職ですか?…人を、人になりたいです。

しろだん

第1話有栖川きなこ(生徒会長でひきこもり中)

私の名前は有栖川きなこ。

私立あらら高校1年生の生徒会長だ。

『入学試験でオール満点を取り入学した場合

否応なく生徒会長をやらなくてはならない』

入学式の当日初めてそのことを聞かされた私は、

前生徒会長から引き継ぐと同時に逃走し、

現在1週間目の絶賛ひきこもり中である。


今日もまた、玄関先まで生徒会メンバーが会長である私を、迎えに来ている。

「きなこ会長。学校いこうー」、と『副会長の阿佐ヶ谷きらら2年生』がご近所迷惑も考えず

『きなこ、きなこ』と連呼する。

入学式のその日に逃走した私がなぜ、副会長の名前を知っているかというと、「あたし、きらら。キラキラ星のきららだよー」とギャルの恰好の副会長が逃走翌日の朝には、家の前でわめいていたからだ。

私が入学した高校は確か帝都大学進学率トップクラスの学校のはずだったのでは…

なぜにあのようなギャルが副会長をしているのだろうか、まっ、生徒会長を命じられ引きこもった私が言えた義理ではありませんが。

それと、名前で呼ばないでほしい。

『きなこ』

母は無類のきなこ餅派で、桜餅派の父と対立し、その名を勝ち取った、と自慢げに由来を話してくれる。

私はどーして父は勝てなかったんだろうと、小さな時から父の人となりを分析し研究していた。

それが、良かったのだろう。

脳をフルに使っていた私の記憶力、判断力、理解力は、受験で入った私立小学校に上がったときには一つ、いやとにかくずば抜けていた。

創立100周年以来初の神童だと騒がれた。

いやいや、100年も学校やってて、誰もいないのですか、

神童と呼ばれた人は…

そちらの方が気になるのですが、

それは置いておいて、どうしても諦めきれない。

『さくら』…

『きなこ』…嫌いではないが、自分がもし、

『さくら』だったらと想像すると、

お母さん。あなたには、ぜひ父との対決を負けていただきたかった。

そんなわけで、名前ではなく、名字の『有栖川』で

呼んでいただきたい、副会長の阿佐ヶ谷きらら先輩。

「あっー、朝からうるさいわね。

ご近所迷惑になるので、名前を連呼するのは、やめて下さい。阿佐ヶ谷先輩」

わたしは、部屋の窓を開け玄関前に立っているギャルメイクの副会長にお願いしてみる。

「あっーきなこ会長だ。きなこ会長−」

"だんっ"

うっとうしいので、窓を思い切り閉めてやりました。

「ふぁっぁぁー」

「さあっ、もう一度寝なおすとしますか」

タンタンタン……ダンッ!

階段を思い切りつまづく音が聞こえると同時に

「いたーいっ」と阿佐ヶ谷先輩の声が部屋の前から

聞こえてきた。

「はっーっ」どうやって入ってきたんですか先輩。

阿佐ヶ谷きらら先輩は「いたたっ」、と言いながら、

ドアを開け、おでこをさすりながら、部屋に入り込んできた。

おやっ?足ではなく、おでこなのですか先輩。

「急になんか硬い者が飛んできて、おでこにあたったよー

消えちゃったけど、不思議だよねー」、と隣の部屋の方をみている」

理解しました。

妹の『ここあ』が寝ぼけて魔法を使ったのですね。

妹の名前も私の時と同じく母と父の対立で勝利した母が推す『ここあ』に決まったそうだ。その時父が推していたのは『こふぃ』。

有栖川こふぃ…

こちらは、母が勝利を治めてよかったね

『ここあ』。

などと、考えている場合ではありませんでしたね。

今、一番の問題は名前ではなく、阿佐ヶ谷先輩、あなたの不審な行動ですよ。

「人の部屋に勝手に入ってきて、なぜにクローゼットをあさっているのですか?先輩」

「しってる?きなこ会長」

一着一着、値踏みするように丁寧に私の服を眺めながら、口調は今までと違い、真剣そのままに問いかけてきた。

「何をですか」

「クローゼットという言葉には"何かを内緒にしておく状態を意味する"事があるんだって」

「何もそこには秘密な物は入っていませんし、至って、私はノーマルなのですが」

「ほんとかなー、それじゃー背中の…」

ここまで聞き気づいた私は、額に右手をあて、左手はもう言わなくて良いですとばかりに、先輩の前に突き出した。

「綺麗な翼ねー。ねえ、触ってもいい?」

起きたらまず翼の手入れをするのが私の日課。

今日は、先輩が来たのでしまい忘れてしまった。

「はいはい、お好きにどうぞ」

ばれてしまったのでは仕方が無い。


さてどうしたものでしょうか…

「ひゃん」思わず恥かしい声を出してしまった。

自分で手入れをするときは真ん中辺りから先にかけて、丁寧にブラッシングをしている。

根元は余り触っていない為に敏感になっていたのかもしれない。

「せ、先輩、だめです。そこは、だめ…」

「ここか、ここが良いのか。ふぁふぁふぁ」、と言いながらどこぞの悪代官のごとく高笑いしながら、ねちねちと、さわり続けている。

そして耳元に先輩の唇が近づいてきて…

「いや…だめ」

ふっ、と息がかかった。

「このことは秘密にしてあげる。だから明日からは学校に来るのよ、有栖川きなこ生徒会長」、とつぶやくと、やっと私を解放してくれた。

ガクッと膝を折り座り込んでしまった私を見ながら先輩は、

「ついでに妹ちゃんの事も黙っておいて、あ げ る」、と言いながらウインクし不敵な微笑みをのこしながら部屋を後にした。

「うっーなんという屈辱!こうなったら学校に行って生徒会長権限で副会長の任を解いてあげます。ついでに記憶操作の魔法で…そんなの使えないけど、なんとかしてやります。

こうして私の引きこもり生活は、幕を閉じた。


次回は、私のせいで生徒会長の職を解かれてしまいぐれにぐれて街をさまよい続けアウトローになりさがってしまった、可哀想な前生徒会長『神代 託(かみしろ たくす)』のおはなしです。

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