第51話 艦対空戦闘

 

 ――――王国海軍 第14水雷戦隊 駆逐艦オータム・ムーン。


『第4戦速せんそーく!』

『第4戦速、ヨーソロー!』


 正体不明の目標を探知した水雷戦隊は、早くも戦闘行動を開始していた。

 旗艦である軽巡洋艦に続く形で、各艦が輸送艦防護に向けて行動を開始する。


 しばらくして、見張員が叫んだ――――


『接近中のモンスターは『ワイバーン』です!! 数40以上!! 低空飛行で尚も接近中!』


 艦内にベルが鳴り響いた。


『対空ー戦闘よーい!! 魔導機関砲、高射砲は各個に撃ち方用意!』


 艦隊の対空砲が、接近中のワイバーン編隊へ向けられる。

 王国海軍は、先の大戦から艦艇の対空戦闘能力を劇的に向上させていた。


 その方法は単純にして明快、国力によるゴリ押しと表現していいものだ。


『左対空戦闘! 主砲、副砲撃ちー方ー始めーッ!』


 ハリネズミのように設置された対空砲が輝き、猛烈な弾幕を形成した。

 空間が魔法弾によって埋め尽され、低空飛行するワイバーン編隊の先方8体が一瞬で撃墜される。


 凄まじい対空砲火が展開されるが、ワイバーンも口内から火炎魔法を吐き、遠距離攻撃を放った。


左舷ひだりげん! 火炎魔法弾接近!!』

『回避ッ! 取り舵いっぱーい!!』

『取り舵いっぱーい!! 取り舵20度!!』


 軽快な動きで、駆逐艦オータム・ムーンは火炎砲を回避、付近にいくつもの水柱が上がった。


『もど~せー!!』


 輸送艦を守るため、進路を修正。

 さらに反撃とばかりに副砲を放ち、発生した水柱に引っかけることで数体を撃墜。


 だが敵の数は多く、ワイバーン群はみるみる艦隊へ肉薄していた。

 対空砲火の黒煙が弾ける中、遂に第14水雷戦隊に被害が出始める。


『駆逐艦レイン・フォッグより通信! われ機関部に被弾! 航行不能!! 戦闘の続行は不可能!!』

『空いた穴を埋めるぞ! 面舵いっぱーい!』


 艦隊側面には死の花が咲き乱れ、接近していたワイバーンの半数以上が対空砲によって引き裂かれた。

 艦隊は回避行動を取りつつ対空戦闘を行うが、対空砲の装填手が真上を見上げた時、それは映った。


『敵直上!! 急降下――――――ッ!!!!』


 低空のワイバーンに目を奪われていたオータム・ムーンは、艦隊の真上から高速で輸送艦へ向かう4体のワイバーンを見逃していた。


『輸送艦に寄せ付けるな!! 長10センチ砲! ーッ!!!』


 防空特化の主砲が轟音を穿うがち、至近距離で炸裂した砲弾が急降下するワイバーン編隊を直撃。

 しかし、撃墜された死骸とは別に、高速を保った物体が黒煙から飛び出した。


『1体残りました!! 艦隊中央へ向かいます!!』

『弾幕を展開しろッ!!』

『輸送艦に当たります! もう間に合いませんッ!!』


 ◇◇


 ――――艦隊中央 輸送艦の上甲板。


「おい! こっちに来るぞッ!! 作業員は装甲区画への待避急げ!!」


 艦隊が襲撃されたと知ったわたしとミーシャは、船酔いも忘れて甲板へ駆け上がった。

 煙を上げる駆逐艦、弾幕を張る巡洋艦が視界に入ったと同時、直上より飛来するモンスターが見えた。


「あれは......! ワイバーン!?」


 ミーシャが叫ぶ。

 直後にそいつらへ向かって放たれた砲弾が真上で炸裂し、事なきを得たように思った瞬間――――――


「ゴギャアアアアアァァァァァァァァァッッ!!!!」


 輸送艦が大きく揺れ動き、艦体が軋む。

 勢いよく上甲板へ降り立ったのは、黒光りする鱗を持ったワイバーンと、それに乗る1人の"少女"だった。


「――――――お久しぶりですミーシャさん......、アクエリアスでの作戦は失敗したようですね。ご愁傷様です」


 なんでこいつミーシャのことを......。

 肩まで伸びた銀色の髪を揺らしながら、少女はワイバーンから甲板上へと降りる。


「ミーシャ、知ってるの?」

「ッ......!!」


 剣に炎を走らせるミーシャ。

 その行動から、味方でないことは明白だった。


「ムカつく丁寧語は相変わらずねフィリア、あの黒い魔物はあんたたちの仕業だったわけか」


 魔法杖を取り出した少女は、正対するミーシャから、わたしへ視線を移す。


「お察しの通りです。申し遅れました、わたしは名をフィリア・クリスタルハートといいます。そちらのミーシャさんと同じ、闇ギルド『ネロスフィア』の魔導士です」


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