第18話 vs 生徒会×手品師
「あらら、人が多いことで」
7月31日、夜7時。私たちの地域の夏祭りは神社の境内で行われる。敷地は随分と広いので、さまざまな屋台が立ち並び、浴衣を着た女の子たちを含め、たくさんの人たちがお面をつけたり食べ歩きしたりしながら楽しんでいた。
「あれ?」
人ごみの中、私は見知った顔を発見する。最初は見間違いかな、と思ってしまうほど、この場にいることにちょっとびっくりしてしまうような人だった。
「
「・・・ん、堤・・・」
ちょっと腐り気味の生徒会会計、山石井祐樹。
「へぇ、山石井くんも夏祭り来てたんだ。何か意外!」
たくさんの人がいる中話すのも大変なので、ちょっと脇の方に移動する。
「んだよ、意外って・・・。俺がこんなリア充どもの巣窟に来るはずがねぇとでもいいてぇのか?」
「まぁ、正直に言えばね。だって山石井くん、いっつもそういう人たちの悪口ばっかり言ってるんだもん」
いちゃつく人を見付けちゃあ、刺すように睨んでるもんね・・・。
「どうしたの?少しはカップルの子たちを認めるようになった?」
「別に・・・。ただ、別れねぇかな、って怨念を送ってるだけだ」
「いつも通りなのね・・・」
怨念ってどうやったら送れるんだか・・・。
「あのねぇ、夏祭りにわざわざ足を出向いて来たんなら楽しみなよ!じゃないと損でしょ?」
「心配すんなよ、ちゃんと楽しんでるから」
「ホント?」
「夏祭りにテンションあがって、ちょっとでも彼女に近づきたくていろいろ頑張った結果空回りして最終的に彼女からの評価を下げている彼氏を見たりな・・・」
「陰険!!腐りすぎだから!!」
どんな楽しみ方してんだよ!!
「夏祭りだってのに些細なことで喧嘩しているカップルとかを見たり・・・」
「もういいから!!何でそんな穿った見方するかな、大体!」
「そもそも夏祭りなんて、『私たち青春を謳歌してます』っていうのをアピールして俺たちみたいな陰キャラの心をへし折ってやろうっていうS共の集まりに過ぎないわけだし、しかもそう言う奴らは・・・」
「だーかーらー長いからー!!毎秒腐ってんじゃねぇっての!!」
夏祭りは純粋にみんなが楽しむイベントだから!!
「・・・あ、そういえば・・・」
「ん?」
「浴衣、着てるんだな・・・」
「お」
山石井くんが自分から話題を私の浴衣に変えた。正直、気づくのは遅すぎると思うけど・・・。でも、腐りから脱却してくれたんなら、苦労して浴衣を着た甲斐もあったよ。
「どう?似合うかな?」
私は袖を持って、くるりと一回転してみる。
「・・・馬子にも衣装って感じか・・・」
「何で嫌なこと言うかな・・・」
私、現実に言われたの初めてだし。
「そこは嘘でも似合ってるね、ぐらい言えばいいでしょ!」
「じゃあ、似合ってる」
「じゃあ、て」
褒めるの下手くそだっての。
「で?今から、竹馬といっしょに祭を回るのか?」
「あれ?何で知ってるの?」
「あいつが嬉しそうに話してたからな」
私が風邪をひいたとき、幼馴染の智大は看病をしてくれた。そのお礼として、今日の祭りを一緒に行くことになっていた、んだけど・・・。
「実はねぇ、今度はあいつが体調崩しちゃって、今日行けないんだってさ」
「・・・はぁ、何やってんだ、あいつ・・・。折角のチャンスなのに・・・」
「・・・?チャンスって?」
「いや、別に」
何か計画あったのかな、智大のやつ・・・。
「まぁいい。俺はそろそろ帰るぞ。『リア充ざまぁチャージ』も多少はできたしな」
「なにその腐りワード!?」
もうちょっと楽しく生きれないもんかね、こいつは・・・。・・・よし!
「じゃあさ、山石井くん!私と一緒に祭回ろうよ!」
「はぁ?」
「だって終始腐ってるんだもん・・・。夏なんだからテンションあげてさ!」
「・・・お前、ホントずるいよな・・・」
「何が?」
「・・・別に」
こうでもしないと夏祭りに悪いイメージばっかりつくからね・・・。でも、渋々って感じの割にはまんざらでもなさそうじゃん!
* * *
そこから私と山石井くんは祭を一緒に回った。人が多くて賑わっている中、いろんな出店に顔を出す。所々にある提灯が雰囲気を醸し出し、ただこの空間にいるだけで楽しくなってくる。
「ほら、いいでしょ?こういうのって」
「人前だろうが・・・。もっと淑やかにしろ、淑やかに・・・。アピールしたところで誰もお前らなんか見てねぇよ・・・」
「いや、過去何があったんだよ!?」
先祖代々・・・くらいの勢いで妬んでるし!!
「山石井くんさぁ・・・」
「やぁ、お二人さん」
私が彼にまた軽く説教をしようとする時だった。物凄く分かりやすい声が私たちのことを呼んだので、私たちはぱっとその方向へと振り向く。
「諏訪くん!」
「諏訪・・・」
美声の手品師・諏訪圭吾。
「今は二人でデートかい?」
「いやいや、さっきたまたま会ったからさ、一緒に回ってるだけで・・・って痛ぁ!!」
急に山石井くんが私の背中をこずく。
「えっ、なに!?」
「・・・別に・・・」
「あはははっ。まったく、人騒がせな子猫ちゃんだね」
「子猫ちゃんて!!」
よく人前で照れずに言えるよなぁ・・・。
「その浴衣もとっても似合ってて綺麗だよ」
「あ、これ?」
何で私がこずかれたのは分からないけど・・・まぁいいか。
「うん、着付けしてもらってね。ありがと!」
諏訪くんはキザ。ちょっと私は苦手だったけど、その分褒めるのは自然で上手い。
「ほら、分かる?山石井くん。こんな感じでさらっと言えばいいんだから。参考に・・・」
「ボクの子供を産んでほしくなるくらい綺麗だよ」
「ド直球のセクハラ!!」
良い声な分、何か余計に卑猥に聞こえるんだけど!!
「違うよ、山石井くん!これは参考にしちゃ駄目だからね!!」
「分かってるよ、それくらい」
「はぁ、まったく・・・。ところで諏訪くんは何してるの?」
私たちと諏訪くんは、直接話しているのではない。屋台越し、つまり、諏訪くんが店主として会話をしていた。
「ボク、ここで手品ショップやってるんだよ」
「手品ショップ!?」
改めて屋台の看板を見ると、大きく“手品屋”と書いてあった。
「え、親の手伝いか何か?」
「ううん、ボクの独自展開だよ」
「なにその経済力!?」
夏祭りに屋台たてられるって・・・。どんな
「ここでは手品グッズを売っていて、ボクが実演でマジックを披露したりもしててね」
「へぇ~、本格的だね・・・」
諏訪くんは声がいいから、こういった営業みたいなのは上手なのかな。マジックの腕も確かだし。
「試しに一つ見せようかい?」
「あ、じゃあ・・・」
っと、ちょい待ち。腕は確かだけど、そういえば諏訪くんのマジックの目的って、女の子と間近でスキンシップできる、みたいな不純な理由だったな・・・。
「いや、やっぱ遠慮しておくよ、今は・・・」
「何だ、残念。勝手にその浴衣の帯が外れる手品をしようと思ってたのに」
「いや最低か!!」
彼ならできそうで怖いよ・・・。
「相変わらずだねぇ、諏訪くんも・・・」
その後、その甘い声につられてか、たくさんの女の子たちが諏訪くんの元へと集まってきたので、私たち二人はお暇させてもらうことにした。さて、次はどこに行こうかな・・・。
「・・・なぁ、堤」
「ん?なに?」
「もう帰るわ、俺」
「え、もう!?」
まだまだ夏祭りは始まったばかりだけど!?
「このままここにいたら、リア充共のオーラに押しつぶされて死にそうになる」
「いや、リア充の方たちにそんな能力無いから・・・」
要は疲れたってことね。若干強引に私が連れ回しちゃったし。
「・・・まぁ、とりあえずは楽しかった。ありがとな、堤」
「はい、どういたしまして」
ま、少しくらいは妬みの気持ちを減らせたかな、と思う私だった。
to be continued...
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