第34話 vs 文武両道系アクトレス

「別にこれくらい、私一人で・・・」

「ほーら、今更になっていろいろ言わないの」


出席番号23番、石園伊央。


「まったく、お節介な人ね・・・」

「はいはい」


容姿端麗で、スポーツもできて、勉強もできる。料理もできて、ピアノも弾けて・・・みたいな感じで、とにかく器用な人。ただ、何でも一人でしようとして、そして実際に、ほとんど一人でできてしまうから、あまり周りと協調したがらない。きりっとした顔つきであまり笑わないし、その喋り方から、周りを若干寄せ付けない雰囲気もある。だから、石園さんが苦手で、孤高の完璧少女パーフェクトガールなんて揶揄する人もいる。


「これは?ここでいいの?」

「ええ・・・」

今日も一人で、頼まれた膨大な量の資料の整理をしようとしていたから、私が無理やり手伝った。私個人としては、石園さんともっと距離をつめたいと思っているから、結構な頻度で話しかける。

「でも凄いなぁ、石園さんは。いろんなこと出来るもんね。多芸っていうか・・・」

「別に、大したこと無いわ・・・。全部、私の将来の為だし・・・」

「将来?」

「・・・決まってるじゃない。玉の輿に乗る為よ」

「た、玉の輿!?」

「そう、私は将来お金持ちと結婚したいの。そうすればもう安泰でしょ?遊んで暮らせるわ・・・」

率直すぎる理由!

「でも、お金持ちと結婚することは簡単じゃない。その人に気に入られないといけない。だから私は、その人のニーズに応えられるためにありとあらゆることに精通しておきたいの!お金持ちって性癖が歪んでいるでしょ?」

「偏見だってそれ」

「出来ないものは出来ないの。でも、出来るものを意図的に出来なくすることは出来る。理想の女性になることはできるのよ・・・」

「・・・」

「・・・ふふ、いいわよ、軽蔑してくれても。こんな話したら、将来働く気ないんだ、ってさんざ馬鹿にされたわ。でも、それが私の生き方だから」

「・・・凄い」

「え・・・?」

「いや、凄いよ、純粋に!全然不純な理由なんかじゃないって!だって石園さんが将来お金持ちになったとしても、それはあくまで将来の話でしょ?その将来に向かって今一所懸命努力してるんだから・・・。そんなこと、誰にでもできることじゃないって!」

「・・・な、何よ・・・。別にお世辞は・・・」

「本音だよ」

私はにこっと笑う。やっぱり、この子は立派だ。


「・・・本当に、お節介な人ね・・・」

ん?・・・今少し笑った?

「まぁ、もう少し話してあげようかしら。この髪、長いでしょ?」

石園さんはさらりと自分の手で髪をなびかせる。降ろしたら自分の腰ぐらいあるかな?女子の中でも相当長い。

「髪を伸ばしているのも、どの長さにでも調整できるからよ。逆は無理だもの。すぐに伸びるものじゃないんだから。本当は私、髪短い方が好きなの。手入れとか大変だし」

「あ、そうなんだ」

「私が下の毛を剃らない理由も同じ理由よ。本当は無い方がいいのだけれど」

「あー、そうなんだ・・・」

その情報は求めてなかったんだけど・・・。

「別にそこまで赤裸々に言わなくても・・・」

「いいわよ、今日手伝ってもらってるし・・・。お礼として受け取っておきなさい」

お礼なのか・・・?

「基本的に私は相手の人に合わせるつもりではあるけれど、もしも一つタイプを望むのなら、全身脱毛を許容してくれる人がいいわね」

「ただ一つがそれ!?」

他にもいろいろあるでしょうよ・・・。

「でも、全身脱毛をしている人って、間違いなく彼氏の趣味よね。剃毛って彼氏の許可あってでしょうし・・・」

「そうなの・・・?」

「そうよ、彼氏のフェチズムによるものよ。つまりはパ・・・」

「皆まで言わないでいいから・・・」

・・・何だろ、いつもより楽しそうに話すなぁ・・・。

「ふふっ」

私は思わず笑う。

「・・・あら、何よ急に。いやらしい人ね」

「そういうことじゃないから・・・。そうじゃなくて、石園さんとこんな話するの、新鮮で楽しいな、って」

「なっ・・・」

石園さんはちょっと照れた顔をする。

「ほら、そんな顔!可愛くていいじゃん。もっとみんなの前でもそうすればいいのに」

「ば、馬鹿にしないでくれるっ!?」

「本心だって」

「・・・ふんっ」

あ、ちょっと嬉しそう。

「・・・いいのよ、私はこれで。こういった凛々しく隙が無いキャラが一番難しい。これをベーシックにしておけば、後はどんなキャラにでも崩せるんだから」

「そうなの?自由自在なキャラクターは難しいでしょ」

「何の為に私が演劇部に入って自分の演技に磨きをかけていると思っているの。ありとあらゆるキャラクターを網羅しているわ」

「え~、ほんとぉ?でもやっぱり自分の根底の性格が勝っちゃうんじゃないの?」

「あら、見くびられたものね。いいわ、そしたら何か一つリクエストしてごらんなさい?」

「リクエスト?」

「ええ、できるだけ一般的なものじゃないのがいいわね。その方が証明できるし」

「う~ん、キャラねぇ・・・」

あんまりよく分からないんだよな・・・。まぁ、ぱっと思いついたものでいいか。

「じゃあ、不思議ちゃんとか?」

「・・・成程ね。じゃあシチュエーションは、家で待っている夫に対する、帰宅した妻ってことでいいかしら」

「あ、じゃあそれで・・・」

流石演劇部、細かいなぁ・・・。

「じゃあ、いくわね・・・。すぅ・・・」

一つ、石園さんは深呼吸をする。


「ただいまぁ~!旦那さまが大ちゅきな伊央が帰ってきましたよ~!ぽよ~☆」


「・・・・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・。

「・・・」

・・・えーと、目の前には満面の笑みで、片足をあげつつ、ウインクしながら片手のピースサインを目の横にあてる、絶賛キャラ崩壊中の石園さん・・・。

・・・・・・・・今、何の時間だっけ・・・・・・。


「うんっ・・・」

石園さんが咳払いを一ついれ、表情とポーズを元に戻す。

「・・・堤さん、何かコメントをくださるかしら。

・・・死にたくなるから」

「あっ、ご、ごめん・・・。えーと、その・・・」

「・・・」

「・・・」

気まずすぎる沈黙が流れた。

「・・・あの、ホント・・・、不思議ちゃんなんてリクエストして、すいませんでした・・・」

半ば土下座したいくらいの気持ちで深々と頭を下げる。

「・・・いいわよ・・・。そもそも、私がありきたりじゃないものをリクエストしたんだし・・・」

「あっ、でも、どこからどうみても不思議・・・んぐっ」

「・・・それ以上そのことについては言及しないで。

・・・身投げしたくなるから」

「・・・」

私は口を塞がれたままコクンと頷く。


それからしばらく、無言でもくもくと作業する私たちだった。ある程度メドがついたところで、石園さんが口を開く。

「堤さん、もし私のことを気にかけてくださるのならば、私を一人にしてくれないかしら・・・」

「あ、うん、分かった・・・」


「・・・悪いことしたなぁ・・・」

私は部屋から出て反省した。耳まっかっかだったもんね、石園さん・・・。それにしても・・・。

「・・・ぽよ~・・・か」

私が限りなく小さな声で零したとき、だだだと背後から誰かが走ってくる音が・・・って、え!?

「い、石園さん!?」

「言ったわね、今・・・」

「い、いや!何も言ってないって!!」

すごい地獄耳!

「・・・やっぱり、このまま野放しにしておくのは危険ね・・・。記憶を消すしか・・・」

「怖いことさらっと言わないで!!」

って、右手に持ってるのスタンガン!?どこで手に入れてきたわけ、それ!?

「・・・大丈夫、ちょっと気絶してもらうだけだから・・・」

「ちょっとじゃないから、それ!何も言ってないし、誰にも言わないから!」

「ふーふー・・・」


息を荒げて、顔を赤くして、秘密を守ろうとする石園さん。本人にとっては嫌かもしれないけど、完璧少女なんて言われているイメージとは違った普通の女の子の一面を見れて、少し嬉しい私もいるのだった。


to be continued...

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