第9話 戦闘開始!

 

「こちら誘引部隊! 我オーガと接敵せり! これより誘導を試みる!」


 遂に現れた本命オーガ、それは魔王軍の中でも一際大型でパワーのあるモンスター。


「ゴアアアアアアアアァァァァッッ!!!!」


 木々を薙ぎ倒しながら突き進んでくるオーガは恐ろしく、思わず後ずさりそうになる。

 だけどわたしたちの任務は誘導、自警団の魔導士が魔法の照準を向けた。


「「「『ファイアボール』!!」」」


 ナーシャさんを含めた何人かが、魔法陣から連続で火炎球ファイアボールを繰り出す。

 整った集中射がオーガの顔面に直撃、確実に入ったと確信しただけに、突進の勢いを弱めないオーガに誰もが驚いた。


 魔法をくらっておいて無傷!? でもありえないと嘆くのは後だ、肉薄してきたオーガが、巨木のようなこぶしを自警団へ振りかざした。


「うっ、うわあああああ!!?」


 巨腕が自警団の魔導士へ向かう。


「はあぁッ!!!」


 わたしは地面を蹴ると、大木にも似たオーガの腕を横合いから剣で叩きつけ、僅かに軌道を逸らした。


「早く! 離れてッ!!」


 オーガのハンマーじみた攻撃をかろうじて逸れさせると、さらに左手のファイティングナイフをオーガの目へ投擲。

 ナイフが突き刺さると同時、オーガは目を抑えながら断末魔を放つ。


 軍では魔物の弱点についても習う、多くのモンスターが存在する中、大体の敵に通ずる部位は"目"。

 相手の嫌がることは徹底的に、軍で教えられたこの意識はあまり褒められたものじゃないけど。


「だああああッ!!!」


 それでもやるなら徹底的にだ。

 上出来と言えるコンビネーションで、入れ替わりに強烈な体術をクロエが打ち込む。


 半長靴ブーツが叩きつけたのは、目に刺さるナイフ。

 根本までめり込み、オーガの視界半分を奪う。

 さらに、気を引くために自警団が再び詠唱を開始。ファイアボールを発射した。


「ゴギュッ......ガアアアアアァァァァッッ!?」


 さすがに答えたらしい相手が、片方の目から血を滴らせながら突っ込んでくる。

 流れは順調、あとはこれを繰り返しながら後退すれば良いはずだった。


 それだけに、後方に突如出現した"壁"はこちらの作戦を根本からひっくり返すものだった。


「おい! 後方にフードプラント・エルフだ!! 道が塞がれるぞ!」


 地面を破って、さっきクロエを襲った触手がカーテンのように退路を断つ。

 ファイアボールで焼こうと試みるも、数が多すぎる上、呑気な詠唱はオーガが許してくれない。


 気づけばナーシャさん以外の自警団とはぐれ、わたし、クロエ、ナーシャさんの3人は、予定と真逆の海側へ逃げざるをえなかった。


「申し訳ありません! まさかここまでフードプラント・エルフがいるなんて......!!」

「ナーシャさんのせいじゃありません! ここはひとまず逃げましょう!」


 半長靴ブーツやニーハイソックスを濡らしながら小川を下る。

 その間も、オーガは真後ろから雄叫びと共に追いかけてきた。


 ホントにマズい! オーガ相手に真正面から肉弾戦とか絶対無理だし、そもそも火力が足りない。

 "死"が頭をよぎった瞬間、魔導通信機から男性の声が鳴った。


 《こちら戦車! 状況送れ!》


 後方待機の戦車からだ。わたしはとにかく急いで状態を知らせる。


「こちら誘引部隊! トラブル発生により誘導失敗! 現在追撃を受けている!!」


 泣き出しそうな自分を殺し、わたしは状況を淡々と伝える。


 《――――了解した、貴隊の位置を知らせることは可能か?》

「信号弾が一発......、それだけです」


 ナーシャさんが持ってきた信号弾発射機、でも、作戦が破綻した今じゃどう使えば。


 《わかった、北の海岸へ向かい、到着したらすぐに撃ち上げろ! 我々はこれより森を抜けて支援に向かう!!》


 森!? 戦車で深い森を抜けるなんてありえない。

 そんなわたしの懸念を察したように、砲手のセリカからも通信が届く。


 《大丈夫ッスよティナさん、戦車はそう簡単には壊れません! 必ず助けてみせます!》

 《そういうことだ、12億円の税金を今活用しないでどうする! 北の海岸で落ち合うぞ》


 一方的に通信が切られる。


「マジ? 戦車来んの!?」


 これにはクロエも目を見開く。


「あの魔法金属でできた兵器か、ただ、今はそれに賭けましょう」


 言ってる今も、オーガが真後ろから河石を吹き飛ばしながら迫ってくる。

 とにかく小川沿いに、びしょ濡れになりながらわたしたちは走り続けた。




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