つちすなくずれ

はむ....もぐもぐ....


「美味しいですか?」


「....ああ、美味いな」


スナネコは、ツチノコに自らが持ってきたジャパリまんを渡し、共に食べていた。


「なぁ、スナネコ。」


「はい?」


「この遺跡には、もうこれ以上何もないかもしれん。」


突然ツチノコは言葉を零した。

それも、普段なら口にしない彼女らしからぬ言葉を。


「え?」


スナネコは困惑を隠しきれない。


「だから、この遺跡の中には、もう何もないかもしれないって言ったんだ。」


ツチノコはどこか遠くを見つめ、まるで感情を失ったかの様に語る。

スナネコは静かに彼女の言葉の続きを待つ。


「....俺は違うちほーに行く。どこかにまだ見たことの無い遺跡があるかもしれん。それを見つけ、そこでまた色々な物を探す。」


決意とも取れる言葉だが、彼女の声色は、どこか寂しげだ。


「....私はどうすれば...」


「知らねぇよ。」


冷たく言い放つ。


「え.....どうしてそんなこと言うんですか?」


「知らないって言ってるだろ!!どうして自分のことも決められないんだ!!」


ツチノコの感情は激しさを増し、スナネコに怒りをぶつけた。


「私は....」


「もういい。勝手にしろ。俺は一人で行くからな。」


彼女はそう吐き捨てると、さっさと遺跡の奥へ行ってしまった。


「待ってください!」


スナネコは叫ぶも、その声は届かない。


「......」


スナネコは待った。

ツチノコが自分を迎えに来てくれると信じて....

しかしツチノコは来ない。

どれだけ待っても。


「.....帰りますか。ってあれ?」


ここは遺跡。

それも相当深い場所だ。

当然スナネコに道がわかる訳もなく、入り組んだ道に呆然とする。


「私は帰れるんですかね。」


スナネコは野生の勘に頼り、ひたすら進む。

口では住処を求めているが、彼女の中では、ツチノコの元を求めていた。


「はぁはぁ...出口は何処ですか..」


─────────────────


フードを被った彼女は、大きな耳の友達の元を離れ、出口へ向かっていた。


「ったく、なんだよあいつは....」


彼女に怒りは既に無く、後悔の念に駆られていた。


「少し言い過ぎたか?いや、でもあいつも自分のことを気にするようにならないと....」


独り言を呟きながらも、出口へと確実に進んでいく。


「.....あ?そういやあいつ、出口分かんのか?」


ようやく自分が大変な事をしたことに気づき、急いで引き返すツチノコ。


「勝手にうごいたりしてねぇよな!」



ツチノコはスナネコと共にジャパリまんを食べた場所に戻ってきた。

しかし既に彼女の姿は無く、在るのは赤いセルリアン。


「な!しまっ!!」


─────────────────


「お?今のはツチノコの...」


小さく聞こえた悲鳴に気づいたスナネコは、元きた道を引き返し始める。

その脚は段々と速まり、走り出す。


「待っていてください!ツチノコ!」



元いた場所まで戻ってきたスナネコ。

彼女が目にしたのは.....


「ウォォォォォ!!」


通路を埋め尽くす程に大きな赤いセルリアンがそこにいた。

石は見えない。


「なんて大きさ...!あれ?ツチノコは何処ですか?」


しかしそこには彼女の追い求める者の姿は無い。


「何処ですか!ツチノコ!.....まさか!」


そう、ツチノコはセルリアンの中。


「どうすれば....!」


─────────────────


(うう....ここは何処だ?)


視界は赤く、濁っている。


(あ、確かスナネコの奴を迎えに来たらセルリアンが居て....そう言うことか。)


納得したかのように溜め息をつく。

と同時に後悔の念が再び押し寄せてくる。


(スナネコ、出口まで行けたのか?)


不思議とセルリアンの中は心地が良い。眠くなってくる。


(なんだか眠くなってきたな.....)


その時だった。


「....何処ですか!ツチノコ!....」


(....スナネコ?)


彼女の声が聞こえる。


(なんでここに居るんだ?出口に向かった筈だろ?とゆうか、どうして俺を探してる?)


驚きを隠せない。

あれだけ強く当たったのに、それでも自分を求めているスナネコが、理解できなかった。


(くそ、なんでなんだよ...)


─────────────────


セルリアンの触手が伸びる。


ドカッ!!


スナネコは間一髪で避ける。

元々セルリアンとの戦闘に慣れていないスナネコ。

それに加え、狭い空間での戦闘。

スナネコが勝つ可能性は、限りなく小さい。


(くっ!逃げたい....!でも、倒さないと!!)


彼女は逃げない。

彼女の好きな人を助けるために、彼女は戦う。

たとえどんなに辛くても、彼女はそれに耐えられるだけの意思を手にしていた。

全てはツチノコのために。


「きっと石は裏側に.....そうだ!えい!」


彼女は地面の砂を、セルリアンの目にかけた。


「ウォォォォォ!!!」


セルリアンは痛みにのたうち回る。

セルリアンと壁の間にほんの少し、ギリギリスナネコが通れる程の隙間が空く。

セルリアンの背中に回り込んだスナネコ。

そこにはフレンズと同じ位大きな石があった。


「これだ.....」


しかし、スナネコの力では割れない。


(ここまでやったのに....ここからどうしろって言うんですか.....ツチノコ....!)


その時、石が割れた。


─────────────────


(スナネコ.....スナネコ....)


セルリアンの中で、睡魔と戦いながら、考えを張り巡らせるツチノコ。

スナネコを助ける方法を考える。


(....どうすればいい!)


どれだけ考えても、いい方法は思い付かない。

どうやっても助けにはなれない。


(くそ!!スナネコ!!)


その時、セルリアンの感触が微妙に変わる。


(これは....砂か?そうだ!)


咄嗟に思い付いたそれを実行するため、ツチノコは全身の力を振り絞って体制を変える。

その時、何か硬いもの同士がぶつかり合うような音が聞こえた。


(スナネコ...?)


ツチノコはそれが何の音であるか気づき、自分の考えに自信を持つ。


(これでいい。これでスナネコの助けになれる。)


ツチノコは最期の力を振り絞って、石を蹴る。そして突き破る。


「ウォォォォォ......」


「ツチ.....ノコ....?」


「よぉ、へこんでないか?」


「ツチノコ....ツチノコ!!」


泣きながら抱きついてきた彼女を抱き締め返す。

しかし、それが出来るのもあと少しだけ。


「え?ツチノコ、サンドスターが...」


「あ?当たり前だろ。俺はセルリアンに喰われたんだぜ?元動物に戻るんだよ。」


何食わぬ顔で言うが、とてつもない寂しさに襲われ、ふと涙がこぼれそうになる。


「そんな.....やっと会えたのに!やっと助けられたのに!元動物に戻るなんて、嫌です!!なんで.....」


彼女の涙が、喜びから悲しみに変わる。


「仕方ないだろ。俺も寂しい。でもお前は一人で生きてくんだ。俺のことは忘れろ。いいな?」


「いや...いやだよ.....!!!」


既にフレンズの身体は消えかかり、サンドスターは還り始めている。


「だったら忘れんな。忘れなかったら、いつまでもお前のそばにいてやれるから.....」


「忘れません!!だからツチノコも忘れないでください....!!」


「またな、スナネコ。」


「また会いましょう....そしてまた一緒にジャパリまんを食べましょう...?」


「あぁ....」


辺りを明るく照らし、サンドスターは消えてゆく。

ツチノコのいた場所には、肥った蛇のような動物がいた。

恐らくこれがツチノコなのだろう。


「ツチノコ.....いつまでも一緒ですよ.....!」


スナネコは、その動物を抱きかかえ、住処へと帰ってゆく。

しかし道が分からない。

すると、ツチノコはスナネコの胸元から飛び降り、スナネコの先を進む。

まるで、道案内をするかの様に....


「....ありがとうございます...ツチノコ....」





















その時。

外から音がした。

大きな音が。


「山の.....噴火?」


「キシャァァ!!」


ツチノコは素早さを増し、出口へと向かう。

ツチノコは本能的に察している様だ。


「あ.....待ってください。」


外へ出ると、とても大規模な噴火である事が分かる。

砂漠ちほーに飛んできたサンドスターは、見事にツチノコに命中。

ツチノコは、見慣れた人の姿に変わる。


「ツチノコ....?ツチノコですか!?覚えてますか!?」


「あぁ?スナネコ。ツチノコだよ。見て分かるだろ?....覚えてない。」


「え...あぁ....そうですよね.....元動物に戻ったんですから.....」


(おいー!!気付けよ!!スナネコって言ったろ!?)


「あー...その、なんだ。今のは嘘って言うか...その...からかったんだが?」


「ふぇ?じゃあツチノコ、私のこと覚えてるんですか!?」


「ああ。てかスナネコって呼んだだろ?気付けよな!」


「え?ああ、すいません....」


「それにしても、なんで記憶が無くならないんですかね?」


「さぁ...俺にもさっぱりだなぁ...」


「まぁ気にするほどでも無いですね。ツチノコが戻ったんですから。」


「ああ///そうだな///」


「ありがとな///心配してくれて。」


「いえ、こちらこそ、元に戻ってくれてありがとうございます。いつまでも一緒です。ツチノコ、大好きですよ。」


「ば、ばかじゃねぇのか!?///」


(照れてるのも可愛いですね)


「じゃあそろそろ帰りましょうか。それで、一緒に違う遺跡に行きましょ?」


「ああ、そうだな。」


ツチノコとスナネコは、仲良く話しながら、それぞれの住処へと帰って行きます。

その2人の手は、固く繋がれていました。


おしまい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る