選ばれたのはショタっ子でした。

ミズキミト

プロローグ

轟音があたりに鳴り響く。周りは逃げ惑う人々、奥には空まで立ち上る大火。

次々と仲間が死んでいくさなか少女はその戦場を走っていた。いつもの静かな夜は三日前に終わりを告げた。


 少女の国の王が三日前に殺された。王の首を片手に光を従えそれは静かな夜に現れた。一瞬にして世界は白一色に染まり、次の瞬間にはそこには今まで暮らしていた集落ではなくただただ永遠に続く荒野が広がっていた。


どんな音だったのかすら覚えていない。それほどの衝撃音であった。耳は聞こえない。

 自分に起こった異常に混乱する。耳を塞ぎ、目を閉じ、必死に目の前の夢から覚めろと自分に言い聞かせ、その場にうずくまっていると逃げ惑う人々の郡とぶつかりその場に尻餅をつく。起き上がるとそこには男が立っていた。何かを一生懸命話しているようだが、耳が聞こえないため何をいってるか聞き取れない。光で目もやられてしまい、ぼやけて顔もわからない。

 ぼやけた少女の世界に写るのは逃げ惑う人々と、炎に包まれる真っ赤な世界、その先に暗くはだけた荒野が延々と広がる。そして空中には光。四点の光。ひとつひとつ色が違うように見える。そして地上にもひとつ。

 空にある光よりも眩い輝きを放っていた。

少女は幼いながらに理解した。齢5才の少女にこれを理解せよというほうが無理な話なのだが、少女は理解した。お迎えがきたと。昔母親に死ぬ時は必ず天使が空からお迎えにくると聞かされていたからだ。

ここは聞かされていた天国とは違ったけどお迎えが来たんだと少女は思い、空に手を差し伸べた。眩い光に手を翳す。



「君にはあれは天使にみえるのかい?」



声が聞こえ、我に返る。浮世離れした世界に夢中ですっかり目の男の姿が目に入らなかった。



「お迎えがきた。ママがむかしいってたもん」


「そっか。でも必ずしも天使のお迎えを受ける必要はないよ」



こえの聞こえる先に視線が動く。背の高い男だった。顔は暗くて見えなかったが恐らく若者だろう。



「君には君の平和を脅かすものにただただ蹂躙されてしまっていいのかい?」



 少女には言葉の意味が分からなかった。5才の少女には難しい言葉ばかりでこの光景と相まって理解が追いつかない。

“ゴォォォォォン!”

 轟音が鳴り響く。少女と男はひたすら逃げ惑う人達のなかただその世界にたたずんでいる。光は逃げ惑う人達を追うように近づいてくる。



「難しい話したね。すまない。君にも分かる言葉で説明するにはこの状況はあまりにも残酷だ」



大人は笑いながら頭をかく。



「さて…さすがにここに突っ立ったままだとそろそろやばいかもね」


「でもパパもママもどこにいるかわからないから…いくとこない」


「そっかぁ…んじゃパパとママのところにいけるかは分からないけどこれをあげる。これがあれば君を悪いほうには導いたりしない。これを大事にもってるんだ。そしてしっかり今日起こったことを目に焼き付けて覚えておいて」



その男は自らのぽけっとから小包をとりだし、少女の首にかけた。



「うん。おぼえてる」


「そして、あの光が、君からすべてをうばったのが…」



言葉をすべて言い切る前に世界は眩い光に包まれた。赤が白に替わり、けたたましい轟音と突風が巻き起こった。

 気がつけばそこには少女だけがひとり荒野に佇んでいた。


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