第17話 逞しすぎるボディ。
「日本の技術ってすごい」
あれからずっと、俺の両手の自由を奪っている結束バンドをそこそこエッジの効いた鉄板の角に擦り続けているのに、ご丁寧に「made in JAPAN」の文字だけ刻まれたプラスチック製品には、徐々に筋目が入るもののまだ切れる気配はなかった。なにこれ。なんなのこの製品クオリティ。
「ああ! くそ……! だーめだ!」
長時間動かし続けて腕はもう限界。俺は手を止めてどさりと後ろの壁にもたれた。拉致されてからどれくらいの時間が経ったんだろう。
天井の蛍光灯は相変わらずチカチカと辛気臭く点滅している。
ところでさ、いくらなんでも放置しすぎじゃないか?と思う。
目が覚めてから、腹時計的には2時間以上は経ってるだろう。
でも未だに救出班どころか、犯人らしき人物も現れていない。
せっかく攫ってきといて放置って、ほんと何のために拉致なんかしたんだろうね。
「犯罪者も忙しいってか」
犯人の目的がわからなくて、ついつい独り言が多くなる、
カニバリズムの変態野郎か、はたまた俺なんか狙っちゃう奇特な性犯罪者?
あ、そうだ。ジグ○ーって線もあり得るな。この首に繋がれた鉄の首輪とかめっちゃそれっぽいし。
首輪が爆発するとか、この壁が時間が経つと四方から迫って来るんだったりして。
そんな一番最悪なケースは何か、という不毛な考えをめぐらせる。
でもそれが何であろうと、自分の身を守るためにはとにかくここから逃げ出さないことには始まらない。
しょうがないもう一度頑張ろう、と腰を上げた時だった。
遠くの方で金属の扉が開くような音が聴こえてきた。
俺は反射的に動きを止めて、聞き耳を立てる。
コンクリートで囲まれた廊下をブーツで歩くような重い靴音。歩き方からすると男のようだ。徐々にこっちに近づいてくる。そして、この部屋の前らしい所で止まった。
「やべ……っ」
俺は急いで壁際に寄って身を隠した。
ガチャガチャと鍵を開ける音がして扉が開く。
ブーツの男はゆっくりと部屋に入って来た。
デカい縦穴の中にいる俺にはその姿は見えないが、歩幅は大きくて近くで聴くとより一層重量感がある。
そして靴音は俺の頭の真上で静かに止んだ。
こぇええええ!!!!
上見れねぇ!!!!
俺がビビりまくって壁に張り付いていると、頭上からおもむろに野太い声が降って来た。
「やだぁ~可愛い。子犬みたいに震えてるじゃなぁい」
…………。
ああやっぱりそうか……。そういうことか……。
俺の当たってほしくなかった予想は、見事に的中してしまったということなのか。瞼の裏に「性犯罪者パターン」の文字がチラつく。
言葉遣いとはまったく似つかわしくない地響きのするような太い声に、俺は内心ガックリとうなだれた。
心のどこかでは期待していたんだ。
もしかしたら、もしかしたら犯人は女かもしれないって。そしてもしかしたらだけどその女拉致犯はめちゃくちゃ美人のダイナマイツボディでテカテカの黒(赤でも可)のボンテージに網タイツに鞭とロウソク標準装備のちょっとSっ気の強い女王様タイ(以下略。
「大人しくいい子にしてたかしらぁ? ねぇ喉は乾いてない? おしっこしたかったら言ってね、アタシが手伝ってあげるから」
手伝われてたまるか~~~~~!!!!
「いえ……あの、乾いてないしおしっこも大丈夫です」
俺は震えながらそう答えて、恐る恐る声のする方を見上げた。
頭上には、俺の顔を覗き込むようにしゃがんだ大男がいた。
なんだよその足みたいに太い腕は……
髭面に金髪の坊主頭。ジャラジャラと賑やかなピアスをいくつも耳からぶら下げて、肩にはいかつい獅子の入れ墨があった。黒のタンクトップに迷彩柄のズボン。そしてデカいミリタリーブーツ。まぁあれだ。わかりやすく言えば、オネェ言葉を喋るシュワちゃんだと思ってくれればいい。
「そうなのー? 残念。でもいいわ。お迎えが来るまで、あなたのお世話は私がすることになってるから。逃がしてくれってこと以外なら、気軽になんでも言ってちょうだい?」
「はぁ……、そ、それはどうも……」
俺の三倍はありそうな巨漢がにっこりと微笑んだ。
とりあえず俺は「逆らわないでおこう」そう決心した。
「それにしても残念だわぁ。なにもこんな穴の中に繋がなくてもいいのに。手取り足取りお世話したいのにぃ~! ごめんなさいねぇ? 一度この中に降りちゃったらアタシの身長でもちょっとねぇ」
男の身長は2メートルくらいはありそうだったが、それでもこの穴の中には入りたくないようだった。
指を咥えながら、俺の全身にじっとりとまとわりつくような視線を向けてくる。
やべッッ 俺いまパンイチ……!!
パンツ一枚。
裸同然の俺をシュワネェが舌なめずりしながら観察している。
俺は咄嗟に自分の股間を両手で隠した。
レ○ター博士フラグは回避したっぽいものの、今度は別のフラグが立ちそうな予感。
脳みそ食われる心配はなくても、ケツを食われる可能性が大!!!!
頭の中で警報音がけたたましく鳴り始める。
そして、シュワネェはうっとりした顔で俺に言い放った。
「待ちきれないわぁ……」
いやぁああああああーーーー!!!! なにをーーーー!!!!????
今まで上げたことのないような絶叫が、心の中で大音響で木霊するのを聴きながら、俺は気絶したときとはまた違う意味で気が遠くなるのを感じた。
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