階級の話

 校舎に劣らず、綺麗で豪華な寮は学校のすぐそばにあった。これなら朝はギリギリまで眠られるかな。


 女子寮は男子禁制だから、と入口でハリアー先生と別れたあと、私は教えられた道順通りに寮母室へ向かった。

 ドアをノックして、中に聞こえるように大声を出す。


「こんにちは、今日からここでお世話になる、リンカ・ハルゾノです!」


 すると、勢いよくドアが開いた。私の反射神経が良くなければ、ドアにぶつかっていただろうスピードだった。


「レディなら、もっと静かな声で話しなさい。まあ、ソルのあなたはレディにはなれませんけど、レディ候補の前では慎みを持つのですよ」


 質素なドレスを着た女性が、怒った顔で私を見下ろした。相手がヒールを履いているから身長の関係で見下ろされたのもあるけど、精神的にも見下された気がした。美人だけど、嫌味な感じがする女性だった。


 そして、また階級の話をされた。顔をしかめそうになるのを我慢して、笑顔をつくった。


「ここに来たばかりなんで、そういうのはまだわからないんですよね。あなたは?」


 女性は胸元のブローチを指さした。それは風がモチーフされたブローチだった。


「私わたくしは第3階級、風ヴァンですわ。夫と共に、寮の管理人をしておりますの。私のことはピーテット夫人と呼びなさい。そして、あなたはソルですから、階級を示すアクセサリーは支給されませんけど、第5階級から支給されますからアクセサリーで相手の立場を即座に判断し、身の程をわきまえることですね」


 この世界では身の程がよほど大事らしい。でも郷に入っては郷に従え、とか言うらしいし、従っておくべきだよね?


「わかりました! わきまえます!」


 元気に答えたら、ピーテット夫人は満足気な顔で頷いた。


「あなたの前に来た第1階級、星エトワールの子は嫌そうにしていましたけど、あなたは素直でよろしいわね」


「はい、ありがとうございます」


 そういえば、イルドに来たときから前の子がずっと話題にされているけど、どんなすごい子なんだろう。ちょっと気になるな。


「さあ、立ち話はやめにして、部屋に入りなさい」


 ピーテット夫人に促されるまま、部屋に入った。中には、可愛らしいけどかっちりとしたワンピースを来た、赤毛の女の子が居心地悪そうに立っていた。


「寮の説明は、あなたと同室で同じソルのブリジット・ボワローにしてもらいます。同じ歳の子のほうが話しやすいでしょうからね」


 巻き毛で量が多い赤毛は可愛らしく、真夏のプールみたいに青い瞳は怯えているのか、少し揺れていた。真っ白な肌だから、鼻周りのソバカスがよく目立つけど、それすらも可愛い女の子だった。


「私はリンカ・ハルゾノだよ。よろしくね」


「よ、よろしく、ハルゾノさん……」


 小さな声だったけど、とっても可愛い声だった。


「リンカでいいよ。私もブリジットちゃんって呼んでいい?」


 ブリジットちゃんは頬を染めて頷いた。なんて可愛い子なんだろう!


「自己紹介が終わったなら、昼食に間に合うよう、時間に気を付けながら、寮の案内をしてきてちょうだい」


 そして私たちは、ピーテット夫人に追い払うように部屋が出された。

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