第47話 VSオークロード

 

 ――――古城ルナゲート・上層階。


「やっと着いたわね......玉座の間」


 徘徊するグレムリンを、『暗視ナイトビジョン』によって視界を得たフィオーレが的確に回避し、わたしたちはなんとか玉座の間の入り口と思われる門の前へたどり着いた。


「ついに宝を手に入れられるってわけだな」

「まだあるって確定してないじゃない、早とちりは落胆を生むだけよ」

「わかってるって、さっさと入ろうぜ」

「ったくもお」


 扉を押し開ける。

 巨大な空間は崩落した天井から入る光で満たされていて、どこか神秘的だ。

 しかし同時に、玉座の間を支配する"異形"の姿も照らしだした。


「ブギュアアアアアアアァァァァァァァァーーーッッ!!!!!」


 目が痛くなる程の赤色に覆われた、建物2階分はあろう大きな筋肉質の体。

 巨腕から伸びる手には人間よりずっと大きな木製のこんぼうが握られており、黄土色の目からは明らかな殺意が放たれていた。


「危険指定ランク【B】......!『オークロード』!?」


 目が合った瞬間、敵は図体から想像できない速度で床を蹴り、棍棒を振り上げた。


「ゴガアアアアッッ!!!」

「避けろ! フィオ!!」


 抜剣したイチガヤが真正面から受け止め、つばぜり合いが発生する。


「結構重えじゃねえかデカブツ......!! だが――――――足んねえなあッ!!!」


 イチガヤは力押しで仰け反らせると一気に肉薄、巨石も粉砕する蹴りを放った。


「フィオ!! ティナ!! 畳み掛けろ!!」

「「了解ッ!!!」」


 目には目を、歯には歯を。

 派手な出迎えには本気のお返しが礼儀だろう、まずフィオーレが右脇から剣撃を浴びせた。


「『メテオール』!!」


 流れ星と見紛う速さで駆けるフィオーレは、瓦礫の散乱する広場を迷い一つ無く抜けきると、矢継ぎ早にオークロードの胸部へレイピアを撃ち込んだ。


「ハアアァッッ!!」


 10を超える連撃が咲き乱れ、強烈なノックバックでオークロードは壁に突っ込んだ。

 砂塵が舞い上がり、城全体がゴゴッと揺れ動く。


 並の王国軍騎士を超える機敏な身のこなしと魔法を組み合わせた攻撃は、決して散らぬ花のようであった。

 この隙は逃せない!


「『上位電撃魔法レイドスパーク』!!!」


 節約していた魔力を左手に集中し、一気に発射。

 レベルが上がったことで魔力容量も増えているのか、激しい爆発で玉座の間の一角が吹き飛んだ。


「よっし!!」

「おいおい! あんまし派手にやってると下からグレムリンが来るぞ! もしくはその前に城が壊れちまう!!」


 そうだった、ここは古城。

 あまり威力の高い魔法は無闇に撃つべきじゃない。


「ブルルッ......! ゴアアアアアアアッッ!!!」


 瓦礫を吹っ飛ばし、再び突っ込んでくるオークロードにわたしは弓矢を構えた。

 刹那の時に神経を集中させ、碧眼を見開く。


ッ!!」


 速度によって破壊力を得た矢が、オークロードの右眼を正面から貫いた。


「ギュアアアア!!!」


 アラル村でクロエがオーガの目を潰した時と同様、王国軍騎士として弱点は遠慮なく狙う。

 突進の勢いを弱めたのが運の尽き、待っていたとばかりにイチガヤは剣に魔力を込めた。


「『イージス・ブレイク』!!!」


 オークロードの棍棒は粉微塵に砕け、巨体を床に落とした。

 上位冒険者の攻撃をまともに受けただけに、もはや決着は着いたに等しい。


「これで終わりね、一思いにとどめを刺しましょう」


 あとはオークロードを倒して、部屋を探索するだけ。

 倒れる敵に近付こうとするわたしを、通路の時と同じくフィオーレが遮った。


「......どうしたの?」

「待って、何か嫌な......、真っ黒な魔力が近づいてるの!」


 真っ黒な魔力?

 だが疑問を口に出そうとした間際、倒れるオークロードを踏み潰した"影"によってその真意は明らかとなった。


「なに......こいつ!?」


 消滅するオークロード。

 ドロップしたアイテムを持ちあげたのは、翼をひるがえす3メートル近い漆黒の魔物。


 ほぼ人型だが、間違いなく人間の類いではない。


「おい、あの影が持ってるのって......」


 オークロードからドロップしたアイテムは、光沢の美しい装飾豊かな1本の剣。

 莫大な魔力の込められたそれを、漆黒の魔物は我が物のようにこちらへ向けた。


「伝説の......勇者の剣!?」


 オークロードからドロップしたものは、わたしたちが探していた目的のアイテム。

 たった今それが、目の前で横取りされ、挙げ句こちらへ向けられた。


「こいつは厄介なのに出くわしたな......」


 形容するなら悪魔と言うべき容姿に、思わずたじろぐ。


「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ"ッ"!!」


 王国危険指定ランク【?】。伝説の勇者の剣を振るう魔物は、おぞましい咆哮をあげて突っ込んできた。


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