優しい時間が続きますように

姫井珪素

第1話 お金と女の子には大概勝てない 

「お前さん血を売らないかい?」

 医者、仁村の提案は少しばかり魅力的であった。

 万年金欠の僕にとって、楽して金が手に入るのは望む所ではある。

 だが、しかし。

「合法なのか?」

 確認することは確認せねばならない。

「お前が法律を気にするとは思わなかった」

 失礼な物言いだと思った。必要があれば違法行為も多少するが、合法である

ことに越したことはない。

「勿論合法だ」

「信じていいんだな?」

 当たり前だろう、と仁村は言う。

「患者にな、ヘマトフィリアがいるんだ」

「ヘマト……なんだ?」

「……何故知らない」

 嘲るでもなく、本当に驚いた様子で僕を見た。

「知らないものは知らない」

「ヘマトフィリア――血液嗜好症だとか好血症ともいう。血を飲みたくとなる

奇病だよ」

「へぇ、そんなものがあるのか」

「その衝動を抑えるために代用品で抑えていたんだが、限界らしくてな。お前

なら協力してくれるだろうと言っちまった」

「おい待てこの野郎。何勝手に許可出してるんだよ!

「まぁまぁ、人助けで金が入るならいいじゃねぇか。結構な額が約束される筈

だ」

 ……。

「興味はないが、いくらくらいだ」

「――ところで、この窓から馬鹿でかい屋敷が見えるよな」

「ああ。この街一番の金持ちが住んでるんだよな」

「その通りだ」

 互いに顔を背けて会話を続ける。

「ところで、女子高生っていいよな」

「僕は中学生くらいが好みだ」

「ところで、あのお屋敷のお嬢さん大層可愛いみたいだぞ」

「そうなのか。全く関係無い話だな」

「そう、全く関係のない世間話だ。他意はない」

「さて、用事が出来た。僕はこれで失礼する」

 お金と女の子に弱いのが僕の欠点だと思う。

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