想いをコルクで閉じ込めて

カゲトモ

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「いらっしゃい、ハナビシくん」

「こんにちは、春馬さん」

 白い歯がキラリと輝く人の良い笑顔の持ち主は、ワイン専門店エスタシオンのオーナー、春馬さんだ。

「このアイダのワイン、おいしかった?」

「凄く美味しかったです」

「それはヨカッタ」

 そう言って床に付いていた膝を立ち上がってパンパンと払う。相変わらずジーンズにベストスタイルがよく似合う。

そんなラフなスタイルでも恰好良く決まるのは何も長身だからではない。春馬さんは超が付くほどのイケメンなのだ。

イギリス人の父と日本人の母の間に生まれたハーフで、正式にはライアン・春馬・ウィリアムズさんと言う。言葉遣いが少しカタコトなのは奥さんと出会うまでずっとイギリスに住んでいたからだ。日本に来て二十年以上経つから日本語はペラペラではあるが。

「ボクがエランダやつやさかい、めっちゃうまいにキマッテルやろ」

 でもめっちゃ関西弁使ってくるからギャップが凄い。しかもコテコテ系だ。

「凄く美味くて斉藤君も喜んでくれて、今度買いに行くって言ってましたよ」

 この間春馬さんに選んでもらったのは、斉藤君にお年賀、という名目で一緒に開けた赤ワインだ。凄く美味しかったから、今日も買って帰ろうかと目論み中だ。

「ハハハ、それはヨカッタわ。ゼッタイスキやとオモったから。もうハナビシくんのスキタイプわかるもん」

「それは頼もしいですね。それならまたお願いできますか」

「コンドはダレと? カノジョ?」

 なにニヤニヤしてんだ。肘で突くんじゃない。

「違いますよ。俺に彼女いないの知っているでしょ」

「ハナビシくんははぐらかすのウマそうやからな。ジツはイテンちゃう?」

「いませんよ」

「ゼッタイ?」

「絶対」

「ファイナルアンサー?」

 発音良いな、おい。

「大体彼女居てたら、ミケの為にワインなんか買いませんよ」

「ミケちゃんとノムの? プレゼント?」

「一応一緒に飲むつもりです。だからフルが良いかなーとは思ってるんですけど」

「ハナビシくんとイッショやん」

「不本意ですけどね」

 仕方ない。昔から一緒に飲むことが多かったから、なんとなく好みが似たのかもしれなない。酒の好み以外は全然違うけど。

「ちょっとマッテてなー」

 そう言って店内を見回る春馬さんにお任せして、備え付けられたカウンタ―に座ることにする。ここではテイスティングもさせてもらえるし、定期的にワイン教室もあるとか。仕事と同じ時間だから顔を出したことはないけど。

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