攻略対象者アルフェルド皇子
アルフェルド皇子が妖艶に笑った瞬間、参列している女性の官僚や大臣の奥様方、さらに控えていた侍女達が一気に色めき立ったのだ。
(うわぁ~まだ11歳であの色気って・・・凄いな)
ゲームで見たあの20歳の時の妖艶な笑顔そのままだった事に私は若干引いてしまったのである。
するとアルフェルド皇子は色めき立つ女性達に流し目を送りそしてウインクしたのだ。
その瞬間何人かの女性がその場で卒倒したのである。
すぐに回りの男性達がその女性達を助け謁見の間はにわかに慌ただしくなったのだ。
そうして何人かの女性達が謁見の間から運ばれて行ったあと、国王が一つ咳払いをしてからアルフェルド皇子に声を掛けたのである。
「アルフェルド皇子、ようこそ我が国に来てくださった。そなたの滞在を歓迎しよう。帰国までごゆるりと過ごされよ」
「感謝致します。それから私の訪問をお認め頂いたお礼に僅かではありますが、私の国の特産品をいくつかお持ち致しましたのでどうぞお納めください」
アルフェルド皇子はそう言って懐から丸まった書簡を取り出し差し出してきたので、宰相である私のお父様がその書簡を受け取りその場で中を確認した。
「目録確かに受け取りました。内容は後で原物と合わせて検めさせて頂きます」
「よろしくお願いします」
お父様は一つ頷くとアルフェルド皇子に頭を軽く下げてからその場から下がっていったのだ。
するとそんな一連の流れを見ていた私の腕をレオン王子がツンツンと突いてきた。
私はこんな時に一体何だろうと思いながらもチラリとレオン王子の方を見ると、レオン王子が私の方に顔を寄せながら話し掛けてきたのである。
「ねえねえセシリア姉様、あの献上品の中にあるあの鉱石って何か分かる?」
「え?どれですか?」
「ほら、あの絨毯の束の横に置いてある箱の中だよ」
そうレオン王子に言われその場所を見てみると、綺麗な模様の絨毯が沢山置かれた隣に豪華な箱がありそこに一風変わった形の鉱石が山のように入っていたのだ。
「あれは・・・もしかして『砂漠のバラ』ですか?」
「さすがセシリア姉様!!実は僕も実物は初めて見たんだけど、書物にあの『砂漠のバラ』の挿し絵が書いてあってそうかな~と思っていたんだ」
「確かに特徴のある鉱石ですからね」
私はそうレオン王子に言いながらもじっとその鉱石を見つめた。
ちなみに『砂漠のバラ』と言うのは主に石膏や重晶石なので出来た鉱物で、元々は透明な物なのだがその表面に砂漠の砂が付着して茶色っぽい色をしているのだ。
そして『バラ』と呼ばれているのは、その見た目が自然現象でバラのような形状に結晶して成長した形をしているからである。
ただ『砂漠のバラ』は宝石みたいに輝く美しい鉱石ではないのだが、その珍しい形状で観賞用に用いられているらしい。
私はそんな内容を前世でネットで調べた時に見たのを思い出していたのだ。
そしてレオン王子に前世やネットの事を伏せて簡潔に『砂漠のバラ』の事を説明すると、レオン王子は目をキラキラさせながら楽しそうに私を見てきたのである。
「本当にセシリア姉様って凄いね!!」
「そ、そんな事無いですよ・・・たまたま珍しくて知っていただけで・・・」
「知っていただけ凄いよ!!だって僕の回りに・・・」
「レオン、まだ謁見中ですよ。静かにしてください」
「・・・はい。ごめんなさい、兄上」
段々興奮しだしたレオン王子をカイゼルが真剣な表情で嗜め、レオン王子はシュンと小さくなって謝ったのだ。
私はそんな二人の様子に苦笑いを浮かべながら、他の人に迷惑が掛かっていなかったかチラリと回りを見渡すが特に私達の様子に気が付いている人達はいなくてホッとしたのである。
そうして再びアルフェルド皇子の方を見ると、手に絹のように滑らかで光沢のある真珠色の美しい布を持っていたのだ。
「こちら私の国で作っていますシルクなのですが、是非ともこちらをお美しい王妃様の衣装に使って頂きたいと思いお持ちしました。きっと今よりもさらにお美しくなられる事間違い無いです」
「まあ!とても嬉しいわ!!」
アルフェルド皇子は王妃に向かいにっこりと妖艶に笑うと、さすがの王妃様もアルフェルド皇子の褒め言葉と皇子の色気に当てられ頬を染めて喜んだのである。
そんな王妃の様子を見て国王が一瞬眉を顰めるが、すぐにいつもの威厳ある表情に戻りアルフェルド皇子に礼を言った。
「アルフェルド皇子、大変素晴らしい物を王妃に贈って頂き感謝するぞ」
「いえ、お美しい女性に美しい物を贈って着飾って頂きたいと思っただけです。ですから・・・そちらにいらっしゃる可憐で可愛らしい女性にもこちらの耳飾りをお贈り致しますね」
アルフェルド皇子はそう言って手に持っていた布から今度は手の平に乗る程の大きさの宝石箱を開け、その中に入っている大きなエメラルドが付いた耳飾りを私を見つめながら見せてきたのである。
(え?それを私に?・・・・・絶対耳に着けたら重そう)
私はそんな素直な感想を心の中で思いながらも、さすがにこの場でそんな事を言うわけにもいかず愛想笑いを浮かべながらお礼を言ったのだ。
「ありがとうございます。とても素敵なお品ですね」
「出来れば・・・これを着けた貴女を間近で見たいです」
そう言ってアルフェルド皇子は私に向かって例の妖艶な笑みを向けてきたのである。
その瞬間、何故か私の両サイドから只ならぬ気配を感じ私は恐る恐る視線だけでカイゼルとレオン王子の様子を確認した。
すると二人共いつもの笑みを浮かべてはいるのだが、明らかに目が笑っていない事に気が付いたのだ。
(な、なんでこの二人怒ってるの!?)
そのよく分からない二人の様子に戸惑いながらも、とりあえずアルフェルド皇子に返事を返さなければと思い視線を二人から外した。
するとアルフェルド皇子は相変わらずの妖艶な微笑みを浮かべたままじっと私を見ていたのである。
私はそのアルフェルド皇子の様子に頬が引きつりそうになるのをぐっと堪え、なんとか愛想笑いを維持しながらアルフェルド皇子に言葉を返したのだ。
「ごめんなさいアルフェルド皇子。私など間近でお見せ出来ませんのでご遠慮致します」
「そんな謙遜などされなくて良いのですよ」
そう言ってアルフェルド皇子はダメ押しとばかりに私に向かってウインクを飛ばしてきたのである。
私はそんなアルフェルド皇子の行動にピシッと表情が固まったのだ。
(おいおい・・・今謁見中でしょうが。何口説いてきてるのよ。それにこの配置から考えれば私がカイゼルの婚約者だと言うのも分かっていると思うんだけど・・・)
そう思っているとアルフェルド皇子はさらにもう一度私に向かってウインクを投げてきたのである。
さすがの私もそんなアルフェルド皇子の様子に完全に引いてしまい思わず胡乱げな表情をしてしまった。
するとそんな私の表情が予想外だったのか、瞠目した表情でじっと私を見てきたのだ。
そこでハッと気が付き慌てて表情を愛想笑いに戻したのである。
しかしそんな私を見たままアルフェルド皇子はずっと戸惑った表情をしていたのだった。
そうして謁見を終えたその夜にアルフェルド皇子を歓迎する宴が開かれる事となり、私は舞踏会用のドレスに着替えてカイゼルと共に舞踏会に参加したのである。
そしてそこでは予想していた通りアルフェルド皇子が様々な女性に声を掛けまくり、そのアルフェルド皇子に声を掛けられた女性はアルフェルド皇子の虜になっていた。
私はその様子を離れた所から眺め絶対近付きたくないと思ったのだ。
「セシリア・・・私は舞踏会の前に直接アルフェルドとお話してきたのですが、その時はとても話しやすく親しみを持てる人柄でした。ただ・・・アルフェルドは貴女の事を色々聞きたそうにしていたので私の婚約者である事だけを強調して話を逸らしてきました。ですので、絶対セシリアはアルフェルドに近付かれないように気を付けてくださいね!」
「え、ええ。私も出来れば近付きたくありませんので・・・」
カイゼルが何かを心配をしているようなのだが、そもそも私もアルフェルド皇子に近付きたくないと思っていた所なので素直に頷いたのである。
そんな私の返事にカイゼルはホッとした表情をすると、その後カイゼルが上手く立ち回ってくれなんとか舞踏会中にアルフェルド皇子との接触は免れたのだった。
歓迎の舞踏会も終え暫く自宅で過ごしていたのだが、どうしても読みたい本があり私は一人お城に登城したのである。
そして目的の本が置いてある王宮学術研究省に赴くと、そこでデミトリア先生の熱烈な歓迎を受け暫くお茶を頂きながらお話をさせてもらっていたのだ。
しかしデミトリア先生がカイゼルの家庭教師をしに行かないといけない時間になってしまった事で、私はお茶のお礼を言い目的の本を借りて王宮学術研究省を後にした。
そうして本を大事そうに抱えながら家に帰る為、綺麗な中庭に面した人気のない廊下を歩いていたのである。
するとその廊下の先で真っ白な衣装と侍女の服がチラリと見えたのだ。
私はその見覚えのある服に嫌な予感を感じ立ち止まってじっと目を凝らして見てみると、そこには壁を背にして頬を染めうっとりとした表情をしている若い侍女と、その侍女の顔を見つめながら手に口づけを落としているアルフェルド皇子がいたのである。
(うわぁ~口説き現場に出くわしちゃったよ・・・)
まさかこんな所でこんな場面を見ることになるとは思っていなかったので、頬を引きつりながらアルフェルド皇子の女好きに引いていたのだ。
しかしそこで私はハッとし、このままここに居てはお互い(私とあの侍女)気まずくなるしそれにアルフェルド皇子にも見付かりたくないので、私はすぐさまクルリと踵を返したのである。
そして一歩足を踏み出した時、後ろから私を呼び止める声が聞こえたのだ。
「待って!確か・・・貴女はセシリアでは?」
そんなアルフェルド皇子の声が聞こえ、私は肩をビクッと震わせてから機械的な動きでゆっくりと後ろを振り返った。
「ああやはりそうだ。貴女のお美しい銀髪は忘れられなかったからね」
アルフェルド皇子はそういつもの妖艶な微笑みを浮かべながら私の方に歩いてきたのだ。
「い、いや、アルフェルド皇子・・・あちらの侍女をお相手されていたのでは?」
私はそう言ってチラリと先程の侍女を見るとまだ赤い顔でこちらをボーと見ていたのである。
すると私の視線に気が付いた侍女はハッとした顔で慌ててこちらに頭を下げると逃げるように走り去ってしまったのだ。
(いや、ちょっと!!出来ればこの皇子も連れていって!!!)
そんな私の心の叫びなど聞こえるはずもなく、あっという間に私とアルフェルド皇子の二人っきりとなってしまったのである。
「ア、アルフェルド皇子、あの方を追い掛けなくて良かったのですか?」
「ええ、あの方とのお話は先程済んだので大丈夫だよ。それよりも今はセシリアとお話がしたいから」
「え?私と?」
「ええセシリアと・・・ああカイゼルが貴女をセシリアと呼んでいたので私もそう呼ばせて貰うね」
「ま、まあ名前は別に構いませんが、どうして私などとお話したいと思われたのですか?」
「この前の舞踏会の時、カイゼルが全く貴女とお話をさせてくれなかったからね」
そう言ってアルフェルド皇子は苦笑いを浮かべたのだ。
「・・・・・それでどう言ったお話を私とされたいのですか?私としては家に帰る所なのでこれで失礼させて頂きたいのですが?」
「・・・なるほど、カイゼルが貴女を私に会わせようとしなかった理由がよく分かった。貴女は他の女性とは少し違う方のようだ」
「・・・何故か皆私にそう言われるのですよね」
毎回言われるその言葉が私には全く理解出来ないでいたのである。
(なんか他の令嬢とは変わってるとか違ってるとか言われるけど・・・私そんなに変わった事している自覚ないんだけどな~)
そう思い今までの自分の行動を思い出すが、やはり分からなかったのだ。
するとそんな考え込んでしまった私の髪をアルフェルド皇子が一房すくい取ってきたのである。
さすがにその行動に驚き私は目を見開いたままアルフェルド皇子を見ると、アルフェルド皇子は私の髪の感触を手で確認しながらずいっと私の顔にその顔を近付けてきたのだ。
「やはり思っていた通り滑らかで肌触りの良い髪だね。それに近くで見るとその紫色の瞳もとても素敵だ。出来れば・・・貴女をこのまま拐って私の国に連れて帰りたい」
「・・・・・アルフェルド皇子、近いです」
私の目の前まで迫り妖艶な微笑みを浮かべているアルフェルド皇子に対して、私は眉間に皺を寄せ険しい表情を向けたのである。
「・・・ここまでして私に落ちなかった女性は貴女が初めてだ」
「私、そんな簡単に落ちるような安っぽい女じゃ無いです。それに・・・先程別の女性を口説いた場面を見た後にこんな事されても・・・正直全く心動きません。と言うか引きます」
「・・・・」
そんな私の言葉に固まってしまったアルフェルド皇子から髪の毛を奪い返すと、スッと後ろに下がって距離を開け目を据わらせながらアルフェルド皇子を見たのだ。
「はぁ~だいたい、この国で自分のハーレムに入れる女性を見繕っている事自体私はどうかと思っているんですよ?」
「なっ!ど、どうしてそれを!?」
「どうせ国に連れて帰りたいと言われたのは私だけでは無いんですよね?」
「・・・・」
「それにアルフェルド皇子の国の事も私は大体は知っていますので、アルフェルド皇子の行動が気に入った女性をハーレムに入れる為の事前の下見だと容易に想像がつきました」
「そ、それは・・・」
「まあ、国ごとに考えが違われるのでそれは仕方がないと思われますが・・・私はハッキリ言って沢山の女性を囲う人は女性を軽視しているようで嫌いです!!」
「っ!!」
そうキッパリと言い切ると、アルフェルド皇子は目を見開いて驚愕の表情で私をじっと見てきた。
その様子を見てさすがに言い過ぎたかもと思ったが、だけどもう言ってしまったのでしょうがないと思うことにしたのだ。
(・・・確かに前世でゲームをしていた時、今回みたいに他の女性を口説いた場面を見た後にヒロインにも甘い言葉で口説いてきた姿は、その別の女性を口説いていた事を忘れるぐらいに画面上で見る限りは格好良く見えたんだよね。まあ多分ゲームっていう二次元の世界だと言う思いがあったからこそそう感じたんだろうけど・・・さすがにリアルでやられるとこれは嫌だね)
私はゲーム上で見た20歳のアルフェルド皇子が妖艶な微笑みを浮かべながら甘いセリフを言ってる場面を思い出し、現実と比べてしまったのである。
「・・・こんなハッキリと嫌いだと言われた事も貴女が初めてだ」
「気分を害されたのなら申し訳ありません。ですが私の気持ちをハッキリとお伝えしておいた方がアルフェルド皇子の為だと思いましたので。ですのでこれからは私に構わず・・・」
「決めた!私はハーレムなど作らず一人だけを大事にするよ!」
「え?ああ、まあアルフェルド皇子がそう決められたのでしたら私は良いと思います」
「ありがとう、必ず貴女に認められる男になるよ」
「な、何故私に?」
何故か私に向かって真剣な表情でそう宣言するアルフェルド皇子に私は戸惑ってしまったのであった。
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