1-11. 生徒会長の疲弊
生徒会長に呼ばれ、俺は今、生徒会室の前に立っている。
呼ばれた理由は大体予想がついた。
______コンコン。
社長室の扉のように重厚感のある木製ドアを二回ノックすると、扉の向こうから生徒会長の覇気の無い声が帰ってきた。
ドア越しから何て言っているのか、聞こえなかったが、「死ね! 下衆野郎!」という言葉の暴力を叩きつけられた訳ではなさそう。
「入りますよ」と一声掛け、扉を押すと、来客用のソファーに身を委ね、無防備な姿の生徒会長がいた。
「......小鳥遊兄か。そこに座れ......」
生徒会長はリラックスしたクマのような寝転んだ姿勢を崩そうとしない。
というよりも、疲れまくっていて凛と姿勢を正す事が出来ないのだろう。
「じゃあ、失礼しますね」
「......おい。横に座るな。対面に座れ」
「嫌だと言ったら?」
「私と君の間では社会的な信頼度というものがあまりにも違いすぎる。この密室で君が私のような美少女に卑猥な行為を行ったと公言すれば......」
「はは。冗談ですよ。冗談」
社会的に殺すということを盾にし、弱者である俺の小さな心臓を震えあがらすと、生徒会長は重たそうに上体をむくりと上げる。
まるで締切ギリギリの漫画家のような疲れた表情をこちらに向け、カサカサの唇を一舐めし、生徒会長は話を切り出した。
「小鳥遊ポプラと二週間接してきて思ったが、彼女は人間なのか?」
「......そうだと思いますよ」
真顔で俺が当たり前のことのように回答すると、生徒会長はあまりにも馬鹿な質問をしてしまったと目頭を押さえ、上を向いた。
その隙と言ったら何だが俺は、首を反らせた事で強調された二つの山をジッと見る。
E? いや、Fはあるか。
「私は人と接する事が苦手ではない、苦なのだ。目的を達成する為のコミュニケーションであれば一般人よりも高い能力値だろう」
「はい。僕もそう思います」
「ただ、その私の能力を持ってしても君の妹______小鳥遊ポプラと一緒にいるのはツライ」
「それはどうしてですか?」
生徒会長は上体を元に戻し、目の法養タイムが終了。
「小鳥遊ポプラは人のプライベートな部分に強引に入ってくる。それが耐え難い」
生徒会長は目元をピクリと動かす。
人がストレスを感じている時の無意識の仕草だ。
人にはそれぞれパーソナルスペースという心理的な縄張り空間が存在する。
俺や生徒会長のような人間はそれが極端に広く、ポプラは極端に狭い。
当然、そんな水と油のような人間二人をかけ合わせれば反発し合うのは目に見えていた。
現に生徒会長は期日の二週間を待たずして、俺にSOSを出してきた。
助けてやらん事もないが、弱っている生徒会長を見るのはM心をくすぐる。
生徒会長が復活した後に、「あの時はよくもやってくれたな」というシュチュエーションを妄想してしまうから。
「じゃあ、止めますか?」
生徒会長に救いの縄を投げる。
ただ、生徒会長はそれを掴む事はないだろう。
何故なら、生徒会長は自分よりも妹を大切に思っているからだ。
「......いや。そのまま続けよう」
ほらね。
言った通りだ。
だが、このままでは生徒会長は精神に異常をきたす恐れもある。
少しばかりは希望を与えてやらねば......。
「そういえば、光ちゃんが言ってましたよ。『お姉ちゃんに友達が出来て嬉しい』って」
「何? ほ、本当か?」
「ええ。だから、あと少し頑張りましょう。光ちゃんの為に......」
生徒会長は水を得た花のような満面の笑みを見せる。
あの生徒会長も人の子。
誰にだって弱点というものはある。
生徒会長の弱点は光ちゃんなのだろう。
「じゃあ、俺はこれで失礼します」
「あ、あぁ」
どうやら、生徒会長の精神は想定よりもすり減らされている。
生徒会長がダウンしてしまえば計画事態がおじゃんとなってしまう。
やりたくはないが、プランの軌道修正を考えないといけないな。
俺は、生徒会室を足早に出て、ある場所に足を回した。
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