第67話 傍観者
決闘場を見下ろすように造られた展望室、ガラス越しに戦うティナ、側近たる近衛連隊長を、薄い金髪の少女が見下ろしていた。
装飾の巡らされた王冠に加え、純白のドレスを着る彼女は、入室してきた1人の女性騎士に気付く。
「あらフォルティシア、久しぶりね」
可憐な少女は振り返ってニッコリ微笑むと、再び窓の外を向いた。
「お久しぶりです、"アイリ・エンデュア・ストラトスフィア"第1王女殿下」
普段の老人じみたものとは違う、敬意を前面に押し出した敬語でフォルティシアは話しかける。
「アイリで良いわ中佐、あなたとは幼少からの付き合いだもの。それより、ここへ来た目的があるんでしょう?」
たおやかに振る舞うアイリは、しかし闘技場から目を離さない。
「さすがにおわかりですか――――――では単刀直入に......、なぜヤツに試合の許可を? アイリ様」
「単純なお話ですよ中佐、
「アイリ様が?」
一呼吸置くと、アイリは格闘を繰り広げる2人の姿を見ながら静かに言った。
「――――アクエリアスからここまで、彼女の活躍はわたしも把握していました。でも、それに一番敏感なのがイグニスだったのです。ある日の朝、彼が言いました――――『アイリ様、人の進化を見たくありませんか?』と」
雲行きが怪しくなり、曇天が空を覆い始めた。
「人の進化――――ですか、好奇心のいたずらも甚だしいですね、アイリ様」
「フフッ、我ながら実にそう思いますよ。あなたとティナさんには悪いことをしました。イグニスったら勝手に近衛の人事にまで話を広げちゃって」
「勝ったらうちのティナを引き抜くという件ですか、まぁ大丈夫ですよきっと」
コツコツと、フォルティシアは静かな展望室に半長靴の音を響かせた。
「あいつなら負けません、絶対に」
「ずいぶんと信頼してるんですね、――――――と、降ってまいりましたわ......」
「あやつらに観客も、風邪を引かぬと良いのですが......」
ポツポツと水滴が窓に張り付き、天井の無い闘技場はたちまち雨に晒された。
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