3
「はいはい、わかってるって。ちゃんと頼りにしてますよ」
星の口調はくだけているが、それは星が演技をしていない証拠でもあった。どうやら声のほうはともかく、星のほうは声のことを、もっとも、それは星の根が単純なだけかもしれないけど、ちゃんと信用しているようだ。
会話をしながら歩いていた星が不意に立ち止まった。星の目の前で道が左右に枝分かれしている。どうやら星はどちらに進むか迷っているようだ。
「ねえ、魚。どっちが正解の道なの?」
星は不思議な声のことを『魚』という名前で呼んだ。
『わからない』魚は星の質問にすぐに回答する。
「わからないってどういうこと? あなたは私を海のところまで案内してくれる約束でしょ?」星は魚の回答が不満だったようで怒ったように両手を腰に当て、堂々とした態度で魚に文句を言う。
『契約を結ぶときに説明したでしょ? 僕は今、完全な状態じゃないんだ。なにもかもすべての答えが僕の中に残っているわけじゃない』それに対して魚はあくまでも冷静だった。
「つまり、忘れちゃったってこと?」
『忘れてなんかいないよ。ここは僕にとって、とても大切な場所なんだからね。忘れたんじゃなくて、一時的に失ってしまっているだけ。それを取り戻すために僕は君と一緒にこの森までやってきたんだからね』
「なんか気取った言いかただね。まあ、別にいいけど。じゃあ今回もいつも通り、本に頼ることになるってこと?」
『そういうこと。さあ、本を開いて。そこにすべての答えが記載されているはずだからさ』
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