第2話 少しの期待と大きな不安

(…え?

何これ?どうしたらいいの?)


倒れ伏したまま動かないわしを指でつつくが反応はない。死んでしまったか?という心配も束の間、鷲がゆっくりと起き上がる。よろけて立つことすらままならず、やっと立てたと思えばまた転がる。


「本気を出すことも…許されぬ…の…か……」


小さな声で何かを言っているが聞き取りづらく、先程までの元気はどこへやら、という感じだ。

…いつもの私の日常も、どこへやら……


「…もういい、わしは疲れた。寝る」


「え!?ここで寝るんですか…!?」


(嘘でしょう?いや嘘だよね…嘘って言って、頼むから。お願いしますから…)


内心の願いもむなしく鷲は床に寝転がったまま動かない。一気に色々な感情が押し寄せ、大きな溜息を落とした。私は明日も仕事があり、暇などではない。

…鷲の処遇しょぐうには悩んだ。外に放り出したらパンジーに何かをされるかもしれないという危険から追い出すことなく、部屋の隅に移動させてタオルを掛けて放っておいた。自分はベッドに入り、これからの生活に絶望と変わる未来を予想しながら眠りについた。



「…!…い!おい!起きろ!」


「……うるさい」


「煩いとは何だ!この儂に向かって!」


嫌々ながらも目を開ければ上に鷲がいた。ばさばさ、と音を立てて激しく翼を動かし、羽根を床に落としている。

どうやら怒りを表現しているらしいが、普段と何ら変わりはない。つまりは普段から怒っているということだな。うん。

昨日の出来事を思い出すまでに時間はかからず、起きてからも早々に溜息を零すこととなった。

無残にも切り傷の付いたフローリング、壁にもいくつかの傷跡…もはや、思考するのまでもを諦めそうだった。


「…起こしてくれてありがとうございます、出ていってください」


私の大事な、家族とも呼べる『チンパンジー』に水をやって癒された後。ガチャリ、と無機質な音を立てて開いた玄関、そして私の疲れきった表情を見比べて何かを考えている鷲に苛立ちがつのる。


(考えなくていいでしょ、出てけばそれで済むんだから…)


そもそも何故ベランダにいたのかも分からないのに文句を言われて部屋に危害を加えられ、かつ弁償をすることもない。そんな奴に優しくする筋合いなど持ち合わせていなかった。


「…儂は出て行かぬ!ここで暮らすとしよう」


長い時間を使って出した答えに満足しているのか、ドヤ顔だった。…後ろに効果音でもついてそうなほどの。


「…はぁ!?」


勿論納得なんてするはずもなく、開けっ放しの玄関から声が漏れるという心配も忘れ、ただ困惑の意を叫んで示した。

わずらわしい、と言いたげに耳(?)を翼で塞ぎ、迷惑そうな表情を向けてくる。


「何考えてるんですか?そもそも何故私の所に来たんですか?」


苛立ちも募って最高潮、早口でまくし立てるよりも冷静に聞きたいことを問いかける。

…きっと、文句を言ったところでこの鷲は態度を変えることなどないのだろうから。


「…そうだな、帰ってきたら教えてやるとしよう。お前の質問の答えを、お前にもわかるように考えておこうじゃあないか。」


分かった。十分に理解した。この鷲は、人を馬鹿にしている。下という認識をしているようだ。…今に分かったことではないが。


「帰ってきたら…って、仕事……!!」


言葉の意味を理解した私はバタバタ、と慌ただしく駆け回る。朝ごはんを食べる時間もなく、着替えて軽い化粧をし、荷物確認を行えば急いで家を出られる格好になる。


「貴方…、帰ってきてこれより酷い惨状になっていようものなら、もう容赦しませんからね!」


これ以上の無駄な出費は私の命にも関わってくる。本当に迷惑な話だ。まさか誰もこんな事態になるなんて予想できないだろうに、お金の管理も楽ではない。


「恐ろしい奴だ。早く行けば良いものを」


鷲は容赦しない、という単語に体を小さくすくめ、恐ろしいやつだと告げる。全く、誰のせいだと思っているのか。本当に自分に非はないと言いたいのだろう。


「…じゃあ、行ってきます…荒らさないでね」


「ああ、行ってこい…それは儂の気分だな」


…1人で暮らすことに慣れた自分に「行ってらっしゃい」という単語が投げかけられるのだ、どうにも落ち着かない。

落ち着かない理由は、それだけではないのだろうけれど。


(…ああ、不安だ)


どうにも信じきれない鷲を思い出しては気分が沈む中、重い足取りで仕事場へと向かっていった。


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どうも虚良そらです!

中々に書きごたえある内容でびっくりしました…笑

もしもこの書き方(書体や改行)が読みづらいという方がおられましたら、一言。申し上げていただければ幸いです。

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ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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