第36話 vs 泣き上戸系ハーフ
「ちょっと聞いてよぉ~」
「・・・また何かあったの・・・?」
出席番号37番、ラメントル和花。
「実はさぁ・・・。うぅ~・・・」
「泣くの早いって・・・」
綺麗な顔立ちと、赤みがかった茶髪。そして、すらりとしたスタイル。初対面の人が見ても、完全に日本人の特徴とは違うそれらを持った彼女は、スウェーデンの父親と日本人の母親を持つハーフ。テレビのイメージもあって、私たち純血の日本人から見たら、羨ましいと思う対象なんだけど・・・。
「もういや~・・・、世間嫌いぃ・・・。みんなハーフに何求めてるわけぇ・・・?」
「聞いたげるから泣かないでよ・・・」
どうやらハーフからしてみれば、日本人が抱くイメージは勝手なものが多くて困るらしい。結構な頻度でうなだれて、愚痴を私にこぼしてくる。
「この前さぁ、部活の大会があって会場に行ったの・・・」
「ああ、それだけで大体分かった」
和花ちゃんは将棋部、ばりばりの日本競技に参加している。彼女曰く、どうにかしてハーフのイメージから離れたかったらしくて将棋を選んだらしいんだけど、『美人ハーフ棋士』なんてレッテルを貼られて目立っちゃったからね・・・。
「入った瞬間ざわざわってなって・・・。対戦者と相対したらその人も少し驚いて・・・。そしてよろしくお願いします、って挨拶したら、『日本語上手・・・』って顔をして・・・」
「・・・あたりめぇだろ!!日本人だっちゅーの、こちとら!!」
・・・あ、スイッチ入ったね、これ・・・。
「日本で生まれて日本で育ってんだよ!!『うわー、流暢な日本語ですごいなぁ』じゃねぇよ!!」
「和花ちゃん、口悪くなってるよ・・・」
彼女、興奮したら乱暴な言葉遣いになる。まぁ、訂正してもすぐには治らないんだけどね・・・。
「で!大会が終わってみんなでカラオケに行ったの!」
「みんな、って、将棋部?」
「あとライバル校の子たちと!そしたら今度は私に質問攻めだよ!もう聞きあきてんだよ!毎回同じ質問プラス同じリアクション!」
まぁ、100万回くらい言われた、って案外比喩じゃないかもだしね・・・。
「え、その顔で『和花』!?そうだよ、この顔で和の花だよ!悪いかよ!?」
「いや、悪くないよ、うん」
机に伏して泣く彼女の頭を撫でてなだめる。お母さんかよ、私・・・。
「誰だよ、カラオケで真っ先に『We are the world』入れた奴!ベタのことしてくんなよ!歌えるけど私が好きなのはボカロだっての!!」
「いや歌えるんかい・・・。しかも好きなのボカロなの?」
まぁ、日本人らしいっちゃらしいけど・・・。
「演歌もいける」
「いけるのね・・・」
幅広いレパートリーだな・・・。
「誰だよ、カラオケ店でガスパチョ注文した奴!好きな食べ物は寿司とお好み焼きだよ!毎日ガスパチョ飲んでるんだよね、ってんなわけねぇじゃん!味噌汁だよ、ちゃんと!」
ってか、今のカラオケってガスパチョとかあるわけ・・・?
「『ハーフだから料理とかしないんだよね?』じゃないわ!だから、って何だよ!ハーフが金持ちでお付きのシェフがいると思うなよ!甘藍の千切りもお手の物だよ!」
「・・・なに、かんらんって・・・」
「キャベツ」
「じゃあそう言いなよ・・・」
「だって下手にカタカナ言葉使ったら、『あ、こいつハーフアピってる』って思われるし・・・」
「いや思わないから!素直にキャベツって言えよ!」
さんざ今までカタカナ語使ってたし!ていうか、キャベツって日本語で甘藍っていうの?初めて知ったよ・・・。この子、ハーフ関係なく博識なんだよね、結構。
「あー、もう私も恋がしたいよー!!」
「え、何急に!?情緒不安定なの!?」
「そうだよ!」
「そうなのかよ!駄目じゃん!」
自分で認めるなよ・・・。
「だって!もう私ハーフの時点で恋愛から一歩遅れてるし!」
「・・・何で?和花ちゃん的には嫌かもしれないけど、ハーフって相当有利じゃないの?」
事実、和花ちゃん物凄く美人だし・・・。
「私がしたい恋愛は少女漫画のような、心ときめくものなの!キュンキュンしちゃうものなの!」
「よく分からないけど・・・。それがハーフなら何で駄目なの?」
「ちゃんと考えてみてよ!私、ハーフってだけで周りから綺麗だね、とか、可愛いね、とか言われちゃうんだよ?」
「贅沢な悩みだね・・・」
言われちゃう、って・・・。
「そう考えたら、私のことが好きな男の人っていうのは私の身体しか求めてないんだもん!」
「いやいやいや・・・。早とちりでしょ、それ・・・」
「どうせ私のことが好きな人なんて容姿でしか選んでないし!この子と性行為に及んだら日本人とは違う快楽が得られそう、としか思ってないんでしょ!?」
「いや被害妄想だから!そんなこと思ってないって!」
「悦ばせる自信はあるけどさ・・・」
「あるんかいっ!!」
根拠何なわけ・・・?
* * *
その後、結構な時間愚痴を聞かせれ続けた。辛いって嘆いて涙をちらつかせながら泣いて、なかなか聞くのも楽じゃないけどね・・・。ただね、何回か彼女の愚痴にのってるけど、いつも思う。そりゃあ本人にとっては嫌で大変なことなんだって自分に言い聞かせてはいるんだけど、将棋できて、歌上手くて、料理できて、おまけに美人ハーフって・・・。
「結局めちゃくちゃスペック高いのアピールされただけじゃん!!」
to be continued...
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