第17話 アンソニー編⑫ 最後のダンス

 編集長……滅茶苦茶めちゃくちゃ怒ってたな。


 しっかりと取材して、絶対に期待を裏切らない「世界の男図鑑」記事を書き上げなきゃ。私が出来ることは、仕事を完璧にこなすことだ。編集長のメールは熱を帯びた私の頭をハンマーで殴るような厳しい文体だった。




 楽しかったサンフランシスコ観光を終え、アンソニーの別荘へと戻り、平穏な日々を送っていた。


 「カレン。どうしたの」


 アンソニーが、パソコンを見ながら落ち込んでいる私をのぞき込んできた。


「あっ……なんでもないよ。今ね……アンソニーの記事を入稿していたところだったの。笑顔がいっぱいで、凄くかっこいいアンソニーの写真を編集長に送ったよ」


「レンズの向こうにいる君に微笑んだんだよ。君への笑顔だってことを忘れないでね。ところで・・僕はもう仕事を終わらせたけど、カレンは、あとどれくらいで終わりそう?」


「あと、10分くらいで終わりそうだよ」


「じゃ、1時間後には、出発できそうだね。今日はダンの運転するリムジンで行くから二人で飲んで楽しもうね」


 今夜は、アンソニーとサンフランシスコバレエの特別公演ガラを一緒に鑑賞する約束をしている。特別公演ガラの後にはアフターパーティも開催されるので、とても楽しみにしていた。


 でも・・明後日あさっての帰国を考えると、今日が・・二人にとって最後の外出になることはわかっている。考えると、どうしても涙が溢れてきそうになる。


 サンフランシスコバレエは、全米一古いバレエ団で、アンソニーはデイレクターと知り合いということもあり、バレエ団に寄付をしている。

そして、毎年、特別公演ガラとアフターパーティに参加している。


 今夜の特別公演ガラは、バレエを見たことがない私でも楽しめる演目で構成されている。眠れる森の美女のワンシーンやシンデレラなどの見せ場シーンをドラマティックにダンサー達が演じる。


「うぁっ。すごく綺麗で夢の世界にいるみたいだな」


 ダンサー達の鍛えられた肉体美と厳しいレッスンによる磨かれたダンスは、見るものを一瞬で虜にし、感動のあまり涙が出そうになる。


「アンソニー。連れてきてくれてありがとう」


「カレン。喜んでもらえて嬉しいよ。バレエ公演の後は、隣の会場へ移動してパーティだよ」



 パーティ会場には、美味しい料理とシャンパンなどのお酒がたくさん用意されていた。ダンスフロアーでは、陽気な曲が流れ、たくさんの人達が思い思いにダンスを楽しんでいる。


 まずは、腹ごしらえしようと、私達は料理を皿に取り舌鼓したつづみしていた。


「カレンのお腹がなる前に、しっかり食べないとね」


「えへへ。そうだね。まずは食べないと……」


 雑談しながら、美味しい料理を食べていると、背筋がピンと伸びた背の高い素敵な男性が声を掛けて来た。


「やぁ、アンソニー。久しぶりだな、元気かい?」


「ポールじゃないか。ボストンからわざわざ来たのかい?」


 二人は旧知の友人のようだった。


「カレン、ポールは僕の幼馴染おさななじみでボストンバレエのプリシンパル・ダンサーなんだよ」


「ポールさん、初めまして。日本から来た、カレンです」


「ポール。カレンは僕の取材をするために日本から来たんだ」


「へぇ〜、それだけには見えないけどな。女嫌いのアンソニーが取材を受けて、こんなに笑ってるんだぞ」


「カレンとはこの取材が縁で、今は付き合ってるよ。そうだ、ポール。今度、カレンの取材を受けてくれないか?ポールなら幼馴染だから安心だ。カレン、信二と康代にメールしておくからそうしなよ」


「えっ……いいんですか?」


「なっ、ポールいいだろう?」


「ハハハ……。仕方がないな。バレエ団に許可をもらったら連絡するよ。アンソニーの頼みだからな」



 3人で話していると、ポールさんにサインを求める女性達が現れた。

バレエ界では、超有名人らしい。サインをして写真もお願いされたポールさんは「じゃ、また」と言ってファンの中にスッと入って行ってしまった。


 バレエダンサーの生活に密着も面白い記事になりそうだな。


「僕が、君の取材する相手を見つければ、変な心配しなくてすむからね」


 アンソニーが、ヤキモチ?


 ちょっと可愛いな。そんなことを考えていると優しいメロディーが会場に流れ出した。



♫ 暗がりのなかでダンスをしよう・君は僕の腕のなかだよ


芝生の上で裸足になって・お気に入りの歌を聴きながら♬


ひどい服だよねって君はいうけど・僕は小さな声で囁くんだ


君はパーフェクトだよって・・♫



 Ed- SheeranのPerfectだ。 



 初めてのデートの時に、アンソニーがくちずさんでいた曲もEd-Sheeranの曲だった。アンソニーが大好きなEdの曲。


 ガチガチに緊張してた時に、Edの曲が流れてきて、少し緊張が解けたんだよな。あれから、3週間。いつのまにか・・あっという間に過ぎてしまった。


 急に、寂しさがこみ上げてくる。



「カレン。一緒に踊ろう」


アンソニーに手をとられ、ダンスフロアーの人混みの中へ紛れ込む。



♫見つけたんだ 誰よりも強い女性を


僕と夢を分かちあってくれる君といつか一緒に暮らしたい♬


♫さあ 僕の手をとって


♫僕の未来が 君の目にうつる



 ミラーボールがクルクルと回っているフロアは、華やかな人々の笑顔があふれている。なのに……。


 私は……なぜか切なさで胸が押しつぶされそうだ。


 アンソニーの胸の中でダンスを踊っていると淡い夢を見てしまう。

きっとEdの曲の歌詞が耳に響いてきたせいかもしれない。



「カレン。僕は待ってるよ。君が担当している「世界の男図鑑」の取材が終わったら、一緒に暮らそう。信二には、僕の気持ちを伝えてあるから、仕事は、アメリカで続けられるように信二と康代にお願いするよ」


「えっ。それは……?」


「カレン、愛してる」



 アンソニーに初めて「愛してる」と言われ、愛の告白をされた。

そして、その2日後、私は日本へ帰国した。



◇ ◆ ◇


*Fabulous ・ファビュラス*特別企画

編集長・康代が教えちゃう!!

♡ 海外恋愛レッスン・初級編①♡


 アメリカの恋人達は、LikeとLoveをきっちり使い分けるって、みなさんは知ってるかしら。アンソニーも「好き」と「愛してる」を使い分けていましたね。可愛いとか、好きとかは、付き合い始めの好意を表す言葉なのよ。純情な日本人はここで勘違いして、騙されちゃうのね。気をつけて!!


 アンソニーもカレンと知り合ってすぐの頃は、I like you. (好き)でしたね→これは、あなたのこと気に入ってるって意味で、君のことが知りたいなっていう意思表示ね。


 心から好きでたまらないって感情になったら、I love you.(愛してる)と告白してくるわ。Make loveをするような関係なのに、Love を使わない外国人には要注意よ!!


(家族とかすごく仲の良い友人同士もLoveを使うけど、ここでは普通の男女がおつきあいしていく過程の中のことだから間違えないでね)


 もし、あなたの気になる外国人の彼(もしくは彼女)が、Loveをいつまでも使ってくれなかったら……さっさと、Move on (次の恋)しちゃいましょうね。


♡ 編集長・康代の恋愛レッスンは、不定期掲載だけど楽しみにしてね♡


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