第50話 勇者の剣護送

 

 "伝説の勇者の剣"。

 それはかつて、大陸に君臨していた魔王を討ち滅ぼしたといわれる幻のアイテムだ。


 そして、王国の技術研究本部を中心としたチームが結成され、解析が行われることが決まる。

 だが、陸路では"ファルクスコーピオン"等の魔物が生息しているため、危険と判断。


 よって――――――


「うへぇ〜......、船酔いしちゃったよティナ〜」


 ――――古城ルナゲートより、洋上50キロメートル地点。

 王国海軍 第14水雷戦隊に護衛された輸送艦の上甲板。

 顔を青くしたクロエが、柵にもたれながら水平線に向かってボヤいていた。


「大きいふねなんだからまだマシよ、前に乗った戦車の方がもっと揺れてたじゃない」

「戦車とふねは別物だよ〜......、でも勇者のアイテムってまたスゴいの見つけたね。あの男の冒険者さんはかわいそうだったけど」

「あぁ......イチガヤね」


 艦隊と共に帰るよう言われたわたしたち王国軍組は、あの後陸路で帰るフィオーレ達と別れていた。


 くだんの剣は悪魔すら消し去る力が確認されていて、これを王国も長年追い求めていたらしく、イチガヤが欲しがっていた勇者の剣は残念ながら接収となってしまった。


 研修は半ば強制的に終了という形になってしまったけど、また今度会いたいな〜。


「しっかし迫力あるねーこの景色、軍艦が周りをグルリと囲んでるよ」


 わたしたちの乗る輸送艦を中心に、艦隊は輪形陣りんけいじんと呼ばれる陣形で航行中らしく、もし海賊などが来たところで近づく前に撃沈されてしまうだろう。


 並走する駆逐艦が黒煙を撒きながら、白波を切っている。


「あんまり船酔いがしんどかったら、兵員室借りて寝なさいよ」


 ミーシャと一緒に駆けつけてくれた時はちょっとカッコ良かったのに、なんというか台無しね。


「ティナの方こそ休まなくていいの? いくら回復ポーションで誤魔化してもダメージは残るし」

「ありがと、でも今のクロエに比べたらわたしの方が多分マシじゃないかしら」


 言って柵を離れた時、数歩移動したわたしの腕を、クロエはいきなり掴んできた。


「なっ、なに!?」

「ティナ、やっぱり少し休んだ方がいいよ」


 急な行動に動揺していると、クロエはわたしの脚を指差す。


「えっ......?」


 わたしの膝は、ガクガクと小刻みに震えていた。

 全く気づいていなかっただけに、真剣な表情のクロエに押し負ける形で、わたしはベッドのある部屋へ強制連行された。


 ◇◇


 2段ベッドがたたずむお世辞にも広いとは言えない部屋に着いたわたしは、まず先客に話しかけられた。


「もしかして......あんたも船酔い?」


 華奢きゃしゃな体を1段目のベッドに横たわらせた猫獣人キャットピープル、見事なまでにダウンしたミーシャが毛布から顔を出していた。


「そんなところ、まあ......あなた程じゃないけどね」


 無駄に心配もかけたくないので、船酔いということにしておく。


「もう......船なんてクソよクソ! なんで陸路で剣を運ばないのよ」

「陸路だとファルクスコーピオンに遭遇しちゃうからだって、関係ないけど最近バイトどう?」


 2段ベッドの上に体を寝かせる。


「店長が鬼厳しい、まかないが全部辛い、店長がクソの三拍子よ。早く辞めたい」


 店長が2回出てきたのは多分気のせいだろう、ただ、なんだかんだ言っても仕事はキチンとこなしているらしい。

 案外、こうして言いたい放題言ってる内は大丈夫そうだ。


「ティナは冒険者ギルドに研修行ってたんだっけ、どうだった?」


 他愛もない雑談が、ベッドの1段目と2段目を行き来する。


「ダンジョンを攻略するのが夢だったんだけどね、それがやっと叶った。フィオーレっていう頼れるお姉さんみたいな人に、イチガヤっていう少し変わった冒険者とパーティーを組んだわ」

「ふーん、ちょっと楽しそうね。でもまあ良かったじゃない、夢が叶ったのなら......」


 毛布を手繰り寄せ、返事を聞きながら仮眠しようとまぶたを閉じたその時だった。

 艦内にけたたましい警報が走り、放送が鳴り響いたのだ。


『総員戦闘配置! 繰り返す、戦闘配置! 高空より未確認飛行物体が急速接近中! 対空戦闘用意ッ!!』


 勇者の剣を護送中の王国海軍、第14水雷戦隊目掛けて、何かが突っ込んで来ていたのだ――――


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