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「私も星でいいです。それで、その、いきなりなんですけど、私、実は人を探しているんです」

「人探し? ……えっと、じゃあ、……『星』、はその人を探すために、わざわざこんな森の奥にまで一人でやってきたの?」

 照れくさそうな表情と仕草をしながら、少し言葉に詰まったけど、澄は星のことをきちんと名前で呼んでくれた。

「ええ、そうです」星は言う。

 その星の返事を聞いて澄は笑う。

「そうなんだ。なんか変わってるね」

 そんな澄の言葉を聞いて(あと笑われたこともあって)星は少しだけ(むっと)機嫌が悪くなった。その星の変化に澄は気がついたらしく、急に笑うのをやめて一度軽い咳払いをした。

「えっと、でも、こんなところに星の探している人がいるのかな? この場所で暮らしているのは僕だけなんだけどな」

「え? どういうことですか?」

「どういうことって、言葉通りの意味だよ。この森に住んでいる人間は僕だけってことさ」

 澄の言葉を聞いて星の体が一瞬固まった。

 ゆっくりと体を解凍するように星は体から声を絞り出す。

「そんなはず、ありません」

 星は冷静に振舞おうとしていたが、それに失敗してしまった。星は明らかに動揺していたし、その小さな声はかすかに震えてすらいた。そんな星の様子を目の当たりにして、澄はことの重要性を感じ取る。

「星の探している人ってどんな人なの? もしよかったら僕もその人を探すのを手伝ってあげるよ」澄はなるべく星を落ち着かせるために優しい声で話をした。

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