第47話  物騒な世の中

「非常に残念だ! 不審者許せん!」

 草平は神社からの帰り道、ずっと悔しがっていた。


「まぁしかし、しょうがねーじゃねーか」

 熊友がよしよしとなだめる。


「だって、二千年前から護り継がれてきた火だよ? それは見たいさ」

 草平はしばらくぶつくさと文句をいっていた。

 それがようやく治まったのは、途中昼飯を食べるために立ち寄った定食屋で席に着いたくらいのときだった。


 三人は揃って煮魚定食を頼んだ。

「だいたいどうして火なんて盗んだんでしょうね」

 犬八は鯖の煮付けを食べながら訊いた。

「ふん、盗人の考えることなど知ったことか」

 再び機嫌を損ねた草平を見て、熊友は犬八に余計なことをいうな、と視線を送った。

「まぁ、なんにしても、新年会が楽しみだよ」

 熊友は努めて陽気に振舞った。

「そうだね。まだまだ先だと思っていたら、もう来週の話だよ。さすが師走だ」

「いい酒が手に入ったんだ。持っていくぜ」

「俺はお節料理を仕込んでおきます」


 そういった犬八を熊友は妙な目つきで見た。


「なんですか? 熊友さん」

「いやぁ、犬コロは増々主婦業が板についてきたなと」

「羨ましいんですか? 俺は先生のお世話出来るのが嬉しいんですよ」

「へっ、まったく口の減らねえワン公だぜ」


 屈強な大男二人が険悪な雰囲気を出しているのは、傍から見たら只事ではないが、彼らにとっては日常茶飯事なので、草平も慣れたものだった。


「まぁまぁ二人とも、美味い酒と料理があればいいじゃないか」

 草平の機嫌はもう戻っていた。

 そして二人は、草平の機嫌が良ければそれで満足だった。

 昼飯を食べ終わって定食屋を出た。

「それじゃおれはちょっくら用事があるから、ここで失礼するよ」

 熊友は大きな腹をさすった。

「じゃ、次に会うのは新年会かな」

「そうかもな。最近ここらじゃ空き巣や押し込み強盗が流行ってるらしいからな、気を付けろよ」


 そう挨拶した熊友は、草平がまた眉間に皺を寄せるのを見て、しまったと思い、そそくさと退散した。


「まったく、世の中物騒になったもんだ」

 草平は腕組をして憤慨した。

 本当ですね、と犬八はなだめた。

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