逢間陽瑠には運がない
清水カズシゲ
1話「このサークル長続きしないって有名だよ」
津下山大学憑き物サークル
関東のどこか。ちょっと田舎で、しかし微妙に拓けた場所にその大学はある。
ーー津下山(つげやま)大学。在籍数八千二百人。設立から八十年近くは経過している私立大学だ。
この大学の教育方針は「熱意」「自主性」「寛容」であるのだが、特に寛容さに重きを置いており、よって学生のサークル活動も多種多様である。
メジャーな所ではテニスに野球、バンドにダンスといった華やかなもの。これらのサークルは人数が多く活気がある。刺激が欲しい学生に人気だ。出会い目的で参加する学生も数多い。
マイナーな所では地域の猫を見守るだけのサークルーー実はとても人気があるサークルだーーがあり、こちらは穏やかでまったりと過ごしたい学生にはうってつけだろう。のんびり日向ぼっこを楽しむ猫ちゃんを眺める時間は、何事にも代え難い至福のひとときだ。
さて、そのような個性溢れるサークルが数多く存在する津下山大学だが、中でも取り分け奇妙なサークルがある。
広大な構内の北の端、第四研究所ーーといえば聞こえは立派だが、はっきり言ってしまうとプレハブ小屋だ。そのプレハブ小屋に問題のサークルは存在した。
プレハブ特有の簡単に取れそうな入り口には、学生お手製の表札が掲げられており、マジックペンで書かれた文字が風雨に晒されて滲んでいた。どうやら、水性インキで書いたようだ。
滲んで読み辛い文字は辛うじて"オカルトサークル"と書かれている。
ーーオカルトサークル。
案外どこの大学にも有りそうなサークルだが、しかしその比較的浸透した全国的にもポピュラーなサークル名で、このサークルが呼ばれることはない。
ここは別名"憑き物サークル"。略して憑きサー。大学内ではそう呼ばれることが殆どである。
憑きサーの歴史は長い。どうやら大学が設立して間もなくからこのサークルは存在していたらしく、そしてその当時から奇特な扱いだったようだ。もはや津下山大学の名物サークルと言ってもいいだろう。
その名物サークルだが、実は一風変わった入部条件がある。……と、言ってもこれはサークル側が定めた入部条件ではなく、学生達が勝手にそう"噂"しているだけのものだ。
なにせ入部希望者は多いが、殆どの者が辞退するという怪異が続いているのだ。
サークル代表者は「困ったねえ」と口に出して嘆くばかりで、その実何もしていないのが実状である。
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