正美~ネズミだった私~

加藤ゆうき

第1話二十九歳

 九州のとある街にあるハローワークから、一人の女性が出た。

 彼女のバッグには財布と携帯電話の他に、日付を記入していない履歴書、職務経歴書、履歴書用証明写真三枚、そしてハローワークの紹介状がクリアファイルに綴じた状態で入っている。

 正美まさみ、二十九歳。

 この街に引っ越して一ヶ月、アルバイトにて生計を立てながら、正社員の求人に応募している。

 他業種に応募するも、年齢を理由に毎回不採用という結果が届くが、本人は気にしていない。

 月給に差があるだけで、求人自体は毎日更新されている。

 それだけ仕事があるので、再就職できないのではないかという不安はない。

 万が一の場合はこれまで経験してきた業界に戻ることを検討している。

 それよりも正美が気にしているのは、ハローワークが位置する表通りを歩くことだ。

 中学生の頃より顔立ちがほとんど変わらないので、正美を良く知る者が指差すかもしれない。

 非難、罵倒、嘲笑。

 誰もが良い意味で、正美の名を呼ばないだろう。

 これまでひた隠しにしてきた過去を知る限りは。

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