第五章・ファガロ、ジオルそしてリュカ

彼女、つまりシェミハザは 土下座をするトカゲ野郎を見つめてから ゆっくりと目を閉じる。


その表情からするに、自分を落ち着かせているようだ…。


すると次の瞬間…シェミハザの大きな翼がまるでガラスが飛び散るかのように弾けて消えた。


粉々に飛び散る翼の破片は黒と白の光の閃光に変わりスーッと彼女の背中に飲み込まれていく。


シェミハザは目をゆっくりと開けると言った。


シェミハザ【…その名を二度と口にするな…】


彼女の表情はいつもの冷静さが戻っている。


それを見た僕はホッと息を吐き出した…。


禿頭のトカゲ野郎、つまりジオル?は何度かシェミハザに頭を下げると 土下座をする鶏冠頭に小走りで走り寄りグッと肩を抱き起こす。


その時…ジオルが鶏冠頭の耳元に何かを呟いているように見えたが、多分…ごめんよ…とか…そういう類のもので、けして悪意があるようには思えない。



…あの怒りよう…シェミハザはそのルシフェルという奴が嫌いなんだろうな…


僕はシェミハザを横目で見つめる。


シェミハザはパーカー帽を頭から外しながら言う。


シェミハザ【…お前達…一緒にきてもらう…そもそも警察隊に見られた以上、お前達を帰すわけにはいかない…。さっきから岩陰でブルブル震えているお前達の仲間も…一緒に来てもらうぞ…】


そう言うとシェミハザは反転して数多くある岩の中からたった一つの岩を見つめた。


トカゲ野郎達は表情を曇らせて下をうつむき何も言わなかったが、その表情からみて何だか辛そうな顔に僕からは見えた…。


…てか…もう一人いたのかよ!?…と思い僕もその岩を見つめる。


すると…岩陰からピョンとコウモリの羽みたいなものが見えた。


【…コウモリ?…】


それを聞いたシェミハザは答える。


シェミハザ【…小悪魔だ…】


小さな羽の次は…顔が半分…岩陰から飛び出し僕とシェミハザを見つめる。


そしてゆっくりと岩陰から出て来たかと思うと、一度ピッと立ち止まり、ゆっくりとこちらに歩いて来る。


僕はソレを見て驚いた…


【…女の子!?】


そこには7、8才くらいの可愛らしい女の子がいたのだ。

赤黒い小さな羽をパタパタと動かしながら黒色のワンピースをなびかせて こちらにゆっくりと歩いてくる。


黒い髪のオカッパ頭で、マッシュルームのような丸みがあり、前髪はパツンと眉の少し上で切り揃えられている。そして印象的なのは、その赤い瞳だ。シェミハザ程の光の強さはないが、あきらかに少しポワーンと発光しているのだ。


女の子が近づくにつれて僕の耳に啜り泣く声が聞こえてくる。


…この子泣いてるよ…


僕は可哀想になり女の子に走り寄ると片膝をつき笑顔になる。


【…ねえ!大丈夫だよ…怖くないから…】


そう言うと女の子は頷いた。僕は女の子の手を握りながらシェミハザを目指し歩き出す。


シェミハザは少し驚いた表情をしていたが、すぐに先程までの冷静な表情に戻った。


シェミハザの後ろの二匹?は目を丸くして僕を見ているようだ。


僕は女の子に視線を戻すと話しかける。


【…はじめまして。僕は勝って名前で…その…、人間なんだ…。君の名前は?…】


女の子は僕を見上げてから顔を赤くして恥ずかしそうに下を向き小さく答えた。


【…わたしは…ア、ガロストリパ、ノエルリボン、ラウカ、カウル、リリム、リュカ…種族は…あくま…です…】


……

………え!?…なんなの?めっちゃ名前長いじゃんかよ〜!


僕は困り混じりの笑顔で後頭部を右手でポリポリとしながら何故かシェミハザに助けを求めていた。


するとシェミハザは ため息をついて力の抜けた表情になると腰に両手を当てて話す。


シェミハザ【まっ無理もないが…人間にはそんな事も理解できないのか?その悪魔の子は、悪魔にしては相当珍しく真の名前をお前に告げたのだ…。呼び名は最後のリュカだ。それ以前の名は全て先祖の名前だ…】


僕はそれを聞いてホッとし…その、リュカに話しかけた。


【…ごめんねリュカちゃん、人間にはそんなに長い名前はなくてね…でも、とても素敵な名前だね!】


リュカは、ほんの少しだけ笑顔を見せてくれたがシェミハザの前まで歩いていくと僕の手を強く握りしめた。


それは明らかに恐れからくる反応だ…。


シェミハザはリュカが僕の手を強く握りしめた姿を見ると両膝をつき、リュカと目線の高さを合わせた。


そして…少しだけ悲しそうな表情をして話し出す。


【…この翼に対する恐怖心を忘れぬ事だ…いつか…いつか必ず!…新たな翼がお前を笑顔に変える日まで…】


そう言うと立ち上がりリュカに背を向け翼を広げた。


リュカは僕の背後に隠れてハーフパンツをキュッと握りしめる。


僕はそんなリュカを見て疑問が湧いた。だってトカゲ野郎達に…なぜこんな小さな子が同行しているのかと…。


その疑問は声となる。


【えっと…少し良いですか?ジオルさんと…えっと…トサカさん…?】


鶏冠頭のトカゲ野郎【ファガロだ!…俺はファガロという…ドラゴン族だ…!】


【あ。…ジオルさんとファガロさんですね…了解です。えっと…質問があるんですけど良いですか?】


ファガロ【…かまわん!!】


【あの…リュカちゃんは本当に二人の仲間なんですか?…だってリュカちゃんまだ小さいし…戦闘なんて出来ないでしょうし…それに…こんな危ない所に連れてきて良いのかな〜って…】


ファガロは鶏冠を搔き上げると話し出す。


ファガロ【…仲間じゃない!!…】


それを聞いていたシェミハザはファガロを睨む。


ファガロ【…う、嘘じゃねぇ!!…実は…その…俺達警察隊が追っていたのはシェミハザ様じゃないんだ…。そこの…小悪魔リュカなのだ!!…今から少し前の話だ!…俺達は竜王バハムートの命令により、次元の狭間を破壊する者が現れたと伝令を受けた。だから逮捕すべく相棒ジオルと共に宿舎を出た…。しかし…至る所からリュカの魔力を感知してしまい追うにも居場所が掴めなかった。だが俺達もバカじゃない…魔力が色濃く残る場所を探索した結果…空間に穴が空いている事を確認したのだ!そして俺達は穴に飛び込んだ!そしたらココだったって訳さ!…だが、こんなに小さな悪魔の子だったなんてな…おまけにレッドセブンズの一人シェミハザ様と知らず戦いを挑む始末…。それが俺が知る真実だ…ドラゴン族の誇りにかけて誓うぜ!】


シェミハザは話を聞き終わると少し目を細めてリュカを見つめる。


リュカもシェミハザを見つめ返している。


そして僕は話を続けた。


【…シェミハザはなんていうか分からないけど…僕はそのファガロさんの話…信じるよ!…でも!リュカちゃんを逮捕する事は…その…絶対に許さない!】


そんなリュカを守る僕を見てシェミハザが話し出す。


シェミハザ【…時空間魔法を使える小悪魔か…どうやら、あの…リリムの血を濃く受け継いでいるようだな…。それはバハムートも捕らえたくなる…。特にココの住人からすれば大事件…というわけだな…】


シェミハザの話を聞き終えるとファガロは意味深な頷きをした。


その、シェミハザはファガロとジオルを見て言う。


シェミハザ【…その話…私も信じる…】


…何というか…シェミハザの発言力には種族を超えたリーダーシップを感じるよな…見た目の年齢は僕とそう変わらないと言うのに…本当に凄い子だよ…


僕を含めその場にいる者達はシェミハザの可決を受けてホッとした事は間違いないだろう。


シェミハザは突然バスン!と大きな翼を広げて言う。


シェミハザ【これより!私達一行は…西地獄に向かう!そして…私の兄に会い…この人間、勝の行く末を決める!】


シェミハザ【…ファガロとジオルは勝の護衛を…そしてリュカは時空を超えてついてこい…】


…ファガロとジオルはお互いに顔を見合わせて何だかアワアワと焦った表情だが…シェミハザは行くぞと言って僕を抱えると飛び立った。明らかに流れに身を任せてしまったであろうファガロ、ジオル、そしてリュカも僕らの後に続くのであった。



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