第4話 上級魔導士だろうと関係ない!


 【ヴィザード職】、それは冒険者の誰もが頼り、憧れる存在。

 高火力魔法はモンスターを焼き払い、仲間を救う。冒険者パーティーの中枢と言っても良い職業だ。


「『ファイアボール』!!」


 路地裏で発生した闇ギルド員との戦闘。

 取り巻きの魔導士が、初級火炎魔法のファイアボールを放ってきた。

 間髪いれず地面を蹴ったわたしは、針の隙間を縫うように駆けると、一気に接近。


「はああッ!!」


 1人に軍隊格闘の回し蹴りを正面から叩き込み、返す刀でもう片方の魔導士のみぞおちへ拳を打ち込んだ。

 魔導士は近接戦に弱いので、距離を詰めれば素手でも十分対応可能。


「ガッ......!?」


 でも、予想に反して聞こえたのは女性の声。

 倒れた魔導士を見れば、わたしが殴った2人は10代後半の女性魔導士、厚手のローブとフードで体格や顔も隠されていたのだ。


「あらあら、女の子にそんな乱暴するなんて、騎士って怖いわー!」


 あいつ......、まさかこの人たちも最初から使い捨てる気で!?

 レベルは変わったけど中身は当時の、わたしを使い捨てた当時とまるで変わってない。


 これがシルカの本性、あいつにとって人は消耗品に過ぎない!

 外れたファイアボールによって焦げた石壁を背に、わたしはシルカへ正対した。


「でもまあやってくれるじゃないか、まさか捨てたはずのゴミクズが税金泥棒になって、あたしらの家を潰すなんてねえ!」


 シルカの手にバチバチと稲妻が走る、間違いない、魔力規模からファイアボールとは比にならない上位魔法。

 全速で回避行動を取る。


「『レイドスパーク』!!!」


 路地裏を構成する建物が吹っ飛び、暴れ狂う雷が石畳を粉々に砕いた。

 1年前よりもさらに強力になった魔法は、砂塵と共にわたしたちを賑わう大通りに引きずり出していた。


「なっ、なんだ!?」

「きゃああ――――――――!!!」

「にっにげ、逃げろおッ――!!」


 日常を破られた人たちが、蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う。

 最悪だ! あんなのを何度も放たれたら被害はきっと計り知れない。


「やっちゃった......、これじゃ路地裏に誘った意味ないわね。まあいいわ」


 シルカは再び手に魔力を集める。

 まだ民間人がたくさん残ってるのに......!


「シルカッ! ここは大通りよ! こんなところで上位魔法なんか使ったら大変な被害が――――」

「そんなの知ったこっちゃないよ! わたしにはもう失うものなんて無いんだ、なら奪うだけ奪うに決まってるじゃない!!」


 狂ってる......、こんなやつと一時とはいえ仲間だったなんて......。

 シルカは高位魔法すら操る上級冒険者だ、以前のわたしは指一本触れられず彼女に倒された。


 でも今は違う、王国軍騎士として、無関係の人々だけは守らないといけない。それがわたしの責務だから。


「わたしのクラスレベルは56、お前みたいな雑魚がかなう相手じゃないのよ!!」

「やってみなきゃ――――――――わかんないでしょッ!!!」


 シルカの正面に魔法陣が出現し、閃光が瞬いた。

 わたしは足を踏み出す、意を決し、上位魔法を放たんとするシルカへ突っ込もうとした瞬間だった。


「吹き飛べッ! レイド――――ッ!!?」


 照準をわたしへ向けていた魔法陣が、木っ端微塵に砕けたのだ、その様は、まるでガラスのように。


「なッ!! なにが!?」


 動揺するわたしとシルカ。

 その間へ、流麗な黒髪の少女が舞い降りた。


「こんにちはお姉さん、この人今日からわたしのペアなんだ。手を出すのはやめてくれるかな?」


 わたしと同じ王国軍の制服、振り向いた少女は純黒の瞳をこちらへ向けた。


「おまたせティナ、遅れちゃってごめん」

「クロエっ!?」


 さっきの音で気づいてくれたんだ! でも、クロエがいかに徽章きしょう持ちとはいえ、まだ状況は油断ならなかった。


「何っ? 今の......まあいいわ。無駄飯食らいが一匹増えたところで逆転なんかしないわよ、さっきの魔法は集中力を切らしただけ、上級職のエリートであるわたしには勝てないってこと教えたげる」

「上位魔法職ね......、今の立場にすがりついたって、自分の本当の価値って計れないよ」

「ッッ!! ガキにはまだ早いのよ!『レイドスパーク』!!」


 再び閃光が瞬く。


 だが、クロエは唐突に落ちていた瓦礫を拾うと、足を踏み込み、魔法陣を展開したシルカへ思い切り投擲した。

 一瞬、何が起きたのかわたしも分からなかった。でも確実に言えるのは、豪速球で投げられた瓦礫は魔法陣を粉々に砕いていたということ。


「バカなッ!! 魔法陣が!?」


 投擲で魔法陣を破壊するなんて初めて見た。

 記憶の奥、朝に聞いたクロエの演習内容を思い出す。

 彼女は――――


「ストラスフィア王国陸軍、第1アンチマジック大隊所属、クロエ・フィアレス。悪いけど、わたしに魔法は通じないよ」


 アンチマジック大隊、それはわたしも噂には聞いていた。

 対魔導士の切り札であり、属する者はレンジャー騎士と並んで精鋭と言われる騎士ばかりだ。


「魔法はわたしが砕くから、ティナはあいつにお灸を据えてやって」

「――――了解ッ」


 わたしは一気に踏み出した。弾幕のような雷魔法を一気に強行突破。

 クロエの掩護で再び魔法陣が割られたと同時、シルカとの間合いをあっという間に詰めた。


「闇ギルド、ヴィザード職のシルカ! あなたを拘束します!」


 腕を掴み、そのまま地面へ押し倒すと、わたしはシルカを上から抑え込むようにして腕をガッチリ固めた。


「あなたたちのしたことを、わたしは絶対に許さない。もうこれ以上被害者は出させないわ!」

「ッ......!! あんた、この一年でどれだけ......。何者なのよ!?」


 前回と全く逆のシチュエーション、石畳に押し付けられ、目だけを向けるシルカに、わたしは改めて名乗った。


「ストラスフィア王国軍、レンジャー騎士ティナ・クロムウェル。あなたたち闇ギルドを葬る王国の剣よ」


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