【ロリ】超ニートが異世界転生したらそこは異世界っぽい宇都宮だった【北関東】

@loli-kon999

第壱幕 異世界転生編

第1話 栃木で最も美しい男、死す

「クックック、いつみても私の肉体こそ栃木において最も美しい……」


不敵な笑みを浮かべるその男は、筋肉質でやや脂肪の乗った

見栄えのよい体を捻りながら、金色の美しい髪を掻き上げる。


そして、ちゃぶ台の上にたまたま置いてあった

レモン牛乳という怪しいケミカル風味の黄色い飲み物を一口。

ニートという立場上、こんな飲み物でもかなり貴重だ。


「しかし、そんな美しすぎる存在の私にすら足りないものがひとつ」


左右非対称の長い前髪を気にしながら、前傾姿勢になった

美しい男は表情を強ばらせた。


「妹です……!!」


美しい右手を顔の前で思いっきり開きながら、男は声を殺しながら、しかし全力で叫んだ。

彼は美しすぎるので、彼を狙う女性はたくさんいた。

しかし、妹という存在だけがなかった。


「ああ、妹。なんと甘美な響きなのでしょう。妹!

……そしてなんと、心が安らぐのだろう。

神は私に天才的な美しさこそ与えたが、本当に欲しいものは与えなかったのだ」


凄いのは、ここまでの台詞は全て独り言だということ。

彼は衣服を何も着用していない、いわゆる全裸だということ。

無造作に付けられたTVの画面では、今季注目のアニメ「四つ星クローズ」の

OPが単体リピートで延々と流れているということだった。

もちろん、彼が欲しい"妹"くらいの妙齢。もといロリな少女がたくさん登場する

アニメである。説明するまでもない。


「やはり、クローズのリーダーである"ゆっちゃん"が一番可愛いですね」


これだけで彼の異常性。そしてカリスマ性が垣間見えるであろう。

読者諸君が感じたのは、それでもたったの5%~11%ほどに過ぎないのだから。


「アニメのクローズで大ハマリしてしまったので……そうですね、

やはり原作を買いにいきましょうか。オリオン通りにはありそうです」


そうつぶやくと、美しすぎる男は筋肉質な上半身を前屈させ、

畳んであったリーバイスのジーンズへと足を通しはじめた。


お気づきだろうが、ここまで下着を履く描写がない。

下着は履かないのが彼のスタイルである。


半裸にジーンズという、肉体に自身がない人間ならば

到底できないであろう圧倒的ファッションに身を包み(ほぼ包んでない)、

勢い良く玄関のドアをあけた。


引きこもりの部屋から外界へ、ブーツの底で踏み抜く。

肉体へ直に降り注ぐ朝日が眩しい。


いや、光り輝いていたのはむしろ男の肉体のほうで、

朝日はそれに便乗するだけの愚者なのかもしれない……。


半裸にフルフェイスというよくわからない格好で、

男は愛車"4サイクルバーディー110"にまたがった。

もちろんフルチューン仕様。ピンク色の、ご当地ナンバーが可愛らしい。


足でブレーキを掛けながらセルスターターと呼ばれる部品を右腕で押し。

キュルキュル

とエンジンが掛かりはじめる。


ドゥルルルルルルルルルルル


「やはりバイクというのは良いものです。

この美しすぎる肉体に、直で風を感じられる」


10分ほど、男は華麗なる運転テクニックを用いてバイクを走らせた。

そして、オリオン通りという商店街(?)へと着いたのだった。


「やっと着きましたね」


まだ昼前だというのに、人通りの多い商店街。

いくつもシャッターが下りてはいるものの、未だ全盛期の風格を

残しつつある、栃木県宇都宮市において恐らくは最強の繁華街だ。


彼が美しさを流星のように散りばめながら歩く先には、

重要なる目的地があった。

そこは、栃木県のアニメ・オタク(anime-otaku)なら九割は

知っているであろうオタクの聖地。

アニメイトを有する巨大なるオタクビルの姿があるのだ。


初めて目にする者なら、そのあまりの圧倒的・スタイルに

腰を抜かすか、オタクをやめるかせざるを得ないだろう。


「四つ星クローズの新刊は入荷しているでしょうか……」


そんなことを呟いていると、先ほど無駄に散りばめながら歩いた

"美しさ"に釣られて、オタク・ビルの前、もとい彼の周りに人だかりができる。


「えっ、あの男の人ちょう美しい」

「もしかして、本物は見たことないけどあの、噂の!?」


若く可愛らしい女性が、恐る恐る美しい男へと近寄る。


「あ、あの。違ってたらごめんなさい」


声を掛けられた男は、背を向けつつ首だけ女性のほうを

振り返り、キザ過ぎる笑顔にて言い放った。


「フッ、なんですか?」


「もしかして、とちテレにこないだ出ていた

"栃木で最も美しい男"のマッスル☆君さんですか!?」


男はにやけながら、再び完全に背を向けた。

そして前傾姿勢になりながら、小さく、しかし確実に女性へと

聞こえる音量で言った。


「私のことをそう呼ぶ方も居ますね」


すると彼の前方にいたモヒカンの男性が、

男の下半身上部を勢い良く、しかし的確に指さしながら

戦慄顔で言い放った。


「それじゃこれが名刀カムシーン!!」


「いいえ、それは私のち○○です」


「で、ですよね……」



……。


しばらくして、やっと買い物を終えた美しい男であった。

新刊だけが目当てであったが、不意にみつけた沢山の

四つ星クローズのリーダーゆっちゃんのエ○同人誌に心を奪われてしまい、

ニートの乏しい資金で買える一冊を選ぶべく苦戦していたのだった。


「やはり陵辱モノは心が痛むので、イチャイチャ系でしょう」


美しい男は、珍しく満点の笑みを浮かべた。

彼がいい笑顔をするのはこういう時くらいである(あとは全て不敵な笑みだ)


「さて、帰りましょう。我が愛機4サイクルバーディー!!」


ドゥルルルルルルル


ビィィィィイィーーーーン


こういういい同人誌が買えた時は、アクセルを開ける右手も

調子がよいというものだ。

オリオン通り周辺を抜け、そのへんの田んぼが連なる農道を走っていた

その時であった。


「ナムサン!!(BJ風)」


いきなり彼の正面に、物凄く巨大な、それでいて四足歩行であろう

巨大な影が飛び出してきた。


Wizardryなら獣のような姿 とか表示されるアレだ。


次の瞬間、美しい男の愛車は巨大な影にのめり込み、その強靭さに負け

粉々に砕かれていく。

対する巨大な影は、少し衝撃によりヨロケたものの、平然と立っている。

男は愛車と共に左方向へ吹き飛ばされた。


「ぬあああああああ」


とっさに体を回転させ、頭をあげ左肘から落下。

何度も農道上を前転し、かなりのダメージこそ負ったものの致命傷は避けられた。


「な、なんとか死なずには済みましたか」


巨大な影、つまり鹿のほうも大した怪我はなさそうである。

全壊したのは愛車のみ。と思ったのもつかの間。


ズルッ


美しい男の体が無重力のような感覚に襲われる。

足が空中に投げ出され、そして受け身すら取れないような

姿勢に陥った。


頭から落下……確実に致命傷だった。

彼の意識が徐々に遠のいていく。


「な、なんですか。私は何故宙を舞ったのか……」


すると彼の顔面めがけて一枚の布がヒラヒラと落ちてきた。


「ああ、なるほど。これに足を滑らせたのか……」


女児のパンツだった。

彼の死因は、それに足を滑らせ落下。

ち○こに似た形の岩の突部に後頭部を強打したことによるものだった。

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