第17話 vs ボクっ娘×浴衣

「じゃあ、よろしくね、亜戸羅ちゃん」

「うん、ボクにまっかせといて!」


感夏かんか祭。私の地域で開催される夏祭りで、夏に感謝する祭で感夏祭。もう何百年も続いていて、他の地区からも大勢の人が集まるほどの大規模のものになっている。そんな夏の一大イベントには、女の子としては浴衣を着て参加したいものだよね。


「でも凄いね、浴衣の着付けできるんだ」

「あ、浴衣に限らず、コスプレ服全体の着付けはできるよ」

「日本の伝統服装をコスプレというのはどうかと思うけど・・・」

今は、ボクっ娘の写真部、牟田亜戸羅ちゃんに頼んで浴衣を着付けしてもらっているところ。・・・まぁ、頼んだ、というより、浴衣着るなら是非ボクにやらせて、ってことで頼まされた、ってことなんだけど。どうやら、いろんな女の子の浴衣姿を写真に納めたいらしい。

「ホント、眼福だよ~、女の子が好きなボクとしてはさ!」

「相変わらず男の子みたいな発言をするよね」

「そりゃそうだよ!だってボクは・・・」

「もういいよ、そのノリ・・・」

この子、いっつもボカすからね、もう女って決めつけて付き合わない方が楽だし・・・。


「はい、できたよ!」

適当に話していると、どうやら着付けが終わったみたい。

「わぁ!」

それは、浴衣にしては珍しく白と黒を基調にしてあって、下半身はちょっと足が見えすぎなんじゃないかってくらい短かった。全体的にフリフリとした感じで、ワンピースの上にエプロンをして・・・って・・・。


「これメイド服じゃん!!」


「似合う~!!」

「似合う~、じゃないから!!おかしいと思ったよ!だって浴衣ってこんなに丈短くないし!頭にカチューシャみたいなのついてないし!!」

なに勝手にメイドにしてくれてんの!?

「え~、前約束したよね?コスプレ撮影会でメイド服着てくれるって」

「あれは約束じゃなくて一方的なこじつけでしょ!?」

「というより、着せられるまで気付かないのもどうかと思うよ?」

「うっ、そ、それは・・・」

だって、完全に身を任せてたし・・・。そもそも、まさかメイド服を着させられるなんて思わないし・・・。

「とにかく脱がせてよ!」

「じゃあ撮らせて!」

「はぁ・・・?」

「脱がせてほしいなら、一枚撮らせて?」

どこまでもちゃっかりしやがってからに・・・。

「分かったよ・・・。はい、どうぞ・・・」

仕方ないなぁ、ホント・・・。

「違う違う、そんな普通の感じで撮っても面白くないって」

「えぇ・・・?」

「ポーズ決めて、ノリノリでやってよ!」

「これ以上辱められてたまるかいっ!!」

ぱーん、と私は頭のカチューシャを地面に叩きつける。

「もういい!自分で脱ぐから!」

最初からこうすれば良かった。一個頼んだら一個頼み返してくるんだもん・・・。

「・・・あ、あれ?」

え、これどうやって・・・。メイド服ってこんなに脱ぎにくいものなの!?

「あ、一つ言っとくけど、それ、素人じゃ簡単に脱げないような特別仕様だから」

「特別仕様!?」

あー、もう、面倒臭い!

「・・・分かったよ・・・。で?どうすればいいわけ・・・?」

これは着せられた時点で私の負けだよ、ホント・・・。

「じゃあこれつーけて」

「・・・」

前、ウサ耳つけたことあったよねー。今度は猫耳かい・・・。どうせ逆らっても意味ないしね・・・。私は大人しく着ける。

「かわいいいいぃぃぃ!!」

めっちゃテンションあがってるんですけど・・・。

「いい!すごいいい!!よし、じゃあ後はポーズ!」

メイド服だけでも恥ずかしいのに、さらに猫耳って・・・。

「って、ポーズ・・・?」

「耳ぐらいの位置で両手を丸めて、そして、片足をあげて!」

全部やらせる気なのね・・・。ホント、後で覚えてろよ・・・。

「そして声!『にゃあ』って」

「静止画でしょ!?声、入らないじゃん!」

「こういうのは雰囲気だから。お願い、やってよ~」

・・・むぐぐ・・・。

「・・・にゃ、にゃあ・・・」


「あ~~~~~~っ!!」

何やってんだよ、私はぁ!!私は顔を真っ赤にして座り込む。

「まぁまぁ、見てみてよ!自分でもびっくりするくらい可愛いから!」

彼女はデジカメで撮った私の姿を見せる。

「~~~っ・・・」

「ね、似合ってる!」

「恥ずかしいってぇ・・・」

そこには私とは思えない姿が映っていた。似合ってない、とはいえないけど・・・。

「ふー、すっきりした。よし、じゃあ祭行こうか」

「待てやぁ!」

「へ、なに?」

「いやいやいや、行けるわけないでしょ、こんな恰好で!!なに仕事終わったみたいな顔してるの!?」

「大丈夫、可愛いって!」

「そう言う問題じゃないの!!私たち今から祭行くんだよ?ハロウィンならともかく、夏祭りをメイド服なんてずれてるから!」

大体、メイド服を脱がせてもらうために写真撮影したんだし!

「・・・なるほど、ハロウィンならその格好もやぶさかではないんだね?」

「えっ?」

「よし、じゃあ今度のハロウィンはもっときわどいメイドコスさせてあげる!」

「いや、違うって!!そういう意味じゃないから!!」

この子、ちょっと隙あったら入り込んでくるじゃん・・・。


「え~~~!?」

「本気で残念そうな顔しないでよ・・・」

結局、着付けしなおしてもらうことになった。いや、当たり前だけどね?

「今度は別のコスプレとか、そういうループはいらないからね」

「はいはい、分かったよ」

彼女はしぶしぶメイド服を脱がし始める。まったく、浴衣を着るだけでなんでこんなに疲れるかな・・・。


ぷちっ。


「・・・ん?」

何、今の音・・・。

「あー、つつみちゃんのブラって、ボクと同じくらいか・・・」

「って、おいっ!!」

亜戸羅ちゃんの手には私の下着が握られていた。

「何してんの!?」

何、当たり前のようにブラまで外してるの!?

「え?だって浴衣は下着着ないものでしょ?」

「あのね、私外国人じゃないんだから、『浴衣の下には何もつけない』っていうのが常識じゃないのは知ってるから・・・」

「ちっ」

「今、舌打ちしたよね?」

正直に生きてるなぁ、この子・・・。


* * *


「はい、これで完成!」

「やっとだよ・・・」

私はようやく浴衣の着付けをしてもらった。もちろんきちんと下着も身に着けている。祭は今からが本番だっていうのに、その前で死ぬほど疲れたな・・・。

「じゃあ、ボクも後から行くから、先に向かってて!」

「はいはい・・・」

本人に悪びれる気、一切ないもんね・・・。逆に清々しいわ、何か・・・。


さて、今年の夏祭は、平和に過ごせることやら・・・。


to be continued...

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