第49話 二人の絆
アメリカ西部の荒野、トリスタンの牧場で過ごした三週間の滞在と取材を終え、夜遅くサンフランシスコ空港に着いた私たちは、ホテルの最上階にあるアンソニー所有のペントハウスに泊まることになっていた。女優で二人の母・サマンサは、トリスタンの牧場にしばらく滞在し、トリスタンとの時間を過ごすことになっている。
「母さん、映画の撮影が終わったばかりで、しばらく自由な時間があるから、牧場に残ってトリスタンと一緒に過ごしたいって……。やっぱりトリスタンのことが、気になるんだよな」
「アンソニー。トリスタンとお母さんにやきもちを
「いいや。僕にはカレンがいるから、やきもちなんか
「カレンこそ……」
そう言いかけて、アンソニーは口をつぐんだ。
「カレン。こうして一緒に過ごせて嬉しいよ。僕は今まで自分自身のことに気づいていなかったけど……。すごく、独占欲が強いのかもしれない。カレンのことになると、冷静ではいられなくなるからね」
「もう……アンソニーったら」
テラスから見えるサンフランシスコの夜景は、キラキラと輝いて夜風がわたしの髪をサラサラと揺らしている。隣で肩を抱き寄せるアンソニーに顔を近づけてにっこりと微笑むとアンソニーはわたしの髪を撫でながら顔を近づけて、そっと触れるだけのくちづけをする。
アンソニーの腕に抱かれながら、二人でじっと夜景を見つめていた。
◇ ◆ ◇
翌日、アンソニーと一緒にナパへ戻ってくると、玄関で帰りを待っていてくれたのは、デビットとマリアだった。
「おかえり〜ぃ、カレン。もう、帰ってこないんじゃないかって……心配しちったわよ。よかったわ〜。あなたがここを出て行って日本へ帰った後のアンソニーったら、もう目も当てられないくらいひどかったのよ」
「えっ? アンソニーが……?」
「そうなんだよ。いつも、冷静でクールなアンソニーがだよ」
笑いながらマリアが答える。
「カレン。僕は、ジーナに君への思いがどれほど深く、どれほど愛しているかを伝えたんだ。どんなに妨害されても僕はカレンを諦めないってね。彼女はそれを聞いて、ここを飛び出しイギリスへ戻ってしまったよ」
「あの時は、ちょっとスーッとしたわよ」
「そうだよ。あのジーナが、泣きながら出て行ったんだからね」
マリアとデビットが
「あの日、僕が目をさましたら、カレンがサヨナラも言わずにここから出て行ってしまった後だと知ったんだ。急いでサンフランシスコ空港まで車を走らせて君を追いかけたんだけど、残念なことに飛行機は、離陸した直後だった。空港から戻って、すぐに信二と連絡を取ったんだ。何が、起こったのかを知りたかったからね。メールでカレンからの報告を教えてほしいと頼んでみた。康代は教えてくれなかったけど、信二が康代に内緒で教えてくれたんだ。それで僕の身に何が起こったのかを知った。すべてジーナの
「そんなことになっていたんだね。ありがとう……そして、ごめんなさい、アンソニー。わたし……いつかジーナとも仲良くなりたい。今すぐには無理かもしれないけど、いつか時が経ったらきっと仲良くなれる気がするの。だから、アンソニーもジーナのことを許して、また兄妹のように戻れるといいね」
「もう〜。心配しなくても大丈夫よ。ジーナのことだから、しばらくしたらぁ、平気な顔してここへ登場するわよん。私……ああいう、ひねくれた子の心理がわかるのよぉん」
「あら、デビット。そういえばあんたもひねくれてたからねぇ〜。ここに出入りし始めた頃は、よく私とやりあってたよね」
マリアが笑いながらデビットに答える。
「いや〜ねぇ。マリアったら……。今じゃ私たちこんなに仲良くなったじゃない」
「そうだよ。デビットでさえ、変われたんだから、ジーナだってきっと変われるよ」
マリアが確信するように頷く。
「ジーナとは、少し時間が必要かもしれないけど、きっとわかってくれる日が来ることを祈ってるよ」
アンソニーの言葉がジーナに届くことをみんなが願っていた。
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