攻略対象者達

 私はシスランと手を繋ぎ曲に合わせて踊り出した。


 やはりシスランもカイゼルに劣らずリードがとても上手いのだ。




「ふふ、本当にシスランは昔に比べたら人前で踊る事に慣れましたよね」


「・・・まあそれを気にしていたら踊りたい奴と踊れないからな」


「踊りたい奴?・・・ああニーナの事ですね!確かにニーナと踊る場合注目されますもんね」


「・・・お前はどうしていつもそんな考えに至るんだ?」


「へっ?何かおかしいですか?」




 シスランの言葉に私は小首を傾げながら不思議そうな顔を向けると、シスランは呆れた表情で深くため息を吐いたのである。




「まあいい・・・・・セシリア、まだお前に報告していなかったがこの前王宮学術研究省の採用試験の結果が届いたんだ」


「まあ!結果はどうでしたの!?」


「勿論合格だ」


「わぁ!おめでとうとございます!!」




 私はその結果を聞きまるで自分の事のように喜び笑顔でお祝いの言葉を言ったのだ。


 するとシスランは何故か私の顔を見たまま表情が固まりすぐに横を向いてしまった。


 しかしその横顔は明らかに赤かったのでどうやら照れている事が分かったのである。


 そして少ししてから再び私の方を向いてきたシスランに私は話し掛けたのだ。




「ふふ、本当に良かったですね。ずっと王宮学術研究省に入る事を目指していましたからね」


「・・・ああ。だがまだ俺はその中でさらに上を目指すつもりだ」


「デミトリア先生と同じ所長ですか?」


「そこは勿論だが・・・さらに誰もが認める実績を作ってみせるつもりだ!」


「・・・うん、シスランならきっと出来ますよ!頑張ってくださいね!」




 私はそう応援の言葉をシスランに掛けると、シスランは私をじっと見つめそしてふわりと笑ったのである。




「ああ、お前の為に頑張るからな」


「っ!!」




 その初めて見るシスランの微笑みに不覚にも息を詰まらせて見入ってしまったのだ。




(うぉぉぉぉ!これはゲームをしていた時になかなか笑顔を見せてくれなかったシスランが初めてヒロインのニーナに微笑んだスチルと全く一緒だ!!!ヤバイ!目の前で実物が見れるなんて・・・今日は最高だよ!!)




 そして私は心の中で感涙の涙を流していたのだった。




「セシリア?どうしたんだ?」


「な、何でもないですよ!ただ・・・その笑顔を是非ともニーナにも見せてあげてくださいね!!」


「はぁ!?何でだよ・・・」


「絶対ニーナも喜ぶと思いますので!!」


「・・・はあ」




 私の力説にシスランは困惑した表情を浮かべたのであった。


 そうこうしているうちに曲が終わり私達はお互いにお辞儀をして踊りを終えたのだ。


 するとそんな私達の下にニーナを伴ったカイゼルがやって来たのである。




「セシリア・・・何故シスランと踊っているのです?」


「あ、カイゼル!ニーナとのダンスとても素敵でしたよ!」


「いや、そう言われても嬉しくは・・・」


「そうだニーナ!次はシスランと踊ってくださいね!」


「え!?今カイゼル王子と踊らさせて頂いたばかりなのですが・・・」


「シスランも踊りやすいから楽しいですよ!じゃあシスラン約束通りお願いしますね」


「・・・本気だったんだな」




 私の横でシスランがそんな呆れた言葉を発していたが敢えて聞こえない振りをしたのだった。


 そうして複雑な表情のシスランに連れられ戸惑った表情のニーナは再び踊りの輪に入っていったのだ。


 その二人を満足そうに見送っているとカイゼルが困惑した表情で話し掛けてきた。




「セシリア・・・貴女は一体何をされているのですか?」


「勿論ニーナの為です!」


「・・・・・は?」


「あ!いけない!こんな事してる場合じゃ無かったんでした!!すみませんカイゼル、私ちょっと用事がありますので行きますね」


「え?あ、セシリア!?」




 驚きの声を上げているカイゼルをその場に残し私は急ぎ足で離れていったのである。


 そうして私は一人広間の中をキョロキョロと探しながら目的の人物達を探したのだ。




(さっきシスランと踊っている時に考えたんだよね。もうニーナが誰を選んでいるのか分からないしとりあえず攻略対象者全員と踊ってもらおうかと思ったんだ。だからその為にも残りの攻略対象者達にお願いしに行かなければ!)




 そう心の中で思いながら探しているとそんな私に声を掛けてきた人物がいたのである。




「姫」


「え?・・・・・ビクトル!?」




 私を呼ぶ声に振り向くと、そこにはいつもの騎士の服ではなくきっちりとした貴族の正装に身を包んだビクトルが立っていたのだ。




「え?え?ビクトルその姿はどうしたのですか!?」


「・・・・・似合いませんか?」


「い、いいえ!!いつもの騎士の服もよく似合っていましたけど・・・その姿も素敵ですよ!!」


「ありがとうございます。姫にそう言って頂けとても嬉しいです」




 そう言ってふわりとビクトルが微笑んだのである。




(今日は一体何なんだろう!?破壊力抜群の笑顔の連続で私の心臓が爆発しそうだよ!!)




 私はそう心の中で叫びながら胸を押さえ頬を引きつらせていたのであった。




「姫?どうかされましたか?もしや・・・具合が悪くなられたとか!?いけない!すぐに医者を!!」


「いやいやビクトル待ってください!私、なんともありませんから!!」




 ビクトルは真顔で踵を返すと急いで医者を呼びに行こうとしたので、私は慌ててビクトルの服を掴みなんとかギリギリの所で止めたのである。




「本当に大丈夫なのですか?無理はしていませんか?」


「大丈夫ですし無理はしていません!!あ、曲が始まりましたし一緒に踊りましょう!!」


「え?私と踊ってくださるのですか!?」


「ええ踊りますから!さあ行きましょう!!」




 またビクトルが暴走する前に私はビクトルの手を掴んで急いで踊りの輪に加わったのだ。


 そして戸惑っているビクトルの手を強引に握り踊りの体勢に入った。


 しかしそこで私はハッとある事に気が付き恐る恐るビクトルの顔を見上げたのである。




「ビクトル、今さら確認なのですが・・・踊れますか?」


「・・・大丈夫です。私はこれでも伯爵家の出身ですので貴族の基本的な事は幼い時に教え込まれています」


「そうですか、それを聞いて安心しました」


「それに今日は・・・騎士団長としてではなく伯爵家の息子と言う立場でこの舞踏会に参加しましたので」


「え?それはどうして・・・」


「こうして貴女と踊る為です!」




 そうビクトルが力強く言うと同時に私はビクトルのリードで踊り出したのだ。




「わぁぁぁ!ビクトル上手ですね!!」


「・・・今日の為に久し振りに練習しましたので」


「そうなのですか?全然知りませんでした。でも・・・練習のお相手はどなたが?」


「・・・・・部下達です」


「・・・・・あ、ははは」




 ビクトルの言葉で瞬時に頭の中にビクトルと一緒に踊らされている顔の引きつった騎士達との様子が思い浮かび、なんだかその相手をさせられた騎士達が哀れで哀れで乾いた笑い声が出たのであった。


 そしてその後私達はお互いに黙り曲に乗って踊っていたのだが、ビクトルがちらりと私の左手を見つめてきたのである。




「・・・傷口、すっかり綺麗になられましたね」


「ああはい。ラビがくれた薬が凄く効きましたので」


「・・・・・あの男は気に入らないですが薬の効能には感謝しています」


「ふふ、でも本当に傷口残らなくて良かったです。もし残っていたらずっとビクトル気に病んでしまっていたでしょ?」


「・・・・」


「私としてはもう済んだ事ですのであまり気にして欲しくないんですよ」


「しかし・・・」


「ほらほら、もうこのお話は終わりです!それよりも私、ビクトルにお願いがあるんです」


「・・・お願い?まあ勿論姫のお願いでしたら何でも致しますよ?」


「本当ですか!?じゃあこの後、ニーナと踊ってあげてください!」


「・・・は?ニーナ様、と、ですか?」


「ええ。よろしくお願いしますね!」


「・・・姫のお願いですので承知致しますが・・・何故ニーナ様と?」


「ニーナの為だからです!」


「はぁ・・・」




 そうしてビクトルとのダンスが終わると、ビクトルは困惑した表情ながらも私のお願いを聞いてちゃんとニーナの下に向かってくれたのだ。


 その後ろ姿を満足そうに見つめていると、突然後ろから勢いよく私に抱きついてきた人物がいたのである。




「セシリア姉様見~つけた!」


「レオン王子!?ちょっ、人前ですので抱きつくのは止めてください!」


「え~!良いじゃん!!」


「レオン王子!」


「ぶ~!もう仕方がないな・・・じゃあ変わりに僕とも踊ってよ!!」


「え?」


「だってセシリア姉様・・・さっきから兄上以外の男とも踊っているじゃん!」


「あ~まあ踊っていましたね」


「だから僕も!!」


「・・・・・良いですよ」


「本当!?やった!!」


「ただ・・・その変わりニーナとも踊ってくださいね」


「え?何で?」


「ニーナの為です!」


「う~ん、よく分からないけどべつに僕は良いよ!じゃあさっそく踊ろう!!」


「あ、ちょっと引っ張らないでください!!」




 そんな私の抗議の言葉など聞こえてないかのようにレオン王子は楽しそうに私の腕を引っ張っていったのだった。


 そうして今度はレオン王子と踊る事になったのだが・・・さすが王子なだけあって完璧なリードだったのだ。




「やっとセシリア姉様と踊れた!」


「そんなに喜ぶ事ですか?」


「だって・・・いつも兄上が邪魔してセシリア姉様と全然踊れなかったんだもん!!」


「そう言えば・・・基本カイゼルとしか踊っていませんでしたね」




 レオン王子の言葉を聞き私は今までの舞踏会とかを思い出してみたが確かにカイゼルとばかり踊っていたのである。




「でしょ~?だから僕今凄く嬉しいんだ!!」


「・・・まあ喜んでくださってるみたいなので良かったです」


「ふふ、それにもう一つ嬉しい事があったんだよ!」


「それは何ですか?」


「ふふん~!とうとう例の部屋が完成したんだ!!」


「え?もしかしてあの趣味部屋ですか?」


「うんそうだよ!」


「まあ!それはおめでとうございます!」


「ありがとう!今度準備が整ったらセシリア姉様を招待するね!」


「今から楽しみです!」


「うん、僕も・・・凄く楽しみだよ」




 私はワクワクした気持ちで笑顔になっていたのだが、目の前のレオン王子の笑顔がその時だけなんだか艶を帯びた妖しい物に変わって一瞬ドキッとしたのであった。




「あ~あ、もう曲が終わっちゃった・・・ねえねえセシリア姉様!もう一曲!」


「レオン王子、約束覚えていますよね?」


「うっ、分かったよ・・・仕方がないからちょっと行ってくるけど、また後でお話しようね!」


「ええ良いですよ」




 そう言って私はにっこりと微笑み手を振ってレオン王子をニーナの所に送り出したのである。




「さて、残るは・・・」


「やあセシリア」


「あ、アルフェルド皇子!丁度良かったです。今探しに行こうと思っていましたから」


「私を?それはとても嬉しいね。私もセシリアの事を探していたんだよ」


「あら、何か私にご用事でもありましたか?」


「いや、用事と言う程でもないんだが・・・セシリアをダンスに誘おうかと思っていたのでね」


「まあ私はべつに構いませんけど・・・ん~もう手っ取り早く先にお願いしますね!私と踊った後で良いのでニーナとも踊ってあげてください!」


「え?ニーナと?何故?」


「ニーナの為です!とりあえず一通り主だった男性の方には踊って頂いてますのでアルフェルド皇子もよろしくお願いしますね」


「はあ・・・まあセシリアにお願いされて断るわけにはいかないからそれぐら良いよ。べつにニーナの事は嫌いではないから」


「まあ!ではアルフェルド皇子はニーナの事が好きなのですね!!」


「・・・・・女性は基本的に誰でも好きだよ。だけどセシリアが思っている好きではないからね」




 アルフェルド皇子はそう言って苦笑いを浮かべてきたのだった。


 そうして今度はアルフェルド皇子と踊る事になったのだが・・・さすが女性が大好きなだけあり凄く丁寧にそして優しくリードしてくれるのだ。




(・・・こうして皆と踊って分かったけど、リードの仕方も人それぞれなんだな~)




 私はそう心の中で感心していたのである。




「そう言えばセシリア、私の国から知らせがきたんだ」


「お知らせ、ですか?」


「ああ。前にも話したと思うが、私の離宮が完成したと知らせがきたんだよ」


「それはおめでとうございます!」


「ありがとう。・・・それで、その時にこれも話したと思うが一度私の国に来てその完成した離宮を見に来ないか?」


「え?離宮を、ですか?」


「ああ。是非ともセシリアに見せたいんだ」


「・・・今ハッキリとはお答え出来ませんけど、もし機会がありましたら行かせて頂きますね」




 とりあえず曖昧な返事を返しにっこりと笑って見せたのだ。


 するとアルフェルド皇子は私の耳元に顔を近付け甘い声といつもの妖艶な微笑みで囁いてきたのである。




「・・・待っているよ」


「っ!!!」




 そのアルフェルド皇子の色気を間近で浴びせられ私の心臓は激しく動き出したのだ。




(今日の攻略対象者達は皆一体どうしたの!?いつも以上に凄いんですけど!!!あ、そうか。これイベント補正が掛かっているのかも・・・なるほど、これでニーナの気持ちを大きく動かすんだね!!納得!!!)




 私はそう今日の皆の様子を自己分析して納得したのであった。




「ふふ、顔が赤・・・あれもう戻った?」


「アルフェルド皇子!その技是非ともニーナにも披露してあげてくださいね!!」


「は?」


「あ、曲が終わりました。では私はあちらで見ていますのでニーナの事よろしくお願いしますね」


「え?あ、セシリア!?」




 アルフェルド皇子の戸惑った声を敢えて聞き流しにこにこと笑いながらニーナの方を手で指し示したのである。


 するとアルフェルド皇子はそんな私をじっと見つめきたのだが、すぐに諦めの表情で何故か若干肩を落としたままニーナの下に向かって歩いていったのだ。




(よし!私のお役目終了!!)




 私はそう満足そうな顔でニーナとアルフェルド皇子が踊り出すのを一人頷いて見ていたのであった。

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