13

 星はぐるっと自分の周囲を見渡してみた。目の前には澄が立っている。周りには暗い森。空には満天の星空。背後には朽ちかけている白い石の柱とぼろぼろの黒い鉄格子でできた門がある。

 門の両端からは同じような黒い鉄でできた柵がずっと続いていて、それはやがて生い茂る暗くて深い緑色の森の木々に吸い込まれるようにして硯の視界から消えていった。

 門の内側にも硯の歩いてきたような土の小道が続いている。その風景は先ほどまでとあまり変わらない。門の外側も内側も、どちらも同じただの暗い夜の森に見える。周囲の風景にとくに変化はない。

「ねえ澄くん。この門を通らないと森の奥にいけないってどういう意味なの?」

 星は素直に疑問をぶつけてみる。

「そのまんまの意味だよ。森の中の道を通って、この『門』までたどり着き、ここから門をくぐって、『正式に』森の中に入る。それがこの森に立ち入るための唯一の方法なんだよ。それ以外の方法で森の中に入ることはできない。現に星もこの場所にたどり着いたでしょ?」

「うん」と星は返事をする。

 それは確かに澄くんの言う通りだ。確かに私は森の中の道を(黒い本の中に載っている森の地図を確認しながら)歩いていたら、自然とこの門までたどり着いた。

 でも澄くんの言ってることには、幾つかの疑問を感じる。たとえば別に門を通らなくても森に入る方法はいくらでもあるように思える。鉄格子はぼろぼろだし、高さもそれほど高いわけではない。星の腰くらいまでの小さな鉄格子の柵だ。それを乗り越えることはとても簡単なことのように星には思えた。(それに正式とか森のルールとかもやっぱりよくわからない)

「でも、鉄の柵を登ったりして、森に入ることもできるんじゃないの?」

「できない」

「じゃあ、どこか柵が壊れているところがあるんじゃないかしら?」あれだけぼろぼろの鉄格子なのだから、どこかに壊れている(大きな穴だって空いているかもしれない)箇所があっても不思議じゃない。

「ない」澄は星の考えを全否定する。

「もう! 澄くん。なんでそう言い切れるの? もしかしたらそうかもしれないでしょ!?」ちょっとだけ頬を膨らませて、星は澄くんに文句を言う。

「森に入るためにはこの門を開いて、きちんとここから中に入る必要があるんだ。それは絶対だよ」澄は自信満々でそう言い切る。

 ……うーん。まあ、いいわ。澄くんがそこまで言うのなら、とりあえずそういうことにしておきましょう。

 星は納得はしていないが話を先に進める。

「じゃあ、澄くんが仕事をさぼっているときに、この門から海は森の中に入ったのね。それしかないわ」

 少し意地悪い口調で星は言う。

「やっぱりそれしかないかな?」

 くりくりとした癖っ毛の髪をいじりながら、苦笑いをして澄は言う。それから澄は、その顔を真剣な表情に戻してから、……また(今度は、なにか不安そうな目をして)空を見上げた。

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