死んだお爺ちゃんがくれたカメラは異世界を写す銀のカメラだった

@karasu-syougeki

第零章・僕は決断をする


真夏の夜…高校二年の夏休み…僕はサッカーの夕練を終えて帰宅した。


【…ただいま…】


玄関に入り、靴を脱ぎ、練習着を洗濯カゴにバスケットシュート。


二階の自室に入り、携帯を充電し、ベットに倒れこむ。


すぐに立ち上がり机の上に置かれたエアコンのリモコンを手に取るとピッとスイッチを押す。


そこまでは…普段通りの僕の生活…だった。


ふと、窓の外の不思議な光に意識がいき僕は窓際に歩いていく。


【…満月…と…太陽…】


その空は太陽と月が地平線で睨み合う半分夜で半分夕暮れという幻想的でとても美しい空だった。


【うわ…すごいな…】


窓ガラスを開けようとした…


その時、一階からバリン!とガラスが割れる音がする。

僕は部屋の入り口を反射的に見ると、慌てて下に降りていく。


階段を下る途中、母親の怒鳴り声が聞こえた。


…両親が喧嘩をしていたのだ…。


リビングに入ると足の裏がじゃりつく。


僕が下を見ると足元に飛び散り割れた食器の破片がころがっていた。



……


その喧嘩は長く続き、夕飯時までもつれこんだ…。


人は皆 本当にキレた事は少ないと思う。本当にキレたと思っていても 何処か冷静な自分がいて、キレた演技をする自分の腕をしっかりと計画的におさえている。


本当にキレた人間は…なにをするのか…わかったもんじゃないだろう。


ちなみに 今の僕はあと少しでキレてしまいそうだ。


その理由は過去を振り返る必要があるため、簡単ではないが、端的に言えば両親が また離婚話しで 揉め始めたのだ。始めは些細な口喧嘩からついには離婚話しにまで発展した。


しかも離婚話しのネタは決まって僕の進路が原因というありさまだ。


我が家のダイニングで始まった子供の人権を無視した離婚話しは 晩飯時の食卓を囲みながら僕の前で勃発している。


テーブルをめがけ箸持つ手で叩いた父親はこう怒鳴る。


勝(まさる)には子供の頃から頑張ってきたサッカーがあるんだ!!しかもこの子にはスカウトが来てるんだぞ!お前はこの子の夢を奪うつもりか!!


人差し指で父を指差しながら 鬼の形相で母親はこう答える。


貴方になにがわかると言うの!?仕事仕事で家庭は私に任せきりで、勝の勉強も見てあげないし、本当にプロサッカー選手になれる保証があるなら良いけどスカウトされたからって学歴をワザワザ下げる必要なんてないわ!

何にも家庭の事知らないくせに偉そうに言わないでよね!

ロクな稼ぎもないくせに!!


ちなみに、ちなみにだが、僕の進みたい進路は議題のサッカーでも大学進学でもなかった。


僕の夢は…アマチュアの写真家だ。


憧れるプロの写真家はいない。影響を受けた写真も特に無い。ただ、去年他界した僕のお爺ちゃんが写真屋を営んでいて プロではないが趣味で写真を撮る人だったからかもしれない。


僕はいつの日からかお爺ちゃんの様なアマチュア写真家になるのが夢になっていた。


別にプロなんかじゃなくて良かったのだ。


当時、お爺ちゃん子の僕は昔から撮影の手伝いをしていた。手伝いといっても三脚運びだけだけど…。それでも喜んで撮影に同行していた。


ある日は湖に、ある日は海に、ある日は川へと水場の近くで撮影する事が多かった。


今思えば、狙う対象が人や景色ではなく野鳥だったからだろう。


僕が三脚を運び設置するとお爺ちゃんは決まって僕に満遍の笑みで言った。


勝。何故ここに三脚を下ろしたんだい?


僕はいつも同じ返事をしていた。


だってココが1番良いから!


お爺ちゃんは大声で話す僕の口を大きな手で塞ぐと小さな声で言う。


きっとお前は素晴らしい写真家になれるな…。


そう言うと必ずシワを濃くして小さく笑った。


お爺ちゃんはカメラを設置すると必ず深呼吸をしてからレンズ穴を覗き込む。

その鋭い眼光は笑顔のお爺ちゃんとは違いプロの写真家みたいだった。


まるでインディンジョーンズの主人公の様な革の帽子と丈の長い革のコート姿はとてもカッコ良く…


その横顔が…あの頃の僕は大好きで そんなお爺ちゃんに憧れていたのかもしれない。


僕は両親にこの夢を話した事は無い。だが、この状況だからこそ言いたいと思ったし、言えるとも思った。


僕は椅子の音を鳴らしながら立ち上がり啀み合う二人を見つめると勇気を出して発言した。


椅子の音と、勢いよく立ち上がる僕を見て二人は僕を見つめる。


【あのさ…俺さ実は!】


そこまで声を出した途端に両親が押さえ込むような口調で話す。


【あんたは、黙ってなさい!お前はあっちにいってろ!!】


何だろうこの感じ…なんか凄い脱力感だ…まるで心が凪ぎる感覚だ。僕の事でもめてるのに僕の進路を決めてるのに僕の意見…僕の意志は関係ないんだ…。


そんな脱力感が最下点に達した時、僕の心の中で何かが爆発した。


【…ふっ…】


【ざけんじゃねー!!!俺の気持ちなんて分からないくせに!】


声を裏返しながら怒鳴る僕を見て二人は呆然としている。


【…もういい…わかったよ…さようなら!!】


完全に無意識だった…無意識に怒鳴り散らしていた。


そして無意識に選ばれた選択肢は家を飛び出す事だった。

玄関に走り急いで靴を履く時、頭に血が上っているというのに僕は何故かカメラの入った黒いバックに手を伸ばして取っていた。


僕は玄関を飛び出すと住宅街だから許される家前路駐の原付に飛び乗り夜の街に当てもなく走り出す。






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