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「本当に?」

「もちろんだよ。もしかしたら僕の気がつかないうちに森の中に迷い込んだのかもしれないし、そうだとしたら早く助けてあげないとね」

 星は澄の服を掴む。

「ありがとう。すごく嬉しい」

 星は不覚にも澄の前で涙を流してしまった。澄はなるべく星の顔を見ないように、透明な冬の夜空を見上げている。

「ちょっとごめんなさい」

 星は澄に断ってから後ろを振り返った。コートのポケットからハンカチを取り出して涙を拭う。

 ……もう、なに泣いてんのよ、私は。

 星は自分で自分を叱咤した。

 そして意図的ではなかったとはいえ、澄から顔を隠すことに成功したので星はとても小さな声でさっきからずっと黙っている魚に声をかけてみる。

「ねえ、魚。どういうこと? ここに海がいるんじゃなかったの?」

 しかし魚の声は聞こえてこない。魚はなぜか沈黙を続けている。

「星? 大丈夫?」

 そんな澄の優しい声が後ろから聞こえてきた。星はくるりと半回転して澄の前に体を戻した。

「うん。大丈夫」

「そう? なら、いいけど」魚が返事をしないならもういい。今の私には『澄くん』がいるんだからね。どこかで聞いているであろう魚に向けて、星は頭の中で文句を言った。

「じゃあ、澄くんに手伝ってもらうことにする」星は言う。結局、星は澄のことを澄とは呼ばずにくん付けで呼ぶことにした。

「うん、わかった。任しといてよ」

 澄は大げさに胸を張り星に自分の存在をアピールする。そんな子供っぽい澄の仕草を見て、星は思わず吹き出してしまった。

「どうして笑うの?」

「だって、わざとらしいんだもの。なんで男の人ってそんなことするの? すごく不思議」

「そうかな?」

 頭をかきながら、澄は視線を空に向けた。つられて星も空を見上げる。そこには満天の星空と美しく輝く、街で見上げる空気の汚れた空の中では絶対に見ることができないような、はっきりとした輪郭を持った、大きな白い月があった。

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