第17話
各自作業を終えて、3人そろってのご飯。3人で食べるのは初めてだな。
兄さんがエグナーと食べるのを許可するなんて、警戒は薄れたのかな? 別々に食べるのは仲間外れっぽくなるから、さすがに良心が痛んだだけ?
理由はどうであれ、平穏そうに3人で食事ができるのはうれしい。
「意外に器用なんだね」
そんな中、おもむろに兄さんは口を開いた。
「不器用覚悟で任せたの?」
さすがのエグナーも苦い笑顔をのぞかせた。
うまくできるかわからないけど任せたなんて。満足な結果にならなかったら、怒るネタにしようと考えていたように見えてしまうかも。兄さんはそんな人ではないのに。
「ぶ厚くむいても平気な素材だっただけだよ。案外整っていて、驚いただけ」
「あれくらいの仕事なら、いくらでもやるよ」
かたい皮むきも『あれくらい』で片づけられるなら、地味に頼りになるかも。
「力仕事はできるのかい?」
「どんとこい!」
力が必要な仕事なんて、家にあったっけ? 兄さんが個人的に頼みたいことでもあるのかな?
「いくらでもやるよ! 一宿一晩の礼だからな」
兄さんはおだやかな表情に戻っている。マジメな仕事ぶりに、警戒はゆるんだのかな。そう思えるまでになったと判断したからこそ、家に呼んだのかもしれないけど。
「こうやって助け合うのって、大切だと思うんだ」
明るいままだけど、どこかマジメさもあるエグナーの声音に耳を傾ける。
「過去につらい経験があったんだと思う。でもその冒険者に悪意があったわけではない。むしろ、そこまでして助けてもらって、恩返ししたいと思ったはずだよ」
昔、島の人が助けた冒険者。
助けたせいでこうなったと解釈されて『よそ者の忌避』という感覚を根づかせてしまった。
「行きずりの人にレアな素材を使って治療するなんて、そうそうできないよ。でも、それをした。迷いなくできるだけの優しさがあったんだ」
エグナーはまっすぐ兄さんを見つめる。
「ご先祖様がそこまでして『助けたい』と思った冒険者を嫌わないでほしいな。むしろ、救ったことを誇るべきだ。悪しき歴史に変えないでほしい」
「その冒険者がきっかけで島が変わったのは、事実だよ」
反する意見がぶつかろうとしている。うちはどっちの味方をするでもなく、無言を貫いた。
「だったら、また変えればいいよ」
エグナーは明るく笑った。
「こうやって、オレを家に置いてくれる。助けてくれる。この思いを広げて、すべてのよそ者を受容できるようになればいい」
「簡単に言うね」
「簡単だからだよ」
兄さん、エグナー。2人の言葉がじんわり心に届く。どちらの意見が正当かわからない。
でもうちは、エグナーの意見をとりいれたい。よそ者でも隔てなく接するような島になってほしい。
エグナーの言うみたいに『簡単』なことなのかは、見当もつかない。それでも、そんな未来を望んでしまう。
納品ノルマが続く限り、そんな日は夢のまた夢なのかな。
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