前章ー2

滅亡まで、あと28日 後編

さすが、国内有数の経済都市といわんばかりの人の賑わいだ。

見渡す限り、人、人、人。

俺たちは過密状態の商店街を通る。

というのも、あの展望台であろう建造物にチトセと共に向かっている。


俺の横につくチトセの目はとても輝いて見える。

きっと、チトセ目には目新しいものばかりが映っているに相違ない。

「すごい人の賑わいね。人がまるで米粒のように見えるわ。」

と、高ぶる気持ちを抑えきれず言葉を漏らす。


流石に誇張しすぎなのでは…、と、思ったが実際に多すぎるのも如実。

戦争中とは思えない人の笑顔。


―――さすがに不自然だ。

この都市は最前線に一番近い。

それなのに…なぜ?

なぜこんなにも人が溢れかえっている?

なぜ戦争の危機感を全く感じないんだ?

なぜ?


いや。流石に考えすぎか…。

最近目が回るような出来事しか起きてないからな…。寝不足かもな…


「アヤト!ねえ!聞いてるの?」

「え?!あ、あぁ…。ごめん。」

「もう着いたわよ。早く上に登りましょ!」

気づけば目の前には、視界からはみ出そうな石造りの大きな建物。

きっと歴史的建造物かなにかだろう。

周りの人が

「これって300年前に作られたそうよ」

と言っていたので確証を得ることが出来た。


次々に人が建物の中へ…

どうやら展望台で間違いないらしい。


チトセが手招きをしている。



――――――――――――――――――――



「下がスケスケね…」

と、震えた声で勝手に人の腕にすがりつく。


怖いのもわかる。

最上階へのエレベーターがとても古く、したが金網なのだ。

―――ゴゴゴゴゴッ。

と、上へ動く。


下からは風か吹いてくる。

「怖いわ…。落ちたりしないかしら…」

さっきの期待の笑はどこへ。

「怖けりゃ下を見なければ済む話だろ?」

と、言えば、今度は俺の顔をまじましと見つめてきた。

そんなに見つめられると、こっちが困る。


不謹慎な話だが、怖がっているチトセは少々可愛げがあった。



――――――――――――――――――――




エレベーターの性能が悪いのか、着くまで10分の時間を要した。

チトセの顔に颯爽とした表情は残ってなく、全てあのエレベーターで絞り出されたようだ。

そんな様子も売店の菓子を三つほど買い与えたらすっかり元どおり。

いつもの凛とした風格になっていた。


「アヤト!!こっちよ!!」

裾を引っ張りいそいそとどこかへ誘導する。

「見て!!この景色!!」


彼女の指差す先。

それは人の心を清廉潔白にしてしまうほどの夕焼け。


淡いオレンジが空、建物、自然、そして、チトセをも染め上げる。

視界に映る全てが淡いオレンジ。


「綺麗…」

「そうだな…。陶酔するのも時間の問題かもな…。」

その言葉のとうり、日が沈むまでつい見入ってしまった。


――――――――――――――――――――



その後、展望台を後にして、適当な大き宿を見つけたのだが…。

チトセが、

「部屋?一部屋にベットが2つあるなら人部屋でいいじゃない?」

―――お前は良くても…

しばらく自分の理性と葛藤し、後ろめたい気持ちはあったものの…


「一部屋お願いします。」

と、『いたいけな少女と同じ部屋』という選択に至った。

自分の選択に悔恨はない。


まぁ、こちらの方がこれからの計画の相談に都合がいいし…


そんな感じで案内された部屋に行き着く。

「先に風呂に入ってきたらどうだ?下に温泉があるらしい。」

「そうね…。先に行ってくるわ。」

と、部屋を出るチトセ。


別に覗くわけではない。

ただ単に明日の確認をしたかったのだ。

明日の計画を要約するとこうだ。


朝、馬車で首都へ行く。

その後、ここへ派遣された工作員と合流する。

としか、例の計画には書いてなかった。

「詳しくはその人から話を…ってことか?」


テスを疑う訳では無いが少し心配だ。

こんなにも大雑把でいいのだろうか。


その後、何事もなく、温泉に入る。

部屋に戻ろうと自分の部屋の前に立つ。

ドアノブに手をかけた瞬間。


「開けないで!!」

と、ドア越しから叫び声

「私、いま裸なの。」

―――なんで服着てないんだよ!

「どうやって裸でここまで来たんだ?」

「バスタオルでよ。着替えを部屋に置きっぱなしだったのよ!」


ひとまず、人の裸体を勝手に見る訳にも行かず廊下で待つことになった。


「いいわよ。」

その言葉を合図にドアが開く。

チトセは寝巻きの姿に着替えたらしく。髪の毛をポニーテールにまとめていた。


裸で出迎えるイベントを2ミリほど期待していたのだがそうはいかないらしい。


明日の計画を5秒ほどで終わしたあと、早朝に出発しなければいけないこともあり、早急にベットの中に入った。


時間は九時頃だろうか、少し早いだろうが男女が部屋で二人っきりというシチュエーションは初めてで、平然と悠然とできる度胸は備わってないのですぐ寝ようと目を閉じる。


「明日で終わるのかしら…」

と、つぶやく声。

チトセの方向を振り向くと、ベットに入ったままこっちを見つめていた。


「何が?」

「戦争の終結。国のトップを暗殺したところで本当に終わるのかしら。」

「やつの独裁政治なんだろ?同じ思想を持っている人間が他に?」

「確証がある訳では無いの。ただ単にそう思っただけ…」


少し間を置く。

「もしそうだったとしても、その時はその時、また策を練ればいいだろ?まだ時間はある。」

「そうよね。実はね、温泉である人に聞いたの。この国について。」


「それで?」

つい、体を起こしてしまった。


「あなたも気づいてないでしょう?彼女は言っていたわ。この街には市民に紛れて警察がうようよいるらしいわ。政権の不満の声があれば捕まって拷問されるって話よ。」


全然気づかなかった。

さっきまですれ違った人の中には目を光らせる警察がいたなんて。

もし、あの中で、不自然な行動してたら…


「そのおかげか、支持率100%。彼女は言ってたわ。『この宿の客にも紛れてるかも』って、恐ろしいわ。今ら小声で話さなかったら…」


「そうだな…。」


「もう寝ましょう。疲れたわ。」



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