第1話

「いってきまーす!」

 元気よく玄関をあけ、今日も今日とて楽しみな学校へ向かう小学生の姿があった。  

 赤い名札に、群青色の柄の真新しい傷が増えてきたランドセル、五月の初頭に似合うポロシャツに、暑さにやんちゃさを足した結果、少し早いと母に止められつつ、もう子供じゃないんだから自分で決めると駄々をこね無理に来てきた半ズボンをはいた彼、斎藤啓太は学校に向けて今日も走っていた。


「さて今日は…こっちだ!」


 分かれ道で木が倒れた方に足を進める。しばらく歩くと、そこは行き止まりになっており、一階建ての貸家住宅が立ち並んでいた。


「えぇー行き止まりだぁ…困った」


といいつつもニヤリとイタズラに笑みを浮かべると啓太は塀を登ろうとするも、7才の身長では流石に届かない。


「むー…流石にダメだ…そうだ!」


 啓太は肩からランドセルをおろし、腰に巻いたベルトをほどいた。ベルトの金具をランドセルのキーホルダーをつける位置に金具を固定し、輪を作る。そして側に落ちていた少し幹の太い木を片手に、ランドセルを踏み台に塀をよじ登る。


「ふぅ…よし!」


 塀を登りきったことに安堵し、ベルトで輪を作った部分に木を引っかけ持ち上げる。


「うぅ…重たい…でもあきらめないもん!」


 やっとの思いで塀の上にランドセルを引き上げ、背負い直すと、次は低い住宅の屋根によじ登り、密集地ということもあり家々の距離が近く、ぴょんぴょんと屋根と屋根の間を飛び学校に向かう。


「こらぁぁぁぁ!!!」


急な怒号に驚く。


「屋根なんぞにのってあぶねえだろうが!!!」


「やべ!」


捕まる前にと急いで屋根を跳び跳ねる。


「さてここらへんかな…」


降りる場所を見つけ怒鳴り散らしている親父にべぇっと挑発をかまし、彼は屋根から姿を消す。

屋根から塀を伝い降り、塀からフェンスへ移り、それを伝いいつもの通学路に入る。


「おはよー!」


 クラスメイトと挨拶を交わし、やんちゃ坊主啓太の学校生活が今日も始まるのであった。




「フフッ…とんでもなくやんちゃな七才児ですね…」


啓太が位置する場所から少し離れた場所に、女はいた。少女というほど幼くもないが、大人びた顔に少しあどけなさを残し、髪は黒にセミロング、背はスラッと高く、165cm程だろうか。

 片手には、コンビニで期間限定から最近昇格し、定番商品になった、蜂蜜抹茶ラテ。ズズズッっと最後の一絞りを吸い上げ、くしゃっと空の入れ物を潰しその場を後にする。そして去り際一言呟いた。


「また会いにきます。私の可愛い王様❤」

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