ウクライナ

みやこ

ウクライナ

「もう私と一緒に行動するのはやめてほしいんだけど…」

ナターシャは目の前に座っているアレンシアに言った。


「なぜです?」

アレンシアは首を傾げた


「あ、アレンと一緒に遊ぶと疲れるのよ!」

ナターシャは机を強く叩いた


「な、ナターシャ様は私と一緒にいると疲れるのですか!?」

アレンシアは顔が真っ青になっていた


「そ、そうよ! アレンは私にとってストレスの原因なのよ!早く私の目の前から消えてくれないかしら!」

ナターシャはアレンシアの今にも泣き出しそうな目を睨んだ


「私の何が悪かったのですか?教えて下さい」

アレンシアが声を震わせながら聞いてくる


「それくらい自分で気が付きなさいよ!」

ナターシャはそう言って席から立ち去った



そしてアレンシアの方を睨みながら

「もうアナタとは絶交なんだけど!」

そう言って教室を出ていった。



1人教室に残されたアレンシアは

「そんなに酷いことをしたのでしょうか…」

自分の鈍感さを恨んだ。



放課後ナターシャとアレンシアは毎日のようにオムスクのカフェでお茶をしている。

しかし今日は喧嘩をしてしまった為、1人でカフェにやって来た


「お嬢ちゃん、今日は美人のお姉さんと一緒に来なかったのかい?」

店主のラベアに茶化されながら店に入る


「だから!私とアレンは同い歳なんだから!なんで私が妹に見えるのよ」

ナターシャが大声で怒鳴ると


「そうやってスグ怒るところが子供っぽいんだよ」

ラベアは落ち着いた口調で言ってきた。


「こ、これは癖なんだからしょうがないでしょ!」


「自分で癖だと分かってるのなら今のうちに治しておいた方が身のためだぞ」

ラベアは全く笑っていない無表情の顔で言ってきた


その顔を見るとナターシャはラベアに怒られている気分になった


「もういい!今日は帰る!もうこんな店絶対来ないんだから」

ナターシャはラベアの顔も声も聞かずに走って店から出ていった。


「痛てーな、殺されてぇのかロシア人さんよ!」




店の外に走って出て行ったナターシャは2人組の男とぶつかってしまった


「ご、ごめんなさい!」

ナターシャはそう言って男達から逃げようとしたが


「待てよ嬢ちゃん。ロシア人が俺達ウクライナ人にぶつかってお咎め無しで済むと思ってんのか?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

ナターシャは金髪の髪の男の目を見ながら謝っていると


スキンヘッドの方の男が話しかけてきた


「なんで俺には謝らねぇの?許して欲しけりゃ土下座せんかい!はよ土下座せんとシリアに売り飛ばすぞ」

スキンヘッドの男はナターシャの胸ぐらを掴みながら脅してきた

ナターシャは死ぬ気で土下座をしながら謝っていた。




ーオムスクの商店街にてー


「おーい、アレンシア1人でなにしてんの?ナターシャは一緒じゃねぇのか?」

同級生のサザンドラが話しかけてきた


「ナターシャ様には先程絶交されました」


「は!?なんで絶交したの?喧嘩か?」

サザンドラが驚きを隠せずに聞いてくる


「分かりません… 私はナターシャ様に何もしていないのですがナターシャ様は私と一生会いたくないみたいなんです」

アレンシアは先程までの事を思い出し泣き始めた


「大丈夫か?話しなら聞いてやるけど…」

サザンドラがハンカチを渡した


「ありがとうございます。でもこの件は私とナターシャ様の2人だけの問題ですので」

そう言ってサザンドラにお辞儀をして立ち去った


「アイツは大人より礼儀正しいなぁ」

サザンドラはアレンシアの立ち去る背中を見ながら感心していた

アレンシアが1人で下校していると

「お姉さん、アンタロシア人じゃねぇだろ」

知らない男共に絡まれた。


「よくご存知で」

アレンシアは男達と目を合わさずに立ち去ろうとする


「なんでロシア人じゃねぇのにこんな廃れた国にいるんだ?」

男達はアレンシアの長く黒い髪を触りながら聞く


「私は好きな人がいるからロシアにいるのです」

アレンシアは男達のボディタッチを我慢しながら言った


「恋人か… それにしても災難だな。好きな人がロシア人なんて。俺だったら自殺したくなるな」

そう言いながら大笑いしていた


「勝手に死んでいて下さい」

アレンシアは冷たい目線で言って男達から離れた。


「恋人か… 」

アレンシアは冷たく白い青空を見ながら笑った


ー2039年ー

前触れもなしにウクライナ軍がロシアに宣戦布告した


ロシアは2036年頃からの経済不況で軍事予算も縮小されていた


その機会を狙ってウクライナ軍はミサイル攻撃などロシア全土を支配した


2049年6月にロシアは敗北した。


ウクライナ軍の軍隊長ラッツはウクライナ連邦国と名乗り世界のトップに躍り出た。


ロシア敗北の翌年からロシア人はウクライナ人により大量虐殺が始まった


ロシアの土地でウクライナ人が震えるロシア人を殺す

そんな事が毎日行われていた


ー2051年ー

アレンシアは父親と共にロシアに引越しお店を始めた


ロシアの土地は全てウクライナの物になっていた為、アレンシアが引っ越してきた時にはロシア人は数える程しかいなかった。


ある朝、アレンシアの父親はカナダにお店の商品を買いに出かけた


そのため店にはアレンシア1人しかいなかった


「お父さん早く帰ってこないかなぁ」


アレンシアは1人暇そうに店番をしていると、1人のお客様が店に入って来た


「いらっし…」

アレンシアは目の前の光景に驚き声が出なくなっていた


「た、食べ物を。食べ物がほしいんだけど…」

血だらけの足と 汚れきった服を着て夏なのに震えていたお化けのような女の子がアレンシアに話しかけてきた


「お客様!?大丈夫ですか?」

アレンシアは女の子の足をすぐに治療し始めた


「痛い… 早く治して。早くご飯下さい」

女の子は震えた小さな声で言った


「も、もう少し我慢して下さい。ご飯なら私のお昼のお弁当差し上げますから!」

アレンシアは足を治療した後すぐに女の子をお風呂に入れ綺麗にしたあと新しい服を着せた


「これで綺麗になりましたね!」

アレンシアが笑顔で言うと


「あ、ありがとうなんだけど…」

女の子が申し訳なさそうに言った


「そんな怖がらないで下さいよ。私達は同じウクライナ人じゃないですか!」

アレンシアは女の子の肩を叩きながら言った


「ウクライナ…」

女の子は今にも泣き出しそうな声で言った


「?」

アレンシアは、まさか女の子がロシア人だとは思っていなかった…


「わ、私はロシア人なの。今まで黙っていてごめんなさい」

女の子はその場で土下座をしながら泣き始めた


「殺さないで… ウクライナ人を騙す気はなかったの。ホントにお腹が空いていただけなの!」



「大丈夫ですよ!私はアナタを殺す気もありませんし、ロシアが嫌いでもないです。も、もし良かったら私と友達になりませんか?」

アレンシアは女の子に手を差し出した


「いいの?」

女の子は震えた声で聞いてきた


「その代わり条件があります!その条件を聞けなかったらこの店から出ていって下さい」

アレンシアは女の子の頭を撫でながら言った


「条件とは…条件とは何ですか?」



「条件とは、アナタの名前を教えて下さい。それだけです」

アレンシアの言葉を聞いた女の子は


「ナターシャ!ナターシャっていうの!あなたは?」

ナターシャの元気な声にアレンシアは驚き


「わ、私はアレンシアです。ナターシャ様これからよろしくお願いします」

アレンシアがナターシャの目を見て言うと


「さ、様なんて付けなくていいんだけど!」

ナターシャは顔を真っ赤にしながら恥ずかしがっていた


「いえいえ、ナターシャ様は私の初めてのお客様なので。あと、初めてのお友達ですから」

その日からナターシャとアレンシアの辛くも楽しい日常が始まった。


そんな幼少期の思い出に1人耽っていると

「アレン!アレン助けて」

ナターシャの声が聞こえてきた


「ナターシャ様!?どちらにいらっしゃるのですか」

アレンシアはナターシャの声を冷静に聞きながらナターシャのいる場所まで走った


「アレン!ここよ!ここにいるんだけど!」

街角の暗いゴミ屋敷のような場所からナターシャの声が聞こえた


アレンシアは、すぐさまそのゴミ屋敷に入ろうとしたが


「お姉さん、ここは会員制のバーでね。ロシア人は入れないんだよ」

スキンヘッドの男が近寄ってきた


「私はウクライナ人です。私の友達の声が聞こえたのですがココは人身売買のお店ですの?」

アレンシアの冷静な判断に

「お姉さん、勘がいいね。もしかして小さい嬢ちゃん探してるの?」

スキンヘッドの男は似合わない笑顔で聞いてきた


「そうよ。いくら出せば買えるの?お金なら沢山あるわ」

アレンシアは学生鞄から大量の札束を出した


「あんたもしかしてガーデン財閥の娘さんか?」

スキンヘッドの男は少しだけ怖じ気立ちながら聞いてきた


「そうよ。そして、あなた達が捕まえた女の子は私の妹よ」

アレンシアは嘘だとバレないように冷静な口調で言った


「マジか… ロシア人にしか見えなかったがアイツ

ウクライナ人だったのかよ…」

スキンヘッドの男は急いでゴミ屋敷に戻りナターシャを引っ張り出てきた


「20万ルーブルだ。早く払え」

スキンヘッドの男は震えた手で金を要求してきた


「どうぞ。こんなので妹が買えるのなら安いものよ」

アレンシアは金を差し出してナターシャを受け取った


ナターシャの顔は殴り跡で腫れ上がっていた


「ナターシャ様。大丈夫ですか?」

アレンシアが聞くと


「大丈夫よ。わ、私を見くびらないで」

ナターシャは感謝の言葉も無く私から立ち去ろうとした


「ナターシャ様。もう帰られるのですか?感謝の言葉もないのですか?」

アレンシアがからかうと


「あ、ありがとうなんだけど。あとさっきはごめんなさい。言い過ぎたわ」

ナターシャは顔を真っ赤にしながら言った


「よく言えました。ナターシャ様も少し大人になられましたね」

アレンシアが少し笑いながら言うと


「こ、これからもよかったら一緒に遊んでほしいんだけど!アレンシアといっぱい遊びたいんだけど!」

ナターシャが大声で言うと


「はい。よろしくお願いします」

アレンシアは目から大量の涙を流した


「アレン?なんで泣いてるの」

ナターシャが聞くと


「雨が降り始めただけですよ」

アレンシアはそう言って歩き出した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウクライナ みやこ @yutakun1003

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る