1-6. 俺の妹はいつも急

 俺とポプラの通っている高校は丘の上にあり、恐らく、この町で一番高度が高い位置に立っている。

 つまり、駅から歩いてには割と長めの坂を登らなくてはならない。

 万年運動不足の俺からしてみれば学校に来るだけでHPの半分を消化してしまう。


 この高校は共学だが男女比は何と3:7で女子が圧倒的に多い。

 30人のクラスだとしたら20人は女子という女子と喋るのが苦手な人間からしてみれば地獄のような学校。

 俺はボッチでコミュニケーションが少し苦手だが女子と喋るのはポプラという妹がいるおかげで別にそこまで苦痛ではない。

 不良が少ない+家から近いという事で穏やかな生活を送れると考えていたのだが、不良はいるし、駅から近くても坂が辛いし、そして、何より、女子は蝉のように五月蝿く、野生の猿のように暴力的だった。


 何故、この学校の男女比が逆転しているのか。

 それはこの高校の制服が可愛く、それを着たいという女子が集結するからだ。

 スカートは赤と緑のチェックでリボンも胸元についている。

 そして、校則も緩いので割と制服を改造しても怒られない。

 この辺の女子中学生の間ではこの高校に行くのは一種のステータスでもある。

 女子が集まるという事はそれなりに可愛い子も集結してくるので、入学式からしばらくは芸能界のスカウトも校門前で目を光らせている。

 恐らく、この高校の卒業生で編成したアイドルグループであれば某有名アイドルグループよりも個々のスペックは高いだろう。


 ただ、そんな高校も良いことばかりではない。

 女子高だと男子がいない事で女子力が低下した女子が増産されるというが、正にそれがこの男女比逆転高校でも起きている。

 女子は地べたに座りながらメイクしてるし、廊下を大声で笑いながら駆け抜けるし......。

 俺の理想の高校生活は入学と同時に打ち砕かれた。


「ここか... ...」


 この学校は二つの校舎に分かれている。

 主に教室で受ける学科は東棟。

 理科や音楽などの授業を受ける教室は西棟にあり、渡り廊下を挟んで二つの建造物は立っている。

 ちょうど、アルファベットのHを想像してもらえると分かりやすいかもしれない。


 そして、先程、俺達がいた空き教室は西棟にあり、生徒会室は東棟。

 距離にして150m、時間にして5分程度で目的地に着いた。


 ___コンコン!


「はい。どうぞ」


 ノックすると女性の声が聞こえた。


「お姉ちゃんだ!」


 伊地知光は女性の声に反応。


「じゃあ、開けるぞ」


 ___ガチャ。


 扉の先には校長先生が座るような椅子に座っている黒髪ロングのおとぎ話に出てくるような美しい女性が座っている。

 背筋をピンと伸ばしている為か、胸元は豊かに見え、ポプラよりも形の良い胸を想像してしまった。

 さすが、高校三年生+生徒会長......。

 あまりにも大人びた風貌は現役JKのくせにOLがコスプレしているように見えてしまう。


「どうした? ええっと......。君は一年生の小鳥遊ポプラ君と......。その目つきの悪い男子生徒は誰だ?」


 生徒会長は大きなクリクリした目を細める。

 さすが、学校一の美少女と呼ばれるポプラはフルネームで覚えられている。

 まあ、俺は予想通りの反応。

 気持ち悪い男子生徒と罵られないだけマシかと目つきの悪さを指摘された事をソッと棚の上に置いた。


「おいおい。隠れるな」


 俺は後ろに隠れているロリをずいっと前に出した。


「......お姉ちゃん」


「ん!? 光!? どうしてここに?」


 自分の妹がここにいることに驚いたのか、生徒会長は椅子から立ち上がった。

 その時、花のようなフローラルな香りが室内を包む。


「ええっと。この子はどうもあなたが心配で俺達に依頼してくる為にわざわざこの学校に訪ねてきたみたいなんです」


「依頼??」


 ん?

 このロリに友達部を教えたのは生徒会長ではないのか?

 まるで、俺達の活動を知らないような表情だ。


「そう! 友達部への依頼だよ!」


「友達? ああ、そういえば、クラスの中で一時期話題になっていたな。うむ。そういえば、小鳥遊ポプラ君の双子の兄が部長を勤めているとか......。なるほど。君が兄か。うんうん。似てないな」


 生徒会長は俺を美術品のように下から上に舐めるように見る。

 並の女子であれば鑑賞料を頂くところだが、生徒会長に見られるのは悪い気がしなかった。

 出来れば、そのままご購入願いたい。


「あの。失礼かもしれませんが、少し聞いてもいいでしょうか?」


 人をこうモノのように扱うのだ。

 自身も少し無礼に扱われてもいいはず。

 これで「失礼は許さん」と言われたら一生をかけて呪ってやる。


「うむ。何かね?」


「生徒会長は友達いないんですか?」


「なっ!? 何言ってるんですか! お兄さん!」


 光ちゃんは音速のスピードでこちらを振り返る。

 どうせ、これを言わなきゃ始まらないじゃん。

 そして、生徒会長は狼狽える素振りもなく。


「実の妹の前で宣言するのもどうかと思うが......。まあ、致し方あるまい。そうだ。私は友達がいない」


「......お姉ちゃん」


 威風堂々と宣言する姉。

 そんな姉を不憫に思い、涙ぐむロリ妹。

 そして、何故か貰泣きするポプラ。


「お兄さん! お姉ちゃんに友達を作ってあげて!」


 光ちゃんは俺を人間だと思ってない可能性が現実味を帯びてきた。

 あのね? 

 お兄さんも生徒会長と友達になれるんだよ?


「恵ちゃん! 私と友達になろう!」


 ポプラは生徒会長の手を取ろうとするが、生徒会長は流れる雲のようにサラリとかわす。


「すまんね。小鳥遊ポプラ君。私は今、そういうのは求めていない」


 生徒会長はまるでポプラに新聞を勧誘する為に家に訪れた人を一蹴するように微笑した。

 その瞳には一点の曇もない。

 ああ、何となくだが光ちゃんが言っていた事が分かる気がする。

 そうか。

 生徒会長は俺と一緒で心底、人に絶望しているのだ。

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