く振ったのだ。
(思い出すな私!思い出すな私!それよりも・・・何でカイゼルはニーナじゃなく私を選んでいたんだろう?だってゲームじゃセシリアは基本的に攻略対象者に殺される結末はあってもカイゼルに好かれている描写なんて無かったよ!!これは一体どうなってるの!?)
このゲームには無かった展開に私の頭の中は大混乱を起こしぐるぐると自問自答を繰り返すが全く答えが出なかったのである。
そして一晩中色々考え過ぎた私はそのまま熱を出してしまい暫く寝込む事になってしまったのだ。
ちなみに私が寝込んでいる間に皆が見舞いに来ようとしてくれたのだがダリアにお願いして全員断って貰った。特にカイゼルは絶対通さないでとお願いしたのだ。
そうしてあの収穫祭の舞踏会から5日程経ち漸く動き回れるぐらいに回復した。
「あ~寝すぎて体が痛い・・・」
私はそう言いながらリビングの椅子に座り背伸びをしてまだ本調子でない体をほぐしたのである。
(・・・カイゼルの事、結局どれだけ考えてもよく分からなかったんだよね・・・でもまあ今はまだニーナのゲーム期間中だしとりあえずカイゼルの件は一旦保留にしよう。だって・・・まだニーナが誰を選んでいるのか分からないし、もしかしたらニーナがカイゼルを選んだらカイゼルの気持ちが変わる可能性もあるからな~そうなると下手に動けないんだよね)
そう心の中で無理矢理結論付ける事にしたのだ。
しかしそう思っていてもいざカイゼルと会ったらどう言った態度をとれば良いのか分からず、結局なかなか部屋から出る勇気が持てないでいたのである。
するとその時、部屋の扉をノックする音が聞こえ続いて一人の侍女が部屋に入ってきた。
(・・・あれ?確かあの子アルフェルド皇子付きの侍女だよね?)
私はその侍女の顔を見ながら時々アルフェルド皇子に付いてお世話をしていた事を思い出したのだ。
「セシリア様、お寛ぎ中の所申し訳ありません」
「いいえ、構わないですよ。それよりもどうかされましたか?」
「私、アルフェルド皇子様からセシリア様へのご伝言をお伝えに参りました」
「伝言?」
「はい。アルフェルド皇子様がセシリア様にお話があるとの事で是非とも部屋に来て頂きたいそうです」
「お話?ん~一体何でしょう?・・・・・まあ行けば分かりますね。ではアルフェルド皇子に準備出来次第伺いますとお伝えしてください」
「畏まりました」
そうして私の返事を聞いた侍女は私にお辞儀をしてから部屋から出ていった。
「じゃあダリア着替え手伝ってください」
「畏まりました。しかし・・・もう体調は宜しいのですか?熱が下がられても部屋から出ようとはされていませんでしたので・・・」
「あ~うん。まあ・・・体はもう大丈夫ですよ。ただ下手に部屋から出てばったりと出会したらどうしようかと思っていましたので・・・」
「・・・何方と出会われたく無いのですか?」
「・・・・」
「・・・・・カイゼル王子でしたら、本日公務で夜まで外に出られています」
「え?」
ダリアの言葉に驚いてダリアの方を見るとダリアは無言でじっと私の方を見てきたのだ。
そのダリアの様子に多分カイゼルと何かあったのだろうと察しられているようだった。
私はそんなダリアに苦笑いを浮かべながらもこれ以上聞いてこないダリアに感謝しつつ、着替えを手伝ってもらってからアルフェルド皇子の部屋に向かったのである。
アルフェルド皇子の部屋の前に着いた私はその閉じられている扉をノックし中に向かって声を掛けた。
するとすぐにその扉が中から開けられアルフェルド皇子が笑顔で直接私を出迎えてくれたのである。
しかしその部屋の中に入り私は目を瞬かせたのだ。
「あれ?なんだか荷物が少ないような・・・」
私はそう呟きながら何度か来て見ていた部屋の様子からだいぶ変わっている事に驚いていた。
「やあセシリア、待っていたよ」
「あ、アルフェルド皇子お見舞いの品ありがとうございました」
「いや気にしなくて良いよ。それよりも、もう体は大丈夫なのか?」
「はい!もうすっかり元気です!・・・それよりも何だか部屋の荷物が少なくなっていませんか?」
「ああ、それに関係した事でセシリアを呼んだんだ。良かったら向こうの部屋でお茶でもしながら話そう」
「はい。良いですよ」
そうしてアルフェルド皇子と共にリビングの隣にある応接間に移動したのである。
「さあ座って」
「あ、はい」
アルフェルド皇子の促しで応接間にある長椅子に座った。
そしてアルフェルド皇子は部屋の角に用意されていた茶器に近付くと自らお茶を入れ始めたのだ。
「え?アルフェルド皇子が入れてくださるのですか?」
「ええ、これは私の国から特別に取り寄せたお茶だから私にしか入れられないお茶なんだ」
「そうなんですか」
私はそう言いながらふと先程からアルフェルド皇子以外誰もいない事に気が付いたのである。
「あれ?侍女の方々とかはいらっしゃらないのですか?」
「ああ、他の仕事を頼んでいるから今は誰もいないんだ」
「何か忙しいみたいですね」
「急に決めたから大急ぎで準備してもらっているんだよ」
「急に決めた?」
「それを今から話すよ。さあ出来た。まずは一杯どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
アルフェルド皇子が私の前の机にお茶の入ったカップを置いてくれたので、私はお礼を言ってそのカップを手に取り一口そのお茶を飲んだのだ。
「・・・うわぁ~美味しいです!香ばしい香りが鼻を抜けてほのかに甘い味が口の中に広がりますね!!」
「気に入って貰えて良かったよ。まだまだおかわりはあるから遠慮なく飲んでくれ」
あまりのお茶の美味しさににこにこしながら私はアルフェルド皇子の勧めるまま飲み干してしまった。
そんな私の様子を見ながらアルフェルド皇子は妖艶に微笑み、空いたカップの中に新しいお茶を入れてくれたのだ。
そうしてアルフェルド皇子も向かい側の長椅子に座り漸く話を聞く事になったのである。
「それでお話と言うのは?」
「ああ実は・・・国に帰る事になったんだ」
「・・・・・え!?」
「急な事でびっくりさせてしまってすまない」
「ほ、本当に急ですね。でもどうしてですか?」
「・・・私の離宮が完成したと話したよね?」
「ええ」
「まあ『天空の乙女』の見学も大体満足したからね。だから丁度良い機会だし国に帰ってその離宮に住もうと思ったんだ」
「そうなのですか・・・寂しくなりますね」
「寂しいと感じてくれるんだね」
「当たり前です!あ、その事はニーナには話されたのですか?」
「何故ニーナ限定?まあ良いか・・・と言うかセシリア以外の方には全員話したよ。ただセシリアはその間寝込んでいたから話せなかっただけだ」
「・・・ちなみにニーナは何か言われていましたか?」
「確か・・・ニーナも寂しくなりますと言ってたな。まあすぐにお体に気を付けてお元気でと笑顔で見送ってくれたよ」
「そ、そうですか・・・」
そのアルフェルド皇子の言葉を聞いて確信した。
(あ~これはどう考えてもアルフェルド皇子ルートには入っていないね。確かゲームでもアルフェルド皇子が国に帰るのは他の攻略対象者ルートに入った時に起こったから・・・ならニーナは誰を選んでいるんだろう?)
私はそう思いいまだにニーナの相手が誰なのか分からないこの状況に戸惑っていたのだ。
「セシリア、どうかしたのか?」
「い、いえ何でもありません!あ、そう言えばまだお聞きしてなかったのですが、アルフェルド皇子はいつ帰国される予定なのですか?」
「・・・今日です」
「・・・・・え!?今日ですか!?」
「ええ、ですのでどうしても帰国する前に貴女に会いたかった」
「そうですね。私も会えて良かったです!アルフェルド皇子、お国に帰ってもお元気でお過ごしください。私、お手紙書きますね」
「・・・・」
「アルフェルド皇子?」
「セシリア・・・収穫祭の舞踏会の時、カイゼルと二人何処かに行ったまま帰って来なかったな」
「っ!!あ、あの時は・・・」
急にアルフェルド皇子があの舞踏会での事を言い出したので、私の頭にポンっとあの中庭でのキスの場面が思い浮かんでしまったのである。
その瞬間私の顔は一気に熱くなり激しく動揺してしまった。
そしてアルフェルド皇子から目線を外し落ち着きなく目を彷徨わせてしまったのだ。
するとそんな私をアルフェルド皇子が目を細めながら無表情でじっと見つめてきたのである。
私はそんなアルフェルド皇子の様子にさらに落ち着かなくなり、とりあえずお茶でも飲んで落ち着こうと机の上に置いてあるカップに手を伸ばした。
しかし持ち手の部分を持とうとして掴めなかったのだ。何故なら視界がぼやけていたのである。
(あれ?何でこんなにぼやけているんだろう・・・それに凄く眠い・・・・・)
突然訪れた激しい眠気に私はカップに伸ばしていた手を自分の額に持っていき頭を振って眠気を飛ばそうとした。
だけどそれでも全然目が覚める感覚もなくむしろどんどん体の力が抜けてそのまま長椅子に倒れ込んでしまったのだ。
私はあまりの眠気で頭がボーっとしながらぼやけた視界の先にいるアルフェルド皇子を見ると、アルフェルド皇子は何故か私を見つめながら妖艶に微笑んでいたのである。
「アル・・・フェル・・・ド皇・・・子?」
そのアルフェルド皇子の様子を疑問に思いながらそう力なく呟くがとうとう限界がきて瞼がゆっくりと閉じていった。
すると完全に意識が落ちる直前、私の体がふわりと抱き上げられそして私の唇に何か柔らかい物が押し当てられたようだったが、眠りの底に落ちていった私にはもう何も考える事が出来なかったのだ。
「おやすみ・・・愛しい人よ」
そしてそんな甘く囁いていたアルフェルド皇子の言葉も聞こえていなかったのであった。
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